「オーナー」って響きいいですよね。なんかちょっと鼻高々って感じです。北アルプス山麓、立山の登山口として知られる大町市で、「りんごの木オーナー制度」が毎年人気を博していると聞き、訪ねてみました。 りんご畑に囲まれて育った私たちにとって、りんごの収穫は日常的な光景でしかありませんが、都会の皆さんはどんな風に感じたのでしょうか。
この度お伺いしたのは大町市でりんごの木オーナーを受け入れている小澤果樹園。園主の小澤治人さん(写真上)はJA大北大町りんご園主事業部会の会長を務めていて、この園で毎年100組ほどのオーナーを受け入れているとのことです。 この日もお昼過ぎころから次々とオーナーの皆さんが集まってきました。なぜお昼過ぎが多いかといえば皆さん遠方から来るから。名古屋など中京圏の方が一番多くて約7割、あとは関東・北陸方面が中心で、県内の方はほんのわずかだとか。それはそうですよね。
真っ先に到着したのが愛知県のHさんご夫婦とペットのワンちゃん。お二人はオーナーになって8年目くらいだそうですが、最初はご両親がこのりんごの木オーナーになり毎年来ていたとのことで、それも含めると親子二代で13年目を数えます。 休憩所でお茶とおいしい漬物で長旅の疲れを取った後、いよいよりんご園に踏み入って収穫作業です。木にはそれぞれオーナーの名前の記されたパネルが下がっており間違えようがありません。園のスタッフの方も必要に応じてサポートしてくれます。 小澤果樹園ではオーナー用のりんごの木はすべて「わい化栽培(あえて木を低く小さめに育てる栽培方法)」されており、とても収穫しやすそうでした。2、3人での収穫作業なら楽しみながらやって30分から40分くらいでしょうか。わい化栽培は太陽の光がムラなく当たりやすいので、この畑のりんご全体が同じようにつやつやと色づいています。もともと農作業の中で一番楽しい収穫作業が、このようにりんごの出来が良いと、もう言うことありません。
同じく愛知県からみえたYさんご家族はご夫婦とお子さん4人という大家族です。一番上の10歳のお嬢さんが生まれた年にオーナーになって以来毎年来ているといいます。世代を超えて伝わっていく感じが先のHさんと同じですね。 わい化されたりんごの木は子供でも楽に採れるので、親子での収穫体験にはもってこいです。
HさんもYさんも、長年にわたってオーナーになり続けるその魅力について「自分たちで採ったりんご、まさにそのりんごを食べられること」と言っています。農家にとっては当たり前な答えですが、大切でとても意味深いものではないでしょうか。 今年は春に凍霜害があり、台風も1回来て(幸い直撃ではありませんでしたが)一部落果がありました。園主の小澤さんは、そういうことをできるだけ説明するのだそうです。現実には完璧な天候の年はほとんどないし、毎年状況は違うし、1本の木の全てのりんごが完璧に実る年もありません。自分で収穫してみると中には傷が少しあったり、形や色づきが悪かったりするものも当然混じります。年によっての出来不出来もあります。 そういったことも含めてすべてを体験してもらいたい、というのが小澤さんの考えです。「りんごをスーパーマーケットで買うだけでは、そういったことは全然わからないままでしょ」という小澤さんのお話に、オーナー制度の魅力と意味はとても深いものがあることに気が付きました。
小澤さんがオーナーを受け入れ始めて約30年。1年目からずっと続けている方々もいて、その時小さかった子供が社会人になってまた来るようになったりと、その家族ごとに様々なドラマがあるみたいです。小澤果樹園では毎年入れ替わるのはたったの1割ほどと、リピーター率9割は驚きですが、現地で皆さんのお話を聞いてみると納得できるものでした。 収穫が終わったりんごは選果台で箱詰めして持ち帰りますが、ここから知人への宅配も頼めます。遠方から訪れる方の多くは白馬などで一泊し、信州を満喫してから帰途につきます。 JA大北大町りんご園主事業部会では12人の園主が年間370組ほどのオーナーを受け入れているとのことです。受け入れ側のキャパシティはもちろんあるのでしょうが、一人でも多くの方々がこういった体験をしてくれたらいいなと心から思いました。(つかはら)
りんごの木オーナー制度の概要 受付:毎年3月から4月頃 受付窓口:JA大北りんごの木オーナー事務局 おおよそのスケジュール:7月末から8月初旬ころ開園式があり、式の後現地に行って自分の木を選び、名前を書いたパネルを下げます。 収穫期には事務局より案内が行くので、指定された期間(今年の場合は11月5日から同20日)に収穫に来ていただきます 料金:わい化の木が26,500円(税込)おおよそ180個、普通樹が52,900円(税込)おおよそ400個 関連ホームページ JA大北営農部りんごオーナー事務局(JA大北サイト) 小澤果樹園
こちらは 2016.11.15 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
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