おいしいりんごを箱詰めして贈ったり、贈られたりする季節になりました。11月も後半になるとその主役は、りんごの王様「ふじ(サンふじ)」となっています。ふじは日持ちがいいので長~く楽しむことができますが、箱にあったりんごをすべて食べ終わったら何が残るでしょうか? 普通なら、ただの空っぽの箱ですよね。 生産者の皆さんがこの箱の底にメッセージを記し、このりんごが生まれた豊かな土地を紹介している地域があります。長野県北部に位置し、西に向かったなだらかで広大な斜面がりんごやブドウをはじめとする果樹で覆われた高山村です。 この高山村で、りんごの地域ブランドとして絶大な支持を得ている「信州高山さわやかりんご」の出荷拠点となっている共選所に伺い、高山ブランドの真実に触れてまいりました。
JA須高の荒井一矢さん
りんごを求める人で賑わう直売所
「今年のりんごは生育が少し早いけれど、着色も良く、出来はいいです」と話し始めたのは、ここ高山共選所で全体のマネージメントを担当するJA須高の荒井一矢さんです。 待ちに待った収穫期を迎え、共選所はただ今フル回転。一方、ここは直接販売もしているので、次から次へとりんごを買い求める人が訪れていました。 県内外のりんご好きが「高山」を指名して買い求めるには訳があります。荒井さんは「りんごが育つための絶好の条件がそろった地形・土質・気候のほかに、生産者ができる限りの手間ひまをかけていること」をあげました。生産者の手間ひまについては単なる掛け声ではなく、積み重ねられた様々な実績があります。 例えば、高山村は長野県でも最も早くから人工フェロモンを使った低農薬栽培に取り組んできた地域です。これは性フェロモンを枝に吊るすことで害虫の交尾・繁殖をかく乱してその繁殖を抑えようという作戦。なるほど周辺のりんご畑をよく観察すると、30cmくらいの長さのリングが枝から下がっています。
性フェロモンの赤い紐は1年に2回枝に下げられます
また、高山のりんご部会ではりんご全体に太陽の光を当てるため、りんごの実を回したり(玉回し)、果実にかぶさる葉を摘み取ったり(葉摘み)と地道な作業を徹底させているとのこと。 その結果、この共選所での選果ランクは4つの等級に分けられていました。通常は3等級に分けて選果されることが多いらしいのですが、ここでは最上級ランクに「プレミアム」という等級を設定し、続いて「特秀」「秀」「マル秀」と続きます。「プレミアム」とされるのは全体の約0.2%! 実に1000個の中から2個しか選ばれない厳しさです。このことからも高山の生産者の品質に対する"気合"がうかがい知れるというものです。 という訳で、その選果作業を見せてもらうことになりました。
軽トラックに乗せられて、収穫されたばかりのりんごが次々と運び込まれてきます。運び込まれたりんごは選果ラインに移され、一つひとつ人が手にとってランク分けされていきます - ここがポイント。
厳格な等級分け。この道25年のベテランも
等級分けされたりんごはここで大きさ別に分けられる
人の手と目によってランク分けされたりんごはそれぞれの列に置かれることになります。毎年部会で決められた厳しい選果基準は選果に当たる全員の共通基準となっているので、ずっと見ていてもプレミアムの列にはほとんどりんごが置かれないばかりか、特秀の列にさえなかなか置かれることがありません。基準を守る厳格さを目の当たりにして驚くばかりですが、秀やマル秀だって私の目にはみんな素晴らしいりんごにしか見えないのです。ちょっとした形の歪みや、葉や枝の陰で色づきが少しでも悪いとランクを下げられてしまうんですね。少しでも傷などがあるものはもちろん、お尻の部分の地色が抜けず食味が劣るりんごはランクインすら許されず、別のかごに入れられてしまいます。
贈答用の箱詰め前の厳しいチェック
極めつけは贈答用りんごを箱詰めする工程です。厳しい選果ラインをくぐりぬけてきたりんごたちは、ここでもさらに厳しく再チェックされます。どんだけ門を狭めれば気がすむんじゃ~、とりんごに同情すらしてしまいます。 それらのりんごが丁寧に緩衝材を巻かれて納められる特注の箱がまた感動モン。箱の底(内側)に生産者からのお礼の言葉が印刷されており、さらに箱の底(外側)を見てくださいとの但し書きに従い箱をひっくり返してみると、ここ高山村の素晴らしさを存分に盛り込んだ地図が描かれているではありませんか。
生産者やこの選果場で働く皆さんが愛するこの地域、そして、どこにも負けないりんごを生み出す気候風土、生産者の最大限の努力と想いを伝えようとする気持ちが強く伝わってきました。皆さん出荷するりんごに、本当に自信を持ってるんですね。こりゃファンが増える訳だ、と納得するしかありません。 この選果場の先には山田温泉をはじめとする良質の温泉地、絶景の松川渓谷、牧場やスキー場などがあり、りんご+温泉+絶景を目的に秋には遠方からとてもたくさんの人が訪れます。(つかはら)
■関連リンク JA須高 りんご部会高山支部 高山共選所
こちらは 2015.11.24 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
関連記事
りんごの頂点に君臨するプレミアムゴールド
チャンピオンの名にふさわしいすごいりんご
ふじりんごの守護者はこのように語る
りんごの王様の出番がやってきました
新着記事
ラディッシュの漬物サラダ
安曇野の畑から生まれるりんごを追いかけて~流通現場編~
粒がハート型!? その名は「マイハート」
いちじくのデザート