ムシムシとする暑い日は、少しホットな辛さのものが食欲も進んで美味しいですね。そこで、じんわりとした辛さが後を引いて、そして突然またこの辛さが恋しくなる、そんな食材を求めて、車を走らせ長野市内からおよそ1時間、県北部は斑尾山の麓、標高820メートル程の中野市永江地区に辿り着きました。
立ち並んだ木々の間から吹き抜ける風が心地良く下界の暑さからも開放されて、さてこんな涼しい場所に辛い食材があるのかしら? そう考えた矢先、目に飛び込んできたのが、一見するとピーマンのような、しかしピーマンよりもふっくらと丸みを帯びて大きくて、ひだのようにデコボコとした、そしてこれが食べるとじんわりと辛味が襲ってくるもので、その名前を「ぼたんこしょう(牡丹胡椒)」といいます。唐辛子の類ですが、実の形が牡丹の花に似ていることからこの名がついたとか。
ちなみにこのようなふっくらとした形のものは千曲川上流の山間部で古くから栽培されているもので、唐辛子の形としては大変珍しいそうです。永江地区のお隣、上水内郡信濃町とは隣同士、以前からぼたんこしょうの種をやりとりしていたそうですが、信濃町での呼び名は「ぼたごしょう」または「ぼたこしょう」と呼んで、ぼたんこしょうとまったく同じもの。さらにお隣の県、新潟・中越地方には「神楽南蛮(かぐらなんばん)」と呼ばれる、これまた形は長野県のぼたんこしょうによく似たものが存在するそうです。
唐辛子にはない魅力とは?
形こそ珍しいこの唐辛子、けれど唐辛子は至る所にあることでしょう。しかしこのぼたんこしょうが今、県内の料理店をはじめ首都圏からも注文が入るなど注目を集めているのは、他の唐辛子にはない魅力をこのぼたんこしょうが秘めているから。
「細長い唐辛子のような辛いだけじゃなくて、甘味、味があるところ。ピーマンに似た甘さ、それと辛さが一緒になっているのが他の唐辛子とは違うところだけど、辛さにすれば唐辛子ほど辛くはなく、甘味と旨みが一体化していて、しかも肉厚で食べ応えもあるんです」
地元「斑尾ぼたんこしょう保存会」代表の大内ふじ子さんがひと言では言い表せないというようにその味と魅力を教えてくれましたが、ちょっと辛いと感るその先に広がる、味わうほどにじっくり感じられる旨みの多いのがこのぼたんこしょうの持ち味なのです。
やたらがやたらうまい
ぼたんこしょうの食べ方といえば、ぼたんこしょうが採れる時期に、畑でとれる他の野菜と一緒に生のまま刻んで混ぜただけの生野菜のふりかけ「やたら」が地元には欠かせない夏の代表的な食べ方で、夏野菜の香りとピリ辛さが食欲を誘うこの一品は、平成20年度信州の伝統野菜料理コンクールで県知事賞を受賞しました。
左 やたら(刻んで笹の葉に乗せたもの) 右 こしょうみそ
生でも、また煮ても焼いても揚げても、意外にも様々な料理に合ってさらにレパートリーも広げてくれるぼたんこしょう。このぼたんこしょうが身近にあるこの土地の人は、この辛い食べものをしょっちゅう食べるのだそうで「お酒のつまみに「こしょうを焼いて」と家の人からよくリクエストが入るの」と笑って話してくれた大内さんですが、「トースターなどで焼くだけのその手軽な調理法が一番、ぼたんこしょうの美味しさがわかっておいしいんですよ」とも教えてくれました。
標高の低い場所では栽培がむずかしい
見た目にはピーマンと良く似ているぼたんこしょうですが、温暖な気候を好むピーマンに対してこのぼたんこしょうは、冷涼な気候で栽培されるのが特徴で「苗を購入して育てたけど、こんな形にならない」と言う声も多く聞かれるそうですが、標高の低い場所では上手く栽培することは出来ず、この土地で昔から作られてきた大きな形、そして辛さにはならないのだそうです。
信州の伝統野菜にも認定
このぼたんこしょうの歴史は古く、保存会の会員で現在栽培を行う人々が子供の頃からすでに食べ親しんでいたというのですから、少なくとも栽培歴は70年以上。そして信州の伝統野菜に認定されているこのぼたんこしょうは、永江地区(細かくは親川、梨久保、涌井の3地区)の標高650〜1000メートル程の場所で栽培されているものが、伝承的に作っている地域として認定されています。
そしてこのぼたんこしょうに数年前より保存会がたちあげられたのですが、それは「樹によって、形が潰れたり、細長かったり、また大きくならなかったりと様々な形で、これはいい種を取って保存していかないと、また辛みも薄くなるし、いいものが取れなくなると困る。昔からのものが変わっていっちゃうと困る」ということで会を作ろうかという話が持ち上がり「斑尾ぼたんこしょう保存会」が結成されたそうですが、良い種を採取して元来から生っている形状、そして一定の安定した辛さとなるように24名の会員が昔ながらのぼたんこしょうを守るための栽培に今、取り組んでいるところなのです。
辛味が弱いと感じたときは
ところが今年のこの暑さ、この気候の影響で、辛味が少ないことや、また辛いものと辛くないものと安定した辛さになっていないものが出来上がってしまっているそうで、「"思った程ちっとも辛くなかった""食べて辛くないからがっかりした"と買った人から言われるんです。ここのぼたんこしょうは本当はそうじゃないのに・・・」と、今年のこの暑さで、必ずしも大勢の期待に応えられない出来栄えのものがあることにガックリと肩を落とし、天候の影響を大きく受ける作物の難しさを教えてくれた大内さんですが、秋風が吹く頃には辛みも増してくるそうで「辛味が弱いと感じる場合は、種とその周りの綿の部分を中心にある辛味の部分を少しずつ加えながら食べてほしい」ということでした。
夏バテ対策に絶好の食べもの
ぼたんこしょうの栽培は7月下旬から霜が降りるまでと長期間にわたります。そして完熟したぼたんこしょうの実は赤くなり、それがまた辛味と甘味がより一層増して奥深い味になるのだとか。またぼたんこしょうはビタミンA、C、カプサイシノイド、ミネラル成分が豊富に含まれていますので、なかなか涼しくならないこの暑さと、連日の夜の寝苦しさに睡眠不足で夏バテ気味を感じている人には、ピッタリの食材ではないでしょうか。
皮膚の弱い人にご注意
そして忘れていけない点がひとつ。それは実はこのぼたんこしょう、素手で触ってそのままの手を顔などに触れると、顔がヒリヒリとしますから、特に皮膚の弱い人は素手で触らないように調理の際は手袋を着用するなど、取り扱いにはくれぐれもご注意をということでした。
レシピ こしょうみそ
何にでも使いまわしの効く保存食
〔材料4人分〕
ぼたんこしょう...2個
砂糖...80グラム
みそ...200グラム
青じそ...6枚位
〔作り方〕
1.ぼたんこしょうをみじん切りにする。
青じそは細切りにする。
2.鍋にみそ、砂糖を入れて弱火で混ぜる。
砂糖が溶けたらぼたんこしょうを入れて10分程練る。
青じそを加えてよくなじんだら出来上がり。
◆ポイント◆
大量に作る場合は、炒めたぼたんこしょうから
水分が多く出ますが、日持ちを良くするためにも
根気よく練って水分を飛ばしましょう。
ぼたんこしょうのお求め先:
道の駅 ふるさと豊田
〒389−2104
長野県中野市大字永江2136
TEL0269−38−2277
JAふるさと豊田農産物直売所
上記「道の駅 ふるさと豊田」に併設
TEL090−2257−1204
まだらおの湯
〒389−2104
長野県中野市大字永江8156―649
TEL0269−38−3000
もみじ荘
〒383―2102
長野県中野市上今井3460―1
TEL0269−38−3030