口に入れるとピリリと舌を刺激してひと癖ある、一般には名脇役とみられることの多い辛味大根。県北部の埴科郡坂城町には「ねずみ大根」と呼ばれる、大根の先端がぷっくりと太り、その先にはまるでねずみの尻尾のようにすうっと細長く伸びる根をもつ大根があります。
辛さの中にも後からふわっと漂う甘味、「あまもっくら」と地元の人はその味を表現しますが、このような地大根は地域の伝統野菜として一部のごく限られた地域でのみ細々と栽培され、これまではあまり他所へと出回ることがありませんでした。
ところがこの秋の深まりが一層する頃、ねずみ大根のふるさと・坂城町の呼びかけに、全国各地からはるばる信州の地へとさまざまな大根が集まり「全国辛味大根フォーラム」が開催されました。そしてこの時ばかりは、われらが辛味大根がホストとしてたくさんの大根を迎えてスポットライトを浴びました。
フォーラムには、辛味大根で地域の活性化を行なっている全国13地区(岩手、秋田、福井、京都、滋賀、大阪、そして県内からもねずみ大根の生産地である坂城町を含め7地区)の大根が結集し、各地での取り組みの紹介や食べ方等、情報交換が行なわれました。全国各地の辛味大根は、白以外にも赤色のもの、また形・大きさも蕪(カブ)のようなものなど土地により様々で見るも珍しいものばかり。そして気になるそのお味。大根ファンは、入り口のねずみ代官所発行「辛味大根味くらべ心得」の案内に従って、各地の辛味大根を味わえるのです。
辛味大根味くらべを堪能
まずは「ねずみ代官所」(受付のこと)で500円を払い、代わりに通行手形とお椀、箸を受け取ります。次にそのお椀を持って、そば、またはうどんのどちらかを選び、茹でたてを約40グラム程をよそってもらい、手持ちのお椀に入れます。そして次に「大根横丁」へと移動し、『あ、これ食べてみたい!』と思う辛味大根の前に行き、麺の入ったお椀を係員に差し出して、その中におろした辛味大根と麺つゆを入れてもらいます。そして大根を味わう証として、その大根の名前が刻まれた認印を通行手形に押してもらうのです。
こうしてそれぞれにおろし大根がのった5地区のおしぼりうどん、またはそばと、そして地元・坂城名物の「おしぼりうどん」(辛味大根の絞り汁に味噌を溶き、それにうどんをつけて食べるこの土地ならでの味わい方)を100グラム、計6杯でおよそ300グラムを堪能するシステムでした。
地域が育む地大根の奥深さ
食べ進んでいくうち、人間の心底に潜む『もっと辛いのを食べてみたい』という怖いものみたさ的な思いに突き動かされ、係員の「この大根はかなり辛いけれど大丈夫ですか?」の確認の声にも気をとめることもせず、結果あまりの辛さに口の中が火事状態となり、それ以降に食べた味がすっかりわからなくなってしまったという惨憺たる結果の人も少なからず。とはいえ全国の辛味大根は、辛さの度合いや素材の滑らかさもまちまちで、地域が育んできた地大根の奥深さを実感させられたひと時でした。
ねずみ大根を再認識
そしてやはり、地元のあまもっくらしたねずみ大根は、調和の取れた独特の味のバランスをここでも再認識。最近着々とファンを増やし、県外からの問い合わせも多いというねずみ大根ですが、大根を育てている地域の人は、「広く他所の地域に出すのではなく、この土地でとれたものを、この土地に来て食べてもらいたい」と願っていました。この土地でつくったものでないと本来の味にはならないといわれるねずみ大根。現在はこの地での生産者をじょじょに増やして生産量も増えてきているそうです。
もともとこの付近は二毛作として小麦が作られ、小麦粉を使った粉食の伝統がある土地。その小麦と一緒に、この辛味大根も育ってきたのです。大根が収穫される時期、寒さに凍える体を地元の粉で作った熱々のうどんと、辛さで体を熱くさせるこのねずみ大根の相乗効果によって、体を芯からホカホカとさせてくれるおしぼりうどんは、まさにこの地が育んだ味です。あの松尾芭蕉も、「更科紀行」の旅の途中で、「身にしみて大根からし秋の風」の句を詠み、この大根を食べたであろうとされるこのねずみ大根の味を、あなたも味わってみてはいかがでしょうか。
ネット注文も可能
とはいえ、本格的な冬を目前に、ねずみ大根の収穫も今年はそろそろ終わりを迎えようとしています。ねずみ大根はJAちくまがネットでそれを使ったおしぼりうどんの作り方とともに11月下旬まで注文販売を受けつけていますので、ご注文はお早めに。また売り切れの場合はご容赦を。来年をお待ちください。
ねずみ大根の購入案内サイト:
JAちくま ねずみ大根のページ