リンゴの産地・信州もいよいよ大詰め。シーズンの大トリを飾るリンゴの王様「サンふじ」が収穫のピークを迎えています。JAあづみリンゴ部会の部会長・榑沼和喜(くれぬまかずよし)さんの畑でも、真っ赤なリンゴが枝もたわわに収穫の時を待っていました。「今年は色も甘みも良いですよ」と榑沼さんが口を開きます。放射状に入った蜜はもちろん、甘みと酸味のバランスの良さとジューシーさは、まさしく日本一の「ふじ」の名にふさわしい味わい。「味重視で作っていますからね」と胸を張る榑沼さんのリンゴの畑で、安曇野りんごのおいしさの秘密を教えていただきました。
サンふじへのこだわり
榑沼さんの畑は安曇野との境にある松本市梓川。西に北アルプス、東には松本平を望む標高700mほどの地域にあります。畑のすぐ西は、安曇野市から塩尻市まで南北約32kmを結ぶ「日本アルプスサラダ街道」と呼ばれる野菜や果物の畑が続く観光道路。榑沼さんの畑も安曇野から続くリンゴ畑の中のひとつで、父から受け継いだ2・5haのリンゴ畑のうち1haで「サンふじ」を栽培しています。ちなみに「ふじ」は有袋、「サンふじ」は袋をかけずに太陽の光を浴びたリンゴのことです。安曇野のリンゴはほとんどが「サンふじ」です。
リンゴ畑にうかがって驚いたのは、果樹の低さでした。一番高い木でも3mほどです。元来、リンゴの木は高いものだと4m以上は成長するのですが、それでは作業効率が悪く、品質の安定化も図れないことから、樹木をコンパクトにして収量を多くする、わい化栽培が進んできました。榑沼さんの畑では、長野県果樹試験場が品種改良を進めたわい性台木での栽培を、15年ほど前から取り入れています。これで、花摘みや摘果、収穫などの手作業が「70〜80%は脚立に乗らずに立ったままできます」。
リンゴひとつひとつと対話するように、とにかくリンゴの栽培は手作業が多いのです。5月に開花すると、まずは花摘み。6月には予備摘果、さらに7月に摘果。9月中旬ころからは、まんべんなく太陽光が当たって色づきを良くするための葉摘み。さらに、陰ひなたなく赤みが着くように1個ずつ太陽の方向を向ける「玉回し」という作業をし、収穫を迎えます。
地面に反射シートを敷かず、空からの太陽の光だけで果実を赤くするのも安曇野リンゴの特徴。寒暖差が大きく、国内トップクラスの日照時間を誇るなど、安曇野地域にはおいしいリンゴが実る条件がそろっていますが、農家の人がリンゴ1個1個と対話するように状態を見極め、心を込めて手をかける作業があるからこそ味の良いリンゴが育つのです。「安曇野は長野県内の産地としては後発の地域。だからこそ、味を大切にしたい」と榑沼さん。
おいしいリンゴを食べてください
榑沼さんの息子さんで、JAあづみ果実課で技術指導をしている友和(ともかず)さんに、熟したおいしいリンゴの見分け方を教えていただきました。「リンゴの底を見て、アメ色(濃い赤色)になっている方(左)が熟している証拠です」(ただし、反射シートで下から太陽光を反射させて育てたリンゴは見分けが難しいそうです)
JAあづみ管内では、本年度は764人のりんご部会員が438haの畑のうち半数以上の221haで「ふじ」を栽培しています。今後約51万ケース(1ケース10kg)を出荷予定です。収穫は今月末ころまで行われ、12月下旬ころまで全国の市場へ届けられることになります。