なぜ卒業式に間に合うように桜が咲くのか

 

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長野県では先週の土曜日に大雪が降ったあとは気温があがり、「また、一歩春に近づいたのかな」と感じさせる日が続いています。卒業式シーズンももうじき。桜の本格的なシーズンの前に、暦にしたがっておこなわれる卒業式を彩るため、あらかじめ暦にあわせて咲かせるように桜の花を育てている組織が、実はあります。

JA須高(須坂市)の「花木ふかし利用組合」がその組織です。花木は「かぼく」と読みます。「かぼくふかしりようくみあい」ですね。花木とは、桜、梅、桃など、枝に花がついているものを指していて、同じ花でも、菊やアルストロメリア、カーネーションなどの草花と区別します。また、「ふかし」は、ふかしイモなどと言うイメージの通り、温室内で温度と湿度を加え、花木の成長をコントロールすることをいいます。まあ、いかに温暖化が進んでいるとはいえ、卒業式が行われる3月前半には寒くてまだ桜などの花は咲きませんから、暖かい温室内で、うまいぐあいに3月に花が咲くよう狙いを定め、成長を促しているわけです。

しかし、あまり急激に温度を上げると、真っ白な花が咲いてしまうため、そこは気をつけながら、じわじわと温度を上げてピンクがかったきれいな色に仕上げていかなくてはなりません。「ふかし」用の施設は、冬場は使われない水稲の育苗施設を使っていて、今年は12月下旬に「ふかし」用に準備を整え、1月下旬から花木の受け入れをはじめました。2月15日頃から3月末までに、東京や大阪などへ5000束(一束10本)を出荷する予定です。

せっかくの農地が山林になってしまわないように
もともと花木の栽培は遊休農地の山林化を防ぐことなどを目的に、2001年頃からJA須高の地域内の3地区の花木組合で順次行われてきました。生産者の高齢化などで、維持できなくなった畑をみすみす山林化させないために、この取り組みははじまったのです。

当初、10品種ほどの候補の中から、ベニヒガンザクラをメインにすることが決められました。ベニヒガンザクラを中心にしたのは、生育にあまり手がかからず、高齢者でも育てることができることなどの理由からです。利用組合の組合長を務める山崎正光さんは

「結果として品目を絞ったことは正解だった。手間のかかる品種は高齢者には手が出しづらい」

と話します。

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桜の枝が出荷できるようになるまで
木を植えてから本格的に枝を出荷できるようになるまでには最低でも7〜8年ほどかかります。それまでは木を育てるために枝を切ることが中心で、その中から出荷できるものを出荷するという形でした。そして、木が大きくなるまでの間に困るのが獣害です。

畑が山に近いこともあって、サルやシカ、イノシシ、ウサギなどがやってきては、芽や皮や根を食べてしまうのです。木が成長するにつれ、植物も動物たちに負けなくなるそうですが、若木のうちは大いに悩まされるそうで、確かに写真撮影にうかがった畑の周りにも動物の足跡がくっきりと雪上に残っていて、彼らが頻繁に出没する様子が想像できました。

桜の枝はすべて切ってしまうわけではないので、春になると残った枝にきれいな花が咲き、畑一面がピンク色に染まります。ここで花見をする人たちも多く、山崎さんは「地域活性化にもつながるのではないか」と期待します。

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枝全体のなかの一輪の開花が目安
ふかし施設の中で育てられている桜は、つぼみの先がきれいなピンク色になり、枝全体のうち一輪が開花するかしないかくらいがが出荷に適した時期だといいます。その後は、花屋さんなどで半日から一日暖めると、だんだんと咲いてくるのです。あまり暖めすぎると一気に咲いてしまいますから、涼しいところに置いて調節したりすれば、3分咲き、5分咲きと少しずつ咲いていく様子も楽しめるそうです。

卒業式を飾る桜の花枝が、貴重な青春の1ページを少しでも美しいものにすることができれば、嬉しいですね。

 

 

 

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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