だから花のない季節に花の咲く花木を育てる

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桜の開花は、信州では平年よりも5日以上早まるとのことで、今月下旬には県内観測点で最も早く、南信州飯田市天竜峡での開花が予想されています。卒業シーズンのこの時期にかかせないものといえば桜の花ですが、まだまだ寒さの残る信州のまん中松本の地において、花のない季節に桜などの花木を生産しているグループがありました。

松本市の南東部、JR松本駅から車でおよそ20分の山あいの地、中山地区にある「JA松本ハイランド中山花木部会」のみなさんを紹介しましょう。花木(かぼく)の中でも、こちらでは主に桜やレンギョウ、ユキヤナギ、ミズキ、ボケなどの華道の稽古ものを中心に、農閑期である12月から卒業シーズンの3月中ごろまで、色とりどりの花枝を、東京や名古屋の市場を通じて出荷しています。

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小麦の青さが目立つ転作田や急傾斜の坂道を駆けあがった先にある、会長の山本純雄さん(69)のハウスにお邪魔をし、ベテランの副会長 赤羽伝五郎さん(74)とともに、花木部会の取り組みについてうかがいました。山本さん(写真右)は春から秋にかけてはカーネーションを、赤羽さんは稲作をされている、おふたりとも農業のプロフェッショナル―― 


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切花も花木も長野県
長野県といえば、特にカーネーションやトルコギキョウ、アルスロメリアなどは全国一位の生産量を誇り、とりわけ冷涼な気候をいかした切花は品質もよく長持ちすると喜ばれています。一方、枝ものと呼ばれる「花木」は、JA全農長野県本部の19年度実績で3億円弱と、長野県内ではその取り扱いもまだまだ小さいものですが、稽古ニーズのほか、フラワーアレンジメント、室内装飾など、ライフスタイルの変化に対応した需要がこのところ増えています。

花木の栽培はどのような理由ではじめられたのですか?

「中山地区は、養蚕業が盛んで、平成の時代になるまで蚕を飼っている人がいて、その後荒廃した農地がかなり増えてしまった。yukiyanagi.jpgまたシカによる食害もひどく、地域を何とかしたいという気持ちで、平成14年に10人ほどの仲間たちと研究会を立ち上げたのさ」

日本の中山間地の多くで社会問題となっている遊休荒廃農地を食い止めようと、山本さんたちは立ち上がったのです。ところが・・・

「シカは桜やミズキの芽を好んで食べ、頭が届く範囲から下は丸ぼうず状態。高い部分の芽も枝から噛み倒してしまうので、木が伸びる間もなく枯れてしまうんだ」

シカとの知恵くらべは今もなお続いていて、2mほどの柵を設置しても、飛び越えられたり下をもぐられたりして、山に近い畑の花木は被害が続いています。例年雪がなくなってくるこの時期は、特に食害が多く、山本さんたちは気をもんでいるのだとか。

どのように栽培・出荷をされるのですか?

「畑では、桜・レンギョウ・ユキヤナギ・ミズキ・ボケを畑で栽培している。その他、梅やコブシ、モクレンなども出荷をしている」

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「花木の種類や時期などにもよるが、"ふかし"と呼ばれる促成栽培で、バケツの中で水揚げをしながらボイラーで約22〜25℃に加温するのさ。10〜15日ほどで出荷できる状態になる。適度な湿度も必要だね」

栽培・出荷の中心は、東海桜という品種。薄いピンクに色づいた小さな花びらがなんともほほえましいもの。平成20年度も約3万5000本の出荷を計画しているそうです。

3メートルをこえるソメイヨシノの花枝も
「地域のお店から欲しいといわれれば届けるし、毎年、地元の小学校や保育園の卒業式には3mをこえるソメイヨシノの花枝が場の雰囲気を盛り上げ、大変喜ばれている」というように、地域に春の彩りを届けています。

栽培していて苦労やこだわりは?

「出荷できるようになるまでに、ユキヤナギやミズキで3年目から。桜やボケは5年以上経たないと出荷できるようにならない。植えたばかりの頃は、蔓草など雑草にうもれてしまい、手間もかかり体力が必要な仕事だよ。それでも出荷する際の結束機(たばねる機械)を平成18年に導入してから、かなり楽になった」

それでも年配の方などは雑草やシカの食害で栽培をあきらめてしまう人もいるようです。

「桜は栽培が難しい。木が元気すぎると徒長(とちょう)枝となり、伸びた枝の先に花芽ではなく長細い葉の芽になってしまう。そうかといって真ん中の主枝を切ってしまうと、市場価値がなくなってしまうからできない。丸くていい花芽が着くようにするには、皮を剥くなど樹勢を適度にいじめ弱らせることが大事。しかもその結果がでるのは2年目から。まだまだ品質面でばらつきもあり課題があるね」

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荒廃農地を減らしたい
出荷物の多くが生け花の稽古に用いられるので、とくに枝ぶりの良し悪しは気にかかるところで、この意味からも試行錯誤が続いているそうです。

今後の抱負を聞かせてください?

「売り上げを伸ばせば、仲間も増えると思うので、少しでも荒廃農地を減らしていきたい。花は人の心を和ませるので、なるべく多くの人に見てもらえるようがんばりたい」

松本の地から一足早い春を発信するお父さんたちの熱い思いが、こうやって地域を支えていたのです。もともとは桑園であった桜の畑付近からは、松本平やアルプスなどの眺望がすばらしく、夜景は特におすすめだとか。みなさんを一度はお連れしたいと思えるほど見晴らしのよい場所でした。

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中山花木部会の連絡先:

JA松本ハイランド中山花木部会事務局(中山支所)
〒390−0823
松本市大字中山4146−1
TEL 0263−58−3962

関連サイト:

JA松本ハイランド公式ホームページ

全農長野県本部花のページ

このはなさくや図鑑〜美しい日本の桜〜サイトから東海桜のページ

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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