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松本一本ねぎが冬の鍋物に欠かせない理由は

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冬将軍がやってくると、鍋料理が恋しくなります。湯気が立つアツアツを、フーフー言いながら食べると、身体が芯からあたたかくなりますね。そして、鍋料理の具に欠かせないものが「ネギ」です。すき焼きにしても水炊きにしても、鍋料理の主役ではないけれど、名わき役を演じてくれるのがネギ。鍋をおいしく食べるにはネギを選ばなくてはなりません。

信州のほぼ中央に位置する松本地方には、鍋料理に最適な、甘くてやわらかい「松本一本ねぎ」があります。時代を超えて脈々と続く伝統野菜のひとつで、徳川将軍家が江戸城の正月に必ず口にした「兎の吸い物」にも必ず添えられていた歴史ある野菜です。

ネギの分類では加賀群に分類され「金沢一本太ねぎ」と同じ種類ですが、金沢の原種は松本から渡ったものと言われています。加熱でやわらかくなるネギで有名な下仁田ねぎを長くしたような松本一本ねぎ。写真にご登場いただいたJA松本市ねぎ部会の部会長の横林文雄(よこばやし ふみお)さん(54)も「この冬はぜひ味わって」と話しています。

冬にはぜひ味わっていただきたい
「松本一本ねぎ」は、名は体を表すで「一本スジの通ったまっすぐなネギ」かと思いきや、実は根が曲がった曲がりねぎでした。JA松本市では「まがりちゃん」の愛称もつけて販売をしています。旬はちょうど今ごろの11月から1月中ごろ。白ネギの部分が太くて長く、肉質のやわらかい食感と甘みは、まさに鍋もの向きといっていいでしょう。

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曲がり具合の比較。左が松本一本ねぎ、右は普通の白ネギ

根っこは自然には曲がらない
松本一本ねぎの特徴でもある「曲がり」は、じつは手間と労力のたまもの。春先に植えたネギを、8月中旬ころに一度抜いて、深いうねを掘り、1本1本丁寧に植え替えするのです。こうして手間をかけることで、鍋に入れたときにトロけるような軟らかさと、甘みが生まれるのです。機械を使うことができないため、夏場の手作業は暑さとの戦い。その上、収量は植え替えを必要としない白ネギと比較して約半分にもかかわらず、市場価格に大きな差がないのが現状です。

労力のかかる作業や、農家の高齢化もあって、一時は衰退傾向にあった松本一本ねぎですが、JA松本市の女性部が中心となって「伝統野菜の復活を」と呼びかけ、2006年に「ねぎ部会」が発足。同年には長野県の「信州の伝統野菜」にも認定されました。部会を引っ張る横林さんは「地元の子供たちが故郷の味を覚えていてくれるように、伝統野菜を絶やしてはいけないと思って作り続けています」と力を込めます。

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乾燥中

足利将軍義教の時代
歴史は古く、足利時代までさかのぼります。1440年(永享12)の元旦のこと、徳川家康の先祖であり、徳川一族がまだ「世良田(せらた)」姓だった頃、家康の九代前の祖先である世良田有親が、小笠原家の三男で信州林郷の林藤助光政を訪ねた折、藤助が雪の中で兎を狩り、ねぎを添えた吸い物でもてなしたという言い伝えに登場するのが、この松本一本ねぎでした。この伝承に基づいて、江戸時代となって12代将軍家斉の時代から、正月には「兎の吸い物」が口にされるようになったことから、毎年暮れになると、松本のねぎが徳川家へ献上されるようになり、江戸への土産物、東京への贈答品として使われるようになりました。江戸の町には淡泊な兎の肉の吸い物である「兎汁」を名物にした店がいくつかあったようです。

発祥地は松本市の東部、筑摩(つかま)、三才(さんざい)、中林(なかばやし)地籍とされます。現在も、JA松本市管内のこの地域では、1919年(大正8)年に発足した松本一本葱採取組合が、一本ねぎの原種を大切に守り続けていて、各生産者へと渡っています。

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ねぎの花と種

種を残し続けることの方が大変
松本一本ねぎの特徴は夏場の植え替え作業にありますが、採種用のネギは、夏場の植え替えに加えて、さらに2度の冬越しと「食用以上に手間がかかっています」と組合長の青木秀夫さん(66)。青木さんが10月1日に播いた種は、現在約5〜10cmほど。このまま畑で冬越しして、来年春に定植。さらに8月には開花に備えて、根深く植え替えをして、再来年の開花(ねぎぼうず)に備えるのです。93歳まで組合長を務めた父の役職を継承する青木さんは「いいネギを作って、いい種を作ることで、原種を保存し、伝統を大切にしていきたいと思っています」と話してくれました。今シーズンからは、松本市の農政課や信州大学農学部の協力を得ながら、DNA鑑定を行うなど、科学的にも純粋品種の保存や、病気に強い松本一本ねぎの研究への取り組みを行ってもいます。

「松本一本ねぎ」。今シーズンの販売は1月中旬ころまで。全農長野のネットモール僕らはおいしい応援団でも扱っています。贈答用の全国発送は5kg(35本前後)3500円です(限定品なのでなくなり次第終了)。保存方法や、生産者からの手書きメッセージも添えられています。また、松本市内のスーパーなどでも販売しています。

僕らはおいしい応援団ネットショップ(JAタウン|全農長野)

松本一本ねぎ「まがりちゃん」(JA松本市)のサイト

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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