オキシペタルムを25年栽培し続けてきた彼

Oxypetalum_1.jpg東西を中央アルプスと南アルプスの山脈にはさまれ、あいだを天竜川が太平洋へと向かって流れる県南部の下伊那郡。この山間の大きな渓谷の大地からはたくさんの自然の恵みがもたらされています。なかでも標高400mから1000m以上もの高低差と夏季の冷涼な気象、冬季の豊富な日照条件を生かして、JAみなみ信州管内では、全国的にも評価の高い高品質の切花や花木の栽培が盛ん。そこで、昔からの栽培歴を誇る「オキシペタルム」と、JAが主力作物として取り組む「ダリア」について、2週にわたりお伝えします。前編の今回は「オキシぺタルム」です。

オキシペタルムは「ブルースター」の名前でこれまで長い間流通してきました。ひっそりとかたわらに寄り添うように咲いているのが似合う、涼しげな水色の花、ブルースター。クールな色調ながら全身を細かい毛で覆われ、か弱さの中に可愛らしさも感じられるこの花に、ファンは多いでしょう。水色の5枚の花びらが、輝く星のように見えることからそう呼ばれるのですが、花言葉は「信じあう心」「幸福な愛」。夏の夜空に輝くブルースターを連想し、なんかちょっぴりロマンチックな気分ではありませんか。

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花たちに囲まれると幸せな気分に
もともと「青い花が好きだった」というオキシペタルム25年の栽培歴をもつ、下伊那郡松川町の池田毅(いけだつよし)さんのビニールハウスを訪ねました。池田さんがこの花を栽培する標高約550メートルのハウスの中に足を踏み入れると、見渡す限りオキシペタルムの花たちが広がり、なんだか幸せな気分に包まれます。まわりは天竜川と壬生川のふたつの川と山々に囲まれて、開け放たれて網戸状になったハウスのビニールの隙間から、風が爽やかに通り抜け、細い茎をもつ水色の花びらはなんとも涼やかな表情で、どれも元気に育っているようです。

オキシペタルムは意外にも奥が深い
ブルースターは、基本種はブルーですが、ホワイトスターやピンクスターと呼ばれる白やピンク色の仲間もあります。花びら(花弁)が細長いのが特徴ですが、ほかに花弁が丸くキュートな形状をした「ピュアブルー」と呼ばれるものや、さらにピュアブルーよりも花弁の大きいものなど、この花径3センチ程の小さな花びらにも少しずつ違いがあって、意外にも奥が深い世界であることに驚かされるでしょう。そうした品種を総称して「オキシペタルム」、または「オキシペタラム」と呼ばれています。そして、これまで20年の長きに渡り栽培が行なわれてきたブルースターの独占場から、今や時代のニーズはピュアブルーが8割がたを占めるまでに移り変わっているのです。

もともとブラジルからウルグアイにかけてが原産地といわれるオキシペタルムは、気温が20〜25度で標高の高い涼しい環境を好みます。池田さんのハウスはオキシペタルムにとって居心地が良いようで、ゆっくり時間をかけて出来あがる品質の良いオキシペタルムが池田さんの自慢。ハウスではブルー系統が7割、白系が2.5割、ピンク系が0.5の割合で、合計3反部もの面積で栽培がおこなわれていました。

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伝説の花が生まれようとしている
現在池田さんが栽培する主流はピュアブルー。それ以前はブルースターを20年栽培されていたということで、長年同じ品種を栽培することに飽きを感じなかったのかと訊ねれば、「ブルースターは温度による色の変化(高温になるときれいな水色が紫色に変化)や水上げの悪さなど、とにかく栽培するのが難しい花だった」と言い、そんな手の抜けないブルースターとは格闘の日々だったとか。

Oxypetalum_5.jpgそのような困難な花を長いこと栽培を続けながらも、新しい品種の誕生を試みる作業は幾度となく行われていました。種を交配した数だけ新しい種類はできるのですが、問題は果たしてそれが安定して供給でき、また市場に受けるものであるかということ。そして「これ以上のものはない、という位までの完成度に仕上がった」という自慢のブルーの1品種(その名も"ピュアレジェンド"と池田さんは命名)と、ピンク色の3品種が、来春にも出荷予定として出番を待っているといった状況で、その評価が今からとても楽しみだそうです。

このオキシペタルムは一見可愛らしい花に見えますが、うかつにその幹や葉っぱをもいでしまうと、切り口からは白い樹液が流れ出し、それは時間とともに黒色へと変化して、付着した箇所を汚すのだとか。そんな花を相手に日々収穫に追われる池田さんも、着けている手袋はもちろん真っ黒に変色。Oxypetalum_3.jpgさらにそれが直接皮膚に触れると人によっては汗疹(あせも)になったり、かぶれる恐れがあるなど要注意な花で、外見に似合わず扱いずらい人泣かせな意外な一面もあります。しかしそんなオキシペタルムを「買った人の負担を少なく、気軽に楽しんでもらえるように提供することが課題」として、樹液の流失を抑える処理を施すなど、出荷にまで気を配った一連の作業を池田さんは心掛けて取り組んでいます。

「納得のいく新しい品種が誕生した時には、これからもガンバロウという意欲がどっと沸く」と長年栽培を続ける中での一番の歓びを話します。「この世界で生き残るため、いつトップを抜かれるかわからないという危機感を常に携えて栽培を続けている」池田さんは、25年という長きに渡る栽培のキャリアをもっていても、絶えず厳しい眼差しで研究を続け、このオキシペタルム界を引っ張っているのです。

気象異変はオキシペタルムにも影響する
栽培をおこなう年間のサイクルのなかでも特に「5〜8月の夏場はもっとも忙しい時期。とにかく日々無心で収穫をしている」と言い、初めて見た人が感じる水色の幸福感に浸る余裕ありません。しかし今年の夏はどうも様子がおかしいのです。原因は気候異変。実はこのオキシペタルムにも影響ありで、梅雨がはじまる前までは順調に生育が進んでいたものの、もともと太陽光線を好むオキシペタルムは、梅雨があけてからの予想外の長雨による日照不足で、花の色が薄くなり、また持ちが優れず、さらに茎が曲がるなどの奇形に生長したりと、現在大変な状況が続いており、早く天候が回復することを願って止まない気の揉む日々が続いています。

かつてのブルースターと比べて劇的に花の持ちが良くなったというオキシペタルムのピュアブルー。機会があるなら、夏のこの蒸し暑さ、毎日こまめに水を取り替えて涼しい場所に飾り、夏を涼やかに演出してみてください。

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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