畜産物・酪農

サングラスをかけた豚を見かけたらよろしく

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7月にはいり、夏本番はこれから。さてそこで質問をひとつ。みなさんには欠かせない夏バテ対策料理が、ありますか? このタイトルに惹かれたのもなにかの縁、夏バテ対策メニューにぜひ加えてほしいのが、豚肉料理です。それも、特別な豚肉、雑菌の侵入を防ぐ特別な環境下で育った、いわゆる健康な「SPF豚」の豚肉料理です。まだ食べたことがなければ、その納得の味の良さをぜひ自分の舌で確かめてみてください。

評判の良さはおりがみつき
SPF豚は、家畜の衛生管理という点で、おそらく想像を超えた豚肉です。育てる方は豚舎に入るたびに全身シャワーを浴びたり、飼料の運搬も洗浄した専用車にするなど、徹底的に"過保護"な環境で育てられる豚のことなのですが、その肉質はきめ細やかで柔らかく、赤身はジューシーで、冷めても美味しく、脂肪があっさりとしていて豚肉特有のにおいがないと評判は上々なのです。

味わい深い肉の提供を目指して
spf_web_b.gif認定を受けたSPF農家は日本全国に184件(2009年3月現在)しかありません。長野県内には8件あって、半数の4件がJAみなみ信州管内にあります。今回訪れた飯田市の矢澤宏輝(やざわひろき)さんは、両親から養豚農家を受け継ぎ、1997年からSPF豚を育てています。2003年には肉質を競うコンクールで県知事賞を受賞するなど、味わい深い肉の提供を目指して取り組んできました。

なぜ環境管理を徹底するか
「SPF」とは「Specific Pathogen Free(スペシフィック・パソージェン・フリー)」の略で「特定の病原体をもっていない」という意味。日本のSPF豚が規制対象としているのは、「委縮性鼻炎」「豚赤痢」「オーエスキー病」「トキソプラズマ感染症」「マイコプラズマ感染症」の5つの病気です。mr_h_yazawa.jpgこのうち、トキソプラズマ感染症以外は人体に影響のある病原体ではありませんが、養豚農家にとっては生産性を大きく左右する病気です。なぜなら、これらの病気にかかると薬剤を投与することとなり、そうなると肉への残留薬剤の心配がされます。そこで考えられたのが、徹底した環境管理の下で育てることでした。

清潔な養豚場がめじるし
もともと豚は清潔な環境を好む生きものです。しかし東アジアでは養豚場といえば臭くて汚いというイメージが強いですが、SPF豚は「豚舎に病原菌を持ち込まない」というのが鉄則。徹底した洗浄と消毒で防疫するシステムが構築されており、例えば部外者の立ち入り禁止はもちろん、飼料の運搬は洗浄・消毒を済ませた専用車、飼育管理する農家さえも豚舎へ入る時には必ず入浴または全身シャワーで身体を洗浄し、殺菌した専用着で作業を行います。矢澤さん(写真)に言わせれば「ちょっと忘れ物を取りに出ただけ」でも、即シャワーなのだそうです。

しかしだからといって、もちろんSPF豚は「無菌豚」ではありません。「SPF豚は自然環境下で飼育されているので、一般細菌は保持しています」と日本SPF豚協会の質問コーナーにも記されています。「清潔な環境で飼育されるSPF豚の腸内に棲息する細菌の多くは善玉菌で、悪玉菌が少ないのが特徴で、豚が健康に育っている証しです。したがって、SPF豚は『無菌豚』ではなく『健康豚』の代名詞であるといえるでしょう」と。

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SPF豚農場認定制度発足から4年後
SPF豚の歴史は意外と古く、東京オリンピックの前年、1963年に当時の農林省にSPF豚の研究班が組織され、5年後の1968年には実用を目的とした専用農場ができました。しかし、時代は高度経済成長期。作れば売れる時代において、安全性はまだあまり重視されませんでした。しかし1980年代ころから専用の農場も増えはじめ、1993年にはSPF豚農場認定制度が発足しました。

矢澤さんがSPF豚の飼育をはじめたのも、それから間もなくの1997年のこと。徹底した洗浄・消毒が基本のため、それまで持っていた豚も豚舎もすべて手放し、新たに土地を購入してそこに豚舎を建て、SPF豚の飼育がスタートしました。

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豚は成長段階ごとに豚舎を移動させますが、一般の養豚とは異なり、SPF豚は豚舎を移動させるたびに洗浄し、雑菌の侵入を防ぎます。飼育管理者は持ち物もすべて殺菌するのが基本で、カメラひとつ、お昼の弁当でさえも紫外線殺菌が義務づけられています。「ちょっと面倒ですけど、慣れました。おいしい肉を出したいですからね」と矢澤さん。

つねに病気に対しては気を使う
「そんなに過保護な環境だと、かえって雑菌に弱いのでは?」との疑問を質(ただ)してみると、やはり「病気に感染してしまうと広がりも早い」との返事が返ってきました。矢澤さんの豚舎でも2005年に、小動物の風邪などが原因となって、マイコプラズマの病原菌が入り、常時いる約1300頭が「オールアウト」になり、SPF豚の認定を受けられなかったそうです。そうなると、全頭入れ替えするのはもちろん、豚舎も徹底的に洗浄、消毒してふたたび一から出直しということになります。矢澤さんは「病気に対しては本当に気を使います」としみじみ語りました。

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ですから、マイナスの要因をただ減らすだけでなく、矢澤さんは病気に強い、より健康な豚を育てるための工夫もしています。「ワクチンの徹底や、有用微生物『プロバイオティクス(乳酸菌)』で腸内環境を整え、腸を丈夫にすることですよ」と矢澤さん。県内のSPF豚の飼料は肉質と味を統一するために、あらかじめ飼料が決められているのですが、矢澤さんは生後10日の子豚のころからヨーグルトを与えるなど、丈夫で上質な肉質づくりを独自に模索しているのです。

また、矢澤さんの豚舎から出る豚たちの堆肥は地元のりんご農家などが使用し「糖度の乗りが良い」との声も聞かれるとか。「多くの方においしい肉を食べてもらうのはもちろん、堆肥の利用で環境的に良いサイクルを生みだすことも目標のひとつです」

spf_pork_meat_c.jpgそれは信頼に値する信州のSPF豚のマーク
今後の課題は「(SPF豚を)もっと知ってもらうために、PRが必要ですね」矢澤さんは自ら名物料理も考案中で、現在、自家製の味噌を使った"試作品"の完成を目指しています。

豚肉は、ほかの食肉と比べてビタミンB1やB2が豊富で、夏のスタミナ料理にはぴったりの食材。お近くのAコープなどで購入できますから、ぜひ味わいの違いを確かめてみてください。信州のSPF豚はサングラスをかけた豚のマークが目印です。

関連サイト:

日本SPF豚協会ホームページ

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とことんこだわる信州の豚肉(2004/11/15)

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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