突然ですが読者のみなさま、この小さな実、何かご存知ですか?
見るからに野趣あふれる木の実、なんとなく懐かしさを感じますよね。
これは「ナツハゼ」といって、クランベリーやブルーベリーと同じツツジ科の植物の実。知名度は低いですが、栄養豊富で濃厚な味わいの、知る人ぞ知る山の果実なのです。
このナツハゼを長野県信濃町で栽培する「佐藤夏はぜ農園」を収穫期に訪れました。
信濃町ののどかな景色と、たわわに実る山の恵み
「佐藤夏はぜ農園」がある長野県信濃町は、県内ではとうもろこしの有名な産地です。
通称「もろこし街道」と呼ばれる街道があり、7月下旬から8月下旬のシーズン中には県内外の観光客で賑わい、街道沿いの直売所は毎年行列ができます。
訪れた10月上旬はとうもろこしのシーズンも終わり、のどかな景色が広がっていました。
「佐藤夏はぜ農園」園主、佐藤千明さんは、ここでナツハゼの栽培を始めて約35年。2009年に父から農園を引き継ぎ、現在は約60aで500本栽培しています。
取材にうかがった10月上旬は収穫の真っ盛り。佐藤さんの妻・洋子さんが収穫中でした。
ナツハゼとは?
「ナツハゼは昔から日本に自生していて、学術名がつく前から、それぞれの地域で呼び方があるんだよ」と佐藤さん。
長野県青木村では「こんぱら」と呼ばれる一方、信濃町では「ぶんぶく」という俗称で通っているそう。実の形が「ぶんぶく茶がま」に似ているからだとか。
ころんとしたフォルムが茶がまに似ているかも!
4~5月、釣鐘状の小さな花が咲きます。
本来、花咲く季節ではありませんが、偶然狂い咲きした花を見つけることができました
収穫は9月頭から10月末まで。
「4か月以上、実が樹上にあるから、太陽を浴びる期間が長く、栄養も味も濃くなる」とのこと。同じツツジ科のブルーベリーが同じ時期に花を咲かせ、収穫が6〜8月くらい。ナツハゼは収穫までりんごと同じくらい時間がかかるんですね!
実が真っ黒になったら収穫時です!
籠の中に摘み取って入れていきます
実をつけた後は、美しく紅葉します。
「佐藤夏はぜ農園」ホームページより
「食べておいしく、身体に良し、見ても良しの木なんです」と佐藤さん。
ナツハゼは成長すると2〜3メートルになる落葉低木樹であり、収穫までなんと10~20年ほどかかるそうです。
ただし本来、山に自生している木であるため、丈夫で防除は必要なく、剪定もほぼしないそう。植え替えも必要ありません。佐藤さんの農園では雑草を取り、有機液肥を与えるのみ。
「家庭で庭木にもできますよ」とのこと。
推定油樹齢50年の木の様子を見る佐藤さん
気になる味と食べ方
さて、気になるナツハゼの味。「生食はあまりすすめない」とのことですが、もちろん食べてみなければわかりません!
皮は少し硬め。口に入れると、酸みと苦み、渋みを感じ、あまり甘みは感じません。なんというか本当に、下校途中に食べた木の実の野趣あふれる味です。
仲間のブルーベリーと比べてしまうと、確かに生食には向かないようですね。
ナツハゼは「山の黒真珠」とも呼ばれるそう
やはり「加工がおすすめ」ということで、佐藤さんの農園ではナツハゼのジャムを販売しています。
「佐藤夏はぜ農園」ホームページより
すごく色が濃い! 食べてみると粒感がはっきり感じられて、甘すぎず、ナツハゼ本来のほんのりとした渋みが、むしろいいアクセントになっている! ややビターな大人ジャムです。
ヨーグルトに入れると、さっぱりとした甘みと酸みがマッチしておいしい!
個人的にヒットしたのが、クリームチーズとの共演! 甘すぎないナツハゼジャムがクリームチーズの酸みとコクを引き立たせます。
手作り米粉スコーンに沿えて
アントシアニンが豊富なのか、食べた後とは舌がかなり青くなりました(笑)
「ナツハゼ」を信濃町の特産に
全国的にナツハゼの生産者はまだまだ少なく、この規模で栽培しているのは信濃町でも佐藤さんだけ。
「信濃町は豪雪地帯だから、りんごやぶどうなどの果樹栽培には向かない地。だけどナツハゼは丈夫で雪にも強く、気候も向いている。このナツハゼが、ゆくゆくはこの町の特産品になってほしい」と言います。
1月の畑の様子
先述のとおり、手入れがほとんど必要なく、収穫作業もきつくないため、収穫は500本の収穫を佐藤さんご夫妻と60代・80代のお手伝いの方3〜4人のローテーションで行っているそうです。
「実をつけるまでの期間が長いけど、子どもの代に残せる資産形成だと思って取り組んでみてほしい。うちは苗木の販売はやってないけど、栽培についてはいくらでも教えるから」と佐藤さん。
試験を重ねて改良された果物ももちろんおいしいですが、本来の木の実の味が恋しくなった方は、ぜひ、この「ナツハゼ」を味わってみてください。