お米農家の柿嶌 洋一(かきしま・よういち)さんは、JA信州うえだ管内の上田市武石(たけし)地区にある16haの農地で、酒米と長野県のオリジナル品種米「風さやか」などを栽培しています。
柿嶌さんの家は代々農家ですが、お米の栽培は本格的に始めてから20年目。自ら栽培するだけでなく、JAから苗の育成を依頼され、地域の農家向けに出荷しています。
いいお米作りは田植えの時期が肝心!ということで、取材にうかがったのは5月のこと。
柿嶌 洋一さん。ビシッと根が生えた自慢の苗を見せくれました
トラックいっぱいの苗
米栽培に適している土地?
山に囲まれた水田
「武石は山に囲まれているので、一枚一枚の田んぼの面積が小さく、平地に比べると機械の作業効率が劣ります。山からの清流はきれいですが、苗にとっては冷たすぎるので温度管理が難しいです。鹿や猪が田んぼを荒らす獣害もあります。稲作に向いている土地かといえば、そうとは言い切れませんね」(柿嶌さん、以下同)
田んぼの中で見つけた鹿の足跡
獣害を防ぐため、柵で農地を囲むなど試行錯誤しています
いきなりデメリットの説明でしたが、地形による恩恵は大きいようで!?
「標高が高く、昼夜の寒暖差が大きいので、夜涼しくなります。そうすると良質なお米ができるんです。また、病気や害虫が少ないので、結果的にこの地域で作るだけで減農薬栽培になるんです」
デメリットを乗り越えて、強みを活かしているのですね。
離れてわかった地元の農畜産物の魅力
「地元が嫌になって、一度外に出たんですよ。でも、やはり農業がしたくなって戻ってきて、改めて地元の農産物を食べてみたら、すごくおいしいなって思いました。地元の農畜産物の魅力に初めて気づきましたね」
田植えの様子
風さやかは大粒になるように苗の株間(かぶま)を開けて、苗がしっかりと根を張るように植えます。
「株間を開けて、面積当たりの収穫量を制限しているのですが、自分はおいしいお米にこだわりたい。量が減っても高品質で単価が上がるようにしたら採算がとれるので努力しています」
こだわりの風さやかは、柿嶌さんが栽培した大豆と一緒に地元の加工会社に販売し、「奏龍(なきりゅう)」というブランド味噌になっています。
「地元産の農産物を使った商品で、地域が元気になったらうれしいです」
奏龍の味噌。JA信州うえだ管内の直売所などで買えます
「資材価格の高騰の影響はかなり受けています。農産物に価格転嫁できないと困ります。いいお米をつくるのはもちろん、販売先を見つけて営業したり、米の販売先や、自分の酒米を使っている日本酒を宣伝したり、なんでもやりますよ」
長野県オリジナル米「風さやか」とは?
柿嶌さんが作る主力のお米は長野県オリジナル米「風さやか」。どんなお米なのでしょうか。
「ほかのお米と比べると、あっさりしておいしいです。炊き込みご飯や雑炊など『粘らないほうがいい』料理に向いてます。油がからみやすいからチャーハンなんかも向いてますね」
「ぱらぱらとしてほどけやすい」のが風さやかの特徴。
「だからカレーライス、オムライスのケチャップライスとか、子どもが好きなメニューに風さやかはバッチリです!もちもち粘り気のあるお米もおいしいんだけど、粘って混ざりにくいでしょ(笑)」
粘り気が少ない分、冷めやすいので猫舌の人にも向いているとか。またあっさりしているので、胸やけが起こりにくいそう。
「リーズナブルなうえに、万能なお米なんですよ!」と柿島さんが力説してくれました。
やってきた収穫の時期!
さて、5月の田植え取材から約4ヵ月が経ち、いよいよ収穫の時期がやってきました。
収穫はコンバインを使用します。取材前日に新しいコンバインをおろしたという柿嶌さんを再び訪ねました(5月の取材とは別の田んぼです)。
稲刈りからライスセンターへ運び込むまでの様子を、動画と画像でご覧ください。かなり貴重な動画と自負しております!
真新しいコンバインと収穫中の田んぼ。コンバインは稲の刈り取り・脱穀・選別まで走行しながら行う大型農機
現地に到着したときは、すでに収穫中。「今、始めたところなんだよー、乗ってみる?」と柿嶌さん。本来は一人乗りですが、なんと、真新しいコンバインに少しだけ乗せていただきました!
「すごいパワーでしょ?」と、新品にご機嫌の柿嶌さん。筆者はそのパワーは比較ができないため実感できなかったのですが(笑)、ぐんぐん稲を刈り取る様は気持ちがいい!(音量注意)
刈り取りの様子を間近で。どんどん吸い込まれます!
外から見た様子。かなりのスピードです!
本当にあっという間に稲刈りの作業が終わってしまいました!刈り取った稲は機械の中で選別され、お米のみコンバインに集められます。
刈り取った稲からお米のみコンバインの中に集められます
この田んぼ一枚分のお米が余裕で入っています!そして収穫したお米をトラックに移し替えます。
コンバインからトラックの荷台へと移されたお米
運び先はJA信州うえだのライスセンター。お米を販売するため乾燥させて、もみ殻を取り除く施設です。
何気ない外観ですが、内部には大きな機械がたくさん
ここでトラックからお米を施設内に持ち込みます。
落とされたお米は地下を経由してライスセンター内の機械に通されます。
まずは遠赤外線乾燥機に送られ、もみに含まれる水分量を既定の値に統一します。乾燥させるのは保存性を高め、もみ摺(す)りといって、もみ殻を取り除く作業のときにお米が割れるのを防ぐため。
もみ摺り機で玄米になり、出荷用の袋に詰めて、ライスセンターから出庫されます。
もみ摺り機。お米たちがかなり揺さぶられております
割れてしまったお米など、いわゆる「くず米」と出荷するお米が選別されます
しかし!このままでは販売できません。販売するためには検査員の方による等級証明、産地証明や種子証明が必要です。
その後、みなさまのお口に届くまでは、もうひと手間。
玄米のまま食べる方もいらっしゃいますが、精米をして白米や無洗米などお好みの白さに磨かれ、ご家庭で炊飯して食卓に並ぶという、安全安心でおいしいお米はなんとも長い旅をしているのです♪
柿嶌さん(写真左)と、弟の拓生(たくお)さん
長野県産のお米を食べてください!
おまけ・ライスセンターの機械♡
ライスセンターの中は、たくさんのパイプやはしごが縦横無尽にひしめいていました。「工場萌え」の筆者は(何の機械かはよくわからないのに)ずっと眺めていたい場所でした(笑)
柿嶌さんが加入しているJA信州うえだ青年部。農家さんたちがお互いに切磋琢磨することで地元の農業を盛り上げています。