長野県オリジナルの食用米「風さやか」で造る日本酒

みなさまはお米の品種といえば、何を思い浮かべますか? 

コシヒカリ、あきたこまち、ひとめぼれ…、全国に名の知れた品種は数多くありますが、長野県オリジナル品種「風さやか」を挙げてくださる方は、まだまだ少ないかもしれません。

2013年に品種登録された長野県生まれのお米、風さやか。このさわやかな名前のお米を広めるべく、安曇野の若手生産者と地元産の原料にこだわる酒蔵「大雪渓酒造」が力を合わせ、風さやかを原料とした日本酒が生まれました。

今回は安曇野でつくられる、食べても飲んでもおいしい風さやかをご紹介します。

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風さやかってどんなお米?

風さやかは長野県農業試験場(須坂市)13年の歳月をかけて開発に取り組み、2013年に品種登録されました。

noutiku18-202504099月の収穫期に安曇野で撮影

その特徴は
〇あっさりとした味わい
〇冷めてもおいしい
〇粘り気が少ない
〇稲が倒れづらいので作りやすい

コシヒカリのような、もっちりとしたねばり気と強い旨みとは異なる食味で、長野県らしい高原に吹くさわやかな風のような味わいのお米です。


風さやかの開発秘話についてはこちら
冷めてもおいしい長野県オリジナル米「風さやか」 

北アルプスの雪解け水がお米を育てる

そんな風さやかの栽培に取り組むひとりが宮澤和芳(かずよし)さんです。就農18年目、6haの水田で風さやかを育てています。 

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宮澤さんは、風さやかとして品種登録される前の「信交526」の試験栽培から携わり、登録後は生産者としてPR活動も行ってきました。

「安曇野は、寒暖差の大きい標高600メートルに位置し、北アルプスの伏流水に恵まれたおいしいお米ができる土地です。夏でも比較的、高温障害の影響が少なく、品質の良さが自慢です」と宮澤さんは言います。

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写真と動画は安曇野を流れる灌漑用水の拾ヶ堰(じっかせき)。JAあづみ営農センター付近の農業用水ですが、この透明度! このきれいな水が安曇野のおいしいお米を育てているのです。

安曇野の風さやかをお酒でPR

宮澤さんを含む若手米農家で構成する「安曇野.come(ドットコメ)」で作る風さやかが、地元の酒蔵・大雪渓酒造でお酒に加工されています。その経緯をうかがいました。

「以前は同じ安曇野の米農家でも、誰がどの田んぼで作っているかもわからない状態。先輩の助言もあり、若手後継者で横のつながりを作って情報交換するために、5人の米農家でグループを作りました」(以下、宮澤さん)

そして情報交換だけでなく、研修会やお米のPR活動に取り組むようになったのです。 

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「大樹の、安曇野うまい米づくり農事録」 第18回(2020年12月8日公開)より

「メンバーで信交526の試験栽培からはじめ、品種登録後はPR活動も行ってきました。出はじめたばかりの風さやかをPRするために、県や市、地元のJAあづみのイベントで試食提供や販売で店頭に立って説明したりしました」 

長野県北安曇郡池田町にある大雪渓酒造とのつながりができたのも、ちょうどその頃。飲食店社長の紹介で知り合い、「風さやかのPRをどうやっていけばいいか相談したところ、お酒造りをご提案いただきました」 

noutiku19-20250409長野県北安曇郡池田町にある大雪渓酒造

「風さやか」のお酒が買えるところ

住所:長野県北安曇郡池田町会染9642-2 
営業時間:9:00~18:00
TEL:0261-62-3125

食用米と酒米

日本酒の原料は言うまでもなくお米ですが、食用のお米とは異なります。

私たちが普段口にしている食用米は「水稲うるち玄米」で、酒造りに使われるお米は「醸造用玄米」に分類されます。「酒造好適米」といって、いわゆる「酒米」です。 

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酒米の「ひとごこち」(左)と食用米の「コシヒカリ」。取材現場にコシヒカリしかなかったため、酒米との比較対象として撮影

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コシヒカリは食用米なので、お米の真ん中「心白」がない。風さやかも心白はない

noutiku09-20250409酒米のひとごこちには心白がある

食用米と酒米のもっとも大きなちがいは「心白」の有無。写真でわかるとおり、酒米にはお米の真ん中に白い部分があります

「食べてうまいお米は、酒米には向かない」と宮澤さん。じつは、酒米は炊いて食べるとおいしくないのです。酒米が食用米に劣っているのではなく、単に用途のちがいです。

風さやかは食用米であり、これを「飲んでおいしい風さやか」にするため、食用米とは異なった管理が必要となりました。

風さやかをお酒にするために

宮澤さんの田んぼでは、風さやかの田植えは5月20日頃に行います。気候変動で植えるタイミングが早まっているそう。

noutiku10-20250409 5月の田植えの様子

「風さやかはあっさりした味わいで、冷めてもおいしく、和食によく合います。クセがないため飽きずに食べられるお米です」。そんな風さやかのお酒は「風さやか同様にクセがなく、飲みやすいと思います」とのこと。

「粘りのないことが酒米の特徴のひとつで、食べるとパサパサしています。お酒に使うにあたり、食用米である風さやかの粘り気をできるだけ落として、いかに杜氏の理想に近づけるか。水や肥料を調整して、工夫して育てています」

もちろん「食べておいしいさやか」の栽培管理も怠りません。「どういうお米が求められているか、常に考えて作っています」と宮澤さんは言います。

 9月、コンバインでの収穫の様子

「やっぱり旨い!大雪渓」の酒造り

大雪渓酒蔵のお酒は県内で90%以上が消費され、地元に愛されている酒蔵です。そして「やっぱり旨い!大雪渓!」のテレビCMでおなじみです。数あるCMのうち、筆者が好きなバージョンはこちらです!


大雪渓酒造の専務取締役である薄井結行(ゆうき)さんに酒蔵をご案内いただきながら、風さやかの酒造りについて話をうかがいました。

noutiku11-20250409薄井専務。看板商品とともに 

大雪渓酒造では地元である大北(大町・北安曇郡)・安曇野地域のお米を使い、地域に根差した酒造りを行っています。

noutiku12-20250409通常のコイン精米機とは異なり、酒米を「磨く」ための精米機

「精米機を導入したことで、地元の生産者さんとのつながりが増え、極力地元のお米を使った酒造りをしたいと考えるようになりました」と薄井専務。

以前は精米後のお米しか目にすることがなく、自社精米をするようになってから、一等米の同じ品種でも、生産者によって玄米の見た目がちがうことに驚いたそう。

そのちがいについて生産者に確認するうちに生産者との交流が増えてきました。「玄米をとおしていろんなことを学ばせてもらいました」

そして「どうやったら地元産のお米が使えるか…」と考えていたところ、安曇野.comeの宮澤さんと知り合うことができたのです。 

noutiku04-20250409風さやかのお酒のラベルに「米」の字を模した安曇野.comeのロゴが

「安曇野.comeで加工米を作ってくれないかと打診したところ、快く引き受けていただきました。ちょうど風さやかが出はじめた頃だったので、地元らしさを表現するためにお酒造りをとおしてPRすることになりました」

風さやかの酒造りで目指すこと

先に述べたとおり本来、酒造りに使われるのは酒米です。食用米である風さやかでの酒造りは、正直どうなのでしょうか?

「酒米に比べると、すっきり仕上がる印象です。ただ食用米なので粘り気が強く、扱いづらさはあります。粘り気が強いと、どうしても作業効率が落ちるんです」

noutiku20-20250409玄米から精米した酒米。真ん中に心白がよく見える

「酒米はでんぷん質の構造が粗い心白があることで、酒造りに欠かせない麹菌が入り込みやすいのですが、食用米にはない。そこが難しく、試行錯誤です」

やはり食用米でのお酒造りは、ひと筋縄ではいかないようですが、それでも「風さやかの酒造りで目指すのは、地域らしさを出すこと。地域に根差した商品の発信源となりたいんです」と薄井専務は言います。

「たとえば県内でも酒米の美山錦は作っていますが、美山錦を使った商品は全国にある。だからこそ県外の方に珍しさを感じてもらい、そのストーリーを語れる商品を持つことは大事だと思っています」

noutiku14-20250409店内の様子 

noutiku15-20250409店内には試飲コーナーもあり

最後に今後の展望をお聞きしました。

「長野県産の酒米の半分が、ここ大北地域と安曇野地域で生産されています。仕込み水と同じ水で育ったお米の相性が悪いわけがない。風さやか以外にも、地域らしさを感じられる酒造りに挑戦していきたいです」

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直営店の前に仕込み水が流れる。営業時間内なら汲む
ことが可能。ただし生水なので、必ず煮沸して自己責任での利用を

風さやかのお酒を飲んでみた!

さて、お待ちかね。その味わいは(ちなみに筆者はガッツリ系のサムギョプサルと一緒にいただきました)

開栓後すぐは「少しさっぱりしすぎているかな?」と感じたのですが、クセがなく、どんなお料理にも合いそうです。1週間後には味がまろやかになっていました。

日本酒には賞味期限がなく、時が経つにつれて味は変わるもの。薄井専務は「その変化を楽しむのもありです」

noutiku24-20250409パッケージにいる可愛い子は安曇野の農産物を応援する妖精あづみ~ずの「米」の妖精・らいすん 

おまけ・大雪渓酒造のそのほかのお酒

たくさんある商品のなかから、私がいただいておいしかったお酒や安曇野の農産物を使ったお酒を一部ご紹介します。

もちろんすべて自分で買って飲んでいます(あまり映えさせられなくてすみません…)ちなみに筆者の日本酒の好みは、甘口でお米っぽいお酒。どぶろくやマッコリが好きです。ご参考までに。

 「大雪渓」蔵出し

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地元で大人気の看板商品。「すっきり淡麗、辛口」で、どんな料理にも合うと評判。地元JA部会(生産者の集まり)でも、これが定番だそうです。

筆者は辛口に苦手意識があったのですが、これが飲みやすく、飽きのこない味。辛口だからとひとくくりにはできないなと感じました。

「大雪渓」大吟醸 山田錦 原酒

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試飲コーナーで私がもっともおいしいと感じたお酒です。もーーー、とにかくおいしかった!

さっぱりして飲みやすいのに、お米の旨みや甘さがしっかり感じられます。香りはフルーティーで、ふんわり甘いのに、ベタつきが全然ない。日本酒はちょっと…という方にもおすすめしたいです!

大雪渓「真白酒(ましろざけ)

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本当においしい!大好きなお酒に巡り合ってしまった!

甘くて飲みやすいので、ぐんぐん飲んでしまう。「超上質な米ジュース」って感じです。まさにデザート酒。季節限定なので、見かけたら買いですよ(また買いに行きたい)

「大雪渓」苺酒 

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安曇野は涼しい気候のもと夏秋いちごの生産が盛んです。その夏秋いちごを純米酒で仕込んだ、安曇野らしさいっぱいの逸品!

いちごジャムをお酒にしたような、夢のようなお酒です。無限に飲めます。甘いお酒がお好きな方、必飲(?)ですよ!

薄井専務いわく「かき氷のシロップにしてもおいしいよ」。なんとも大人な食べ方を教えてくれました。夏が来たら試してみます!


▼夏秋いちごについてJAあづみを取材した記事はこちら
キュンと甘酸っぱ!安曇野育ちの夏秋いちご
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おいしい米があるところに、おいしいお酒あり。

風さやかをすでに食べている方は、飲んでおいしい風さやかも味わっていただき、あるいは風さやかのお酒をきっかけに、食べておいしい風さやかを知っていただきたいです。

 食べても飲んでもおいしい風さやかを、ぜひ味わってみてください!

こちらは の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

今回紹介したお酒が買えるところ

「大雪渓酒造」の公式ホームページより購入ができます。
風さやかのお酒について、詳細は「大雪渓酒造」にお問合せください。


長野県北安曇郡池田町会染9642-2 
営業時間:9:00~18:00
TEL:0261-62-3125

この記事を書いた人

おとうふ

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