長野市南部に位置し、JAグリーン長野管内にあたる長野市篠ノ井地区。ここでぶどうや桃を栽培するJAグリーン長野青壮年部の山本国広(やまもと・くにひろ)さんの畑を訪ねました。
オリンピックスタジアムや商業施設が立ち並ぶエリアから少し外れたところに山本さんの畑はありました。約50aほどのぶどう畑では、シャインマスカットを中心にクイーンニーナ、クイーンルージュⓇ、雄宝を栽培しています。
山本国広(やまもと・くにひろ)さん(2023年6月9日撮影)
露地ぶどう栽培は6月が勝負
2023年6月9日、山本さんを訪ねると、ぶどうの誘引作業をしていました。
「一番手がかかるのは6月です」(山本さん、以下同)
たくさんの枝の中から、ぶどうを実らせたい枝を選び、棚にテープで固定していきます。こうすることで葉が重ならず、ぶどうの光合成を促し、管理・収穫作業をしやすくします。ぶどう栽培には必須の作業です。
「誘引する時に、まず今年ぶどうを実らせる枝と、次に来年ぶどうを実らせる枝を選んで、そのほかの不要な茎は切り捨てる判断をしないといけません」
誘引作業の動画を撮影させていただきました(※音声注意)
誘引作業
誘引後。白いテープで茎が棚に固定されています
上を見ながらの作業は直射日光が目に入り、かなりまぶしい
この判断は今年だけでなく今後の栽培にも関わるとのことで、責任重大。1本ずつ枝を見て判断していきます。
「この農地をひとりで作業すると5日はかかります。腕を上げっぱなしなので、1日の終わりには腕・首・肩がとても痛くなります。根気が要ります」
作業を終えた畑の様子
「房こき」で粒に栄養を集中させる
誘引作業の次は「房こき」を行います。ぶどうの余分な粒を取り除き、粒に栄養を集中させて大きく、おいしくするために必須の作業です。
実らせたい先端の部分のみを残し、それ以外の粒を取り除きます
つまんだ部分から指を滑らせて…
実のなる部分以外の粒を取り除きます
「房こきが終わったら、ジベレリン処理、摘粒、袋かけなどの仕事が待っています。6月は梅雨で作業できない日が多いのに、やらねばならない仕事が多いのは皮肉ですね」
ジベレリン処理は、ぶどうの房をジベレリン液という植物ホルモン液に浸す作業です。これより、ぶどうが種を作らずに実を大きくし、種なしぶどうになります。
「摘粒」でぶどうの形を整える
粒が込み合うのを防ぐため、粒の数を整理します。これでぶどうの大きさや形を整えます。JAグリーン長野は大房を作らないことで、ひと粒ひと粒に味をのせるように規格を統一しています。
摘粒前は小さい実がたくさん。実が大きくなるとぎゅうぎゅうになってしまう
成長しても重ならないよう粒が絶妙な配置になった(摘粒10日後の画像)
ぶどうは6月中の作業が肝心で、どれも手を抜けません。しかし生育は待ってくれないので、作業に追われる日々が続きます。さらに7月からは桃の作業も忙しくなるので、ゆっくりしていられません。
「6月を乗り越えれば、収穫まで作業量的には楽になります。しかし、長雨があるとぶどうが割れてしまったり、害虫や雨以外の天災によってぶどうがダメになってしまうことがあるので、安心はできません」
7月もまだまだ作業!枝の管理と袋かけ
さて、大忙しだった6月が終わり、7月中旬に再び山本さんの畑へお邪魔しました。7月はどのような作業をしているのでしょうか。
「副梢管理(枝管理)」で養分を集中させる
「副梢管理といって、枝の節目から出てくる脇芽や小さいぶどうを取り除く作業が中心です。余計な部分に栄養を取られないようにするための作業です」
節目から伸びる脇芽を取り除きます
収穫する房に栄養を行き渡らせるため、小さな房も取り除きます
「葉が茂って重なり合うと、光が当たらなくなり枯れてしまうので、葉を取っていきます。とはいえ葉は大事なので、取りすぎてもだめなんです」
「袋と傘」で日焼けを防止する
「袋かけはぶどうの保護のために行います。さらに汚れや虫、鳥から守るために傘をかけ、品種によっては新聞紙を傘と袋の間にかけて日焼けを防止します」
濡れたぶどうに袋をかけるとカビが生えてしまうため、天気の良い日に作業をしなければなりません。7月中に副梢管理(枝管理)と袋かけを行い、8月は防除などのメンテナンス作業がメインになるそうです。
裸のぶどうに…
袋をかけます。その上から傘をかけ、さらに保護
クイーンニーナやクイーンルージュⓇなど赤く色づく品種には遮光性の低い袋を、シャインマスカットや雄宝などは遮光性の高い袋をかけるなど、品種によって袋をかけ分け、収穫時期までかけ続けておきます。
ちなみにシャインマスカットは日に当てると黄色くなるそうです。私たちが普段目にするシャインマスカットは、袋かけでマスカットらしい緑色が保たれた状態なのですね!
黄色くなったシャインマスカットは「すっごく甘い」とのことで、より甘いのがお好きな方は、秋が深まった頃、店頭でシャインマスカットの色にご注目ください。
農家仲間みんなで良いものを作りたい
就農前は父の事業を引き継いで建設業に就いていた山本さんは、就農してから約10年。いきなりまったく違う分野の仕事をするのは大変だったのでは?
「もともと父は建設業をしつつ、農家もやっていたので、小さい時から手伝いをしていて農業に馴染んでいました」
その縁から就農前から農家の友だちが多く、農業を始めるときはいろいろ教えてもらうことができたため、すんなりと本格就農できたと言います。
「農業はすべての作業が自己責任であり、それもまた魅力なのですが、一方、農家仲間のみんなでいいものを作っていこうという思いがあるので、お互い勉強して技術提供しあっています。(栽培方法を)自分の畑で試して、よかったら教えるようにしています」
山本さんは時期になると篠ノ井地区の長野県A・コープ直売コーナーにも桃やぶどうを出荷しています
山本さんは農家仲間たちと試験圃場(品種や仕立てを研究する畑)を作って、今後の課題に取り組んでいます。
「高齢化で生産者がどんどん減ってきています。生産効率を上げていくために『ラクして稼ぐにはどうしたらいいか』を考えています。たとえば果樹栽培は高い位置で作業する必要もあって、はしごの上り下りなどでけがをすることが毎年起きています。そこで、試験圃場で収穫しやすい桃の仕立て方を仲間と研究しています」
ひと房ひと房、手をかけて
取材の最後に消費者への思いをうかがいました。
「長野のぶどうは9月から10月が旬です。やはり露地もののほうがおいしいです。長期保存されて、いつでも食べられるメリットもあるのですが、消費者の皆さんには、できれば旬のものを食べてほしいですね」
やるべき作業は時期に応じて決まっていて、作業は先延ばしできないうえ、近年は猛暑日が続き作業が困難ななか、ひと房ひと房ケアしなければなりません。
ぶどうは高値で取引されていますが「手間暇がしっかりかかっているからこそ」の値段であることがうかがえます。
さて、気になる新鮮なぶどうの選び方を教えてくださいました。
「粒がしっかり張っていて、軸の部分が枯れていないものを選ぶようにしてください。
旬の時期に出たものを、ぜひ食べてほしいです。」
今秋は長野県産のぶどうを、ぜひご賞味ください!
山本さんが加入しているJAグリーン長野青壮年部は、生産者がお互いに切磋琢磨することで地元の農業を盛り上げています
おまけ・8月のぶどう畑
8月に訪れた畑の様子。かがまないと歩けない!
とても驚いたのが、ぶどうの重さで樹が全体的に下がってきていること!身長約155cmの私でも、頭を少しかがめないと歩くことができませんでした(低さを比較できる画像がなくてすみません…)。
一見、草が多いように見えますが、「あえて伸ばしている」とのこと。
草を伸ばすことで、土が乾きにくい、水を急激に吸わない(草が余分な水分を吸ってくれ、樹がゆっくりと吸収できる)、微生物の働きで土がよくなる、などの効果が見込めるため、その効果を試験しているそうです!
8月に撮影した山本さんのぶどうをご覧ください。
シャインマスカット
雄宝。シャインマスカットと同じ色ですが、粒がひと回りもふた回りも大きい品種
クイーンニーナ。だんだんと色が入り始めています
クイーンルージュⓇ。色づき始めたばかり!赤くなるのが待ち遠しい!
山本さんの畑では、クイーンニーナは9月中・下旬、シャインマスカット・雄宝・クイーンルージュⓇは10月ごろから出荷が始まります(出荷時期は天候などによって前後する可能性があります)。
ぶどうの季節、お見逃しなく!