国内外のいろいろな食材が、割といつでも、すぐに手に入る現代。 「旬の食材を旬の時期に食べる幸せ」の数々をお伝えしてきた当ブログですが、今回は、広く大勢の方に喜んでもらいたい、との想いで「日本一早いシャインマスカット」のハウス栽培に取り組む生産者のお話です。 シャインマスカットの栽培面積・生産量ともに全国一を誇る信州で、「日本一早い出荷」にチャレンジしている太田安雄さん(69歳)を訪ねました。そこには、一朝一夕にはいかない太田さんの情熱と努力がありました。
種なしで皮までおいしい
まずは、「シャインマスカット」について少しふれておきましょう。つややかな黄緑色の大粒種は、種がなく、皮までおいしくパクパク食べられるぶどうです。マスカットらしい豊かな香りと、きゅっと引締まった実は、皮も含めて「パリッ」とも「サクッ」ともいえる軽快な食感がたまりません。また糖度18度以上という驚くべき甘さも人気のひとつ。 ここ数年、ますます人気が右肩上がりという「シャインマスカット」は、長野県が栽培面積・生産量ともに全国一位ですが、その人気ゆえに全国各地での栽培も急増、産地間での競争も激しさを増しています。
このハウス1棟で約3,800房
さて、やってきたのは県内でも果物産地として有名な須坂市。 ぶどう(「巨峰」「シャインマスカット」「クインニーナ」)やプルーン、りんごなどを栽培する太田安雄さんの畑にお邪魔しました。
3つ並んだビニールハウスの扉をあけると、1棟1,000㎡という広いハウス内に5月とは思えない光景が! 鮮やかなグリーンがひときわ美しい、たわわに実ったシャインマスカットが飛び込んできました☆ な、なんとここだけで、約3,800房も♪
「もう収穫ですか? これ取ってもいいですか???」と興奮して、かなり前のめりな編集部員に、「あ~まだまだ、大事なひと仕事をしてからね」と冷静にツッコム太田さん(笑)。さて、その大事な仕事とは、味を確認すること!「え~食べちゃうの~~」と驚く編集部員の目の前で、ハサミを器用に動かしながら慎重に一番下の一粒だけをカット。「ぶどうは肩(上)から順に味がのってくるんだ。だから一番下が甘く(おいしく)なっているか確認しないと」と半分口に含んで「いい味、これなら大丈夫」とニッコリ。
まず自分の舌で味を確かめる太田さん
糖度計でしっかり数値確認
もちろん、それだけじゃあ、ありません。次に半分残したぶどうの果汁を絞って糖度測定器で甘さを調べます。18.5度と測定されたこちらは合格♪ 続いて確認したところ17.5度の数字が...。「これは、あと2日くらいかな」と言いながら次の房へ進みます。ぱっと見では違いが分からないけれど、「18度以上出ないと出荷しない」「ひと房ひと房確認する」というのが、太田さん流のこだわり。 (18度と聞いてもピンと来ない方は、メロンが13~18度、イチゴ・スイカ13度、桃15度程と聞けば、その糖度の高さに驚かれるのでは?)
糖度18度以上の房だけを慎重に収穫
5月上旬、夕方には温風機での暖房がまだ欠かせない
4月下旬に収穫するためには、ハウス内を真冬の時期から暖房で暖めてぶどうを育てる必要があります。暖房器具は1棟に2カ所設置され、それぞれ2本のビニール筒から温風が出てきます。5月上旬とはいえ、早朝には0℃になる日もある須坂市ではボイラーは欠かせません。使用する燃料も相当なもので、2,000Lのタンクに5日ごと補充する程。そのお値段は、毎月約100万円という驚愕の金額...。「お高いんでしょ~」というイメージのシャインマスカットですが、それもそのはず、これだけかけてますからッ...。納得せざるを得ません。
入口付近の温度計は26度近く
屋根の開閉で昼間の温度を調節
また、日中の高温にも注意が必要です。あっという間にハウス内が25~30度以上にもなってしまうため、換気で温度調節をします。スイッチひとつで屋根のビニールシートが自動的に巻き上げられていきます。しかも1回動いたら10秒止まって温度確認、この繰り返しでゆっくり換気するのです。この温度管理が今一番大切な作業だそう。
他にも「日本一早い」ための秘訣があるはず...。 そう思って見渡した畑のあちらこちらに、点々とカラフルな南国チックな花(造花)。これは?
「先に花をつけた場所=早く実がなり収穫も早い場所への目印」とのこと。開花から実りまで約90日というシャインマスカット。ハウス内には送風機があって、温度を均一に近づけてはいるものの、暖房や日あたり加減で差が出てきます。南国チックな花は、広いハウス内でも、先ほどの味チェックをする順番がすぐにわかるというスグレモノ☆ かわいいだけじゃない、一番適した時期に収穫するために必要な便利グッズなのでした。
また、足元にも気になるものが。ハウス全体に敷き詰められている茶色い粒。サクサクふかふかで、よ〜く見るとなんと、そば殻。「そば殻にそば粉も入っている」と言う太田さん。雑草対策だけでなく、ふかふかの土の下ではミミズなど生態系の活発な活動が期待できます。
細くなったところで接ぎ木したことがわかる
手前の太い木は元は巨峰の木
ところどころで木の太さが異なっているのは、接木のあと。元々、巨峰の畑にシャインマスカットを接木して増やしてきた太田さんは、平成20~21年頃、シャインマスカットの魅力にハマッたんだとか。ハウスだと袋かけの必要がないので、「いつでもグリーンの房を見ていられることが最高に幸せ」と言います。「見てよ、この美しい姿。本当にきれいでしょ」と笑いながら「広く大勢の人にこの美しさとおいしさを知ってもらいたいから頑張れる」と太田さん。今日もその力強い栽培技術と飽くなき情熱で、日本を、世界を、笑顔で満たしてくれることでしょう。
信州でも一般的にはハウスもので7月から、露地ものでは9月から10月頃が出荷の時期。4月下旬に出荷できる生産者は、須坂市内でも2人だけと言うから、その希少価値の高さは言わずもがな。。。「ぶどうは秋の果物」という概念をくつがえすほど立派で、気品すらあふれるその佇まい♪ 日本一早いシャインマスカットは、日本一高級で、日本一美しいシャインマスカットでもありました。
ちなみに、太田さんが出荷しているJAながの須高ブロックでのハウス栽培ぶどうの初出荷は、4月26日(2017年)。「シャインマスカット」「ピオーネ」「巨峰」を8ケース34kgが持ち込まれました。JAながの営農部販売課の前沢純一主任は、「もちろん糖度はすべて18度以上。今年の冬は、冬らしい冬で暖房が欠かせなかったし、温度管理に苦労したぶん、味・品質とも良いものができた」と自信をにじませます。この日は、関東や大阪方面中心に発送されました。国内もさることながら、台湾や香港でも安定と信頼のジャパニーズブランドとして需要が高く、昨年は1ケース5kg(8~9房)で15万円の高値がついたそうですよ。
JAながの
こちらは 2017.05.16 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
まちゃ
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