北アルプスの麓、厳しい寒さがサクサクのヒミツ
大町市内より2017年春に撮影
やってきたのは長野県の北西部、北アルプス麓に広がる大北地域(大町市と北安曇郡)。美しく雄大な北アルプスに守られたこのエリアには、自然と人のくらしが織りなす「日本の原風景」そのものがあります。
また、県下有数のお米の産地でもあり、春、田植えの頃には、空の青さとアルプスの雪と水田のコントラストが、それはもう見事なんです。
凍り餅部会長の栗林みち子さん(左)と副部会長の横山美知恵さん
辺り一面が銀世界となる冬も、ココならでは恵みがありました。大町市常磐地区の農産物直売所かたくりでは、寒さを生かした伝統食「凍り餅」作りの真っ最中。早速、凍り餅部会長の栗林みち子さんと副部会長の横山美知恵さんに案内してもらいました。
作業場には、入口すぐに蒸気立ち上る釜が4つ、その奥に杵・臼のセットが2セット、隣にのし台と冷却・乾燥台が各2台、それらがぐるりと取り囲む中央には、最後に餅をカットする作業台が2つ。流れ作業が効率よくできる一室となっています。昔ながらの杵つき餅、久しぶりに見ました~♪
杵つきの小気味いい音が響く
つきたてのお餅
手水をつけた返しも息ピッタリ! 時間との勝負でアツアツのまま手早くのしていきます。この時、空気が入って膨らんでしまう所を一つひとつ潰して平らに。「気泡があると食感が良くないからね」と言いながらも手を止めないメンバー。また、切り餅にする作業台には数種類の目盛りがついていて、種類によって切り餅の幅を変えるそう。女性ならではの細やかな心配りが光ります。
柔らかな餅を一気に手ばやくのす
気泡も丁寧に一つずつ潰して平らにのす
型崩れしないように切る前に少し乾燥させる
一定の幅で餅をカット
もちろん、もち米も地元で契約栽培した「もちひかり」、切り餅にまぶす打ち粉まで地元産の寒ざらししたうるち米を挽いた米粉を使用! 100%地元産100%手作りです☆
餅がくっつかないように米粉をまぶす
・・・と伝統を守り地元産にこだわっているものの、ここまではいわゆる普通のお餅では???
そう、凍り餅はココからの作業と時間が半端ではありません!!
(1) 切り餅を和紙で、ゆる過ぎず・きつ過ぎず、端をそろえて包む。
(もちろん和紙も特注品。のりがなくはがしやすい物を何度も試したそう。)
(2) (1)の餅を10個ずつ紐で鎖結びし、一連にする。
(3) 冷水に3日ほど浸して水を吸わせる。
(もちろん北アルプスの伏流水で。そのままだと水が凍ってしまうため、外側はビニールシートの上に毛布を何重にものせて凍結防止。)
(4) 氷点下(-4~5℃以下)の夜間に軒下につるす。(初日の寒さが重要で、一気に冷凍する。)
(写真提供:JA大北)
(5) そのまま2~3カ月、北アルプスからの寒風にさらし乾燥させる。
(夜間の厳しい寒さで凍結、日中の暖かさで解凍。この繰り返しで水分をじっくりゆっくり抜く。← ココが一番のポイント! 昼夜の寒暖差と風通しの良さによってサックサクで良品の凍り餅ができる。)
(6) 3月中旬頃、完全に乾燥したら完成。
若いママたちも巻き込んで楽しく元気に
今年(2018年)は1月7日から作業をスタートしたそう。取材当日は4,736個もの切り餅を紐で結びました。シーズンを通して作られるのは5,500連(55,000個)。今年23年目を迎えた同部会メンバーは、地元のベテラン女性農家を中心に25人。この皆さんが短期集中、一気呵成に凍り餅作りを担っています。
作業も一区切り、すると全員でお茶の時間☆ 「一緒にどう?」と気さくに声をかけてもらい、イソイソとお邪魔すると・・・。そこには、ものすごい数のお茶請けがズラリ! 定番の野沢菜漬け、梅干の他に、金柑の寒露煮やりんごシロップ煮、そばの中華風サラダ・・・、昨年作った凍り餅のいちご大福まで。皆さんの持ち寄りによる地元産お茶請けオールスターたち♪
お茶の時間もお昼も一緒の皆さん。「今年は1月中旬が暖かくてね~、ヤキモキしちゃう」「これから寒気がくるから冷え込むらしいよ」「昔は各家庭で新聞紙や電話帳で餅を包んでたんだよ」と凍り餅談義はもちろん、子育て談義や夕飯のおかず話まで、その盛り上がりは想像に難くないですよねっ☆ 今後の担い手不足が懸念される中、地元で子育て中のママたち数人を雇い、伝統を継承していたのも印象的。とにかく元気で仲がいい!(笑)