あっという間1年が過ぎ去って、もう年の瀬ですね。クリスマスツリーが一夜にして正月飾りへ変わる、この時期の駆け足な賑わいに毎年ワクワクします。
正月飾りといえば、やっぱり門松ですよね!
では門松がどうやって作られているか、ご存知ですか? 毎年、必ず目にしているものなのに、筆者は全然想像がつきません……
この伝統飾りを農閑期に手がける農家さんを訪ね、制作過程を見せていただきました。門松の来歴を語るサイトは数あれど、制作現場の記事は貴重かもしれませんよ!
門松の制作過程を大解剖!
お訪ねしたのは松本市で野菜農家を営む塩原 大(しおはら・まさる)さん。カリフラワーやキュウリ、西洋野菜など露地野菜と野菜苗の栽培をしています。
以前は食品会社に勤めていましたが、11年前に就農して家業を継ぎました。
門松がどのようにしてできあがるのか、塩原さんに順を追って教えてもらいます!
土台づくり
そもそも門松は生の樹木を使用して作り、かつ飾りつける時期が限定されているため、作り貯めしておくことができません。
ただし、組み上げていくパーツの中でも土台の部分のみ前もって作っておくことができ、かつもっとも作業に時間がかかるため、10月頃から作業をはじめるそうです。
12月中旬にうかがった時点で、すでにできあがった門松の土台が積みあがっていました!
「植木用の鉢に、ワラを編んで巻きつけていく、こも編みと巻きつけの作業からはじまります」(塩原さん、以下同じ)
これが門松の土台になります
この植木鉢に編んだワラを巻きつけていきます
ワラがみっしり編み込みれています
白く見えるのはビニールひも。植木鉢に3か所とめて固定します
「全部手で編んでるんですよ」と塩原さん。え、これが手編み!?
「このワラは、はざかけワラなんです。最近はコンバインで収穫して、機械の中でワラが細断されてしまうので、このはざかけ用じゃないと長さが足りなくて」
おばあちゃんちのふすまを活用したという非常に素朴でエコロジカルな編機。これでワラを編んでいきます
植物の準備
土台の準備ができたら、次は門松を構成する植物を集めます。
門松の主要なパーツは、まずは名前どおりの「松」、目を引く「竹」、そして「梅」 。縁起物の松竹梅がそろい踏み! これらは12月の2週目あたりから準備をはじめるそうです。
●松
「入手先を探していたところ、近くの山に生えているのを見つけまして、所有者に問い合わせたら『管理に困っている』とのことで、『任せてください!』と整備を兼ねて伐らせてもらっています」
●竹
「竹は農家の先輩の畑からいただきます。竹は生えすぎるとタケノコが取れないので、スカスカになるくらい伐り出してやった方がいいんですよ。先輩にも喜んでもらってます」
伐り出した竹は、砂や土ぼこりなどの汚れを落として磨きます。
次に、門松の規格に合わせて斜めにそぎ落とします。塩原さんは高さ180cm、150cm、120cm、90cmの規格で作っています(特注で240cmもあり)。
続いて、しばる作業。
高さをずらした3本の竹をしばり上げます。結び目は、梅の花の形にします。素晴らしい手際だったので撮影したかったのですが、一子相伝、門外不出ということで、動画はNG。
とってもかわいい…
下から順に咲いていく様子を表現して、下は花弁が5枚、上は3枚。匠の技と伝統の素晴らしさ、日本文化の奥ゆかしさを感じますね。
写真左が下側で、5弁の梅の花。上は咲きかけの3弁を表します
●梅
「梅は、南天の畑からゆずってもらいます。これも剪定を兼ねて伐り出しています」
時期的に当然ですが、まだ花の咲いていないものを使います。
●南天
「難を転ずる」の意味を込めた装飾。高温化の影響で実がつきづらくなっているそうです。
●杉の葉
「近年はアレルギーに配慮してヒノキへの改植が進んでいて、なかなか手に入らなくて…。たまたま知り合った方が里山保全をしていて、山の手入れを兼ねて伐らせてもらえることになったんです」
おや、こうしてお話を聞いていると、門松部品の素材はほどんど剪定を兼ねているような……
「なんだか『ほしいなー』『ないと困るなー』と思うタイミングで手に入るんですよね(笑)。山の木は手入れをしないと荒れてしまう一方なので、所有者の方にとっても伐り出すことが役に立っている。win-winな関係だと思います」
「農家の基本はもらう・拾う・集める。まさに宝の山なんです!」と笑う塩原さん、ツイてますね! すでに縁起がいいような気がしてきます。
組み上げ
素材がそろったら、作っておいた土台に組み込んでいきます。まずは土台を準備。
土台の下の部分のワラをスカートのように広げます
土台に竹を立て、砂を入れます。
植木鉢から砂がこぼれないよう紙皿を敷いてガード
「うちは海の浜辺の砂を入れています。ある程度重さがあって、素材を差し込みやすくてちょうどいいんです」
しっかり竹が立って、砂の重みで倒れる心配もありません!
次に、竹の背面に松の葉と梅の枝を差し込みます。「全国へ発送しているので、梱包する際に傷まないよう松の長さが竹を超えないようにしています」
根元に杉の葉を埋め込んでいきます。「これが結構、難しいんですよ」とのこと。
杉の葉を埋め込んでから、ハサミで切って形を整えます。「大福もちが乗っかってるのをイメージして、球形に整えます」
杉の葉の形を整えるのは塩原さんのお母さん。門松作りはご両親とともに行います
最後に、水引の生産量日本一を誇る長野県・飯田市産の水引を飾りつけて完成です。
完成!
門松を作りはじめたのは、塩原さんのお父さんの代からで、およそ20年前。最初は松の枝を販売していたところ、縁起物を販売する方に頼まれたのがきっかけだそうです。
「受注生産で製造から直販までやっているのがうちの強み。最近は松本市立博物館や松本駅にも置いてもらっています」
門松は歳神様をお迎えする依代といわれます。松本市に神様をお招きしているのは塩原さんの門松なんですね!
愛猫の三毛子ちゃんと。招き猫ポーズでめでたい♪
おまけ・気になる門松のアレコレ
門松にまるで無知な筆者が、塩原さんに素朴な疑問を聞いてみました。
Q.門松はいつ飾るの?
「12月15日以降は飾ってOKです。クリスマスツリーと飾る時期がかぶっても全然問題ないんですけどね、宗派もちがうし(笑)。いいお値段なので、できるだけ長く飾ってもらいたいですね」
飾りつけは12月28日までに終えるべし。29日は「二重苦」に通じ、また31日は「一夜飾り」といって、大みそかの急ごしらえで神様をお迎えするのは失礼にあたるということで、飾るには縁起が悪く、避けるべき日とされています。
Q.どのくらいもつの?
「一か月くらいはもちますね。でも日のあたる場所だと一週間くらいになっちゃうかな。色が褪せちゃいます。水をあげることで鮮度が保てますよ。普通の植木鉢と同様に水をあげれば大丈夫です」
Q.いつまで飾っておくの?
「門松を飾っておく期間を松の内といいますよね。1月7日までが一般的だと思います」
飾り終ったら三九郎で焚き上げます(正月飾りを焼く行事を長野県松本地域ではこう呼ぶそうです。長野市のある北信エリアでは「どんど焼き」の名称が一般的ですね)。
金属を使用していないため、土台の鉢以外はすべて可燃です。
「門松の作り手がだんだん減ってきています。農閑期の収入源にもなりますし、作ることで山や畑の整備になる。日本の伝統を守るためにも、作り続けていきたいですね」
年末年始に松本に立ち寄られる方は、ぜひ門松にご注目ください!