普通のだるまさんとの違いがわかりますよね

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正月用のお飾りが店に並ぶ頃となり、新春を迎える準備が着々と進むなか、日本が養蚕と深い関わりをもっていた当時の面影を、縁起物とされる"だるま"に見つけました。蚕(かいこ)とだるま。そのだるまは遡ること明治時代、養蚕の繁栄を願って盛んに作られたものでした。

湿気を嫌う蚕のために、南向きの一番いい部屋に蚕棚を設け、人間はといえば、暗い納屋の中で寝ていたというほど、人々にとても大切にされ、そしてごく身近な存在であったお蚕さん。しかしそんな養蚕の姿が見られなくなった現在にあっても、細々と作り続けられているだるまさんです。

ふさふさとした眉毛、そして頬にある丸い形の黒い髭が特徴のこのだるま、"松本だるま"と人々から呼ばれているもので、通常目にするものとはだいぶ顔の印象が違うはずです。でもなんかちょっと親しみが湧きませんか? それとも苦手でしょうか...

長野県でも珍なだるまです
名前にもあるように、県中部の松本市で作られているこのだるま、昔このあたりでも養蚕業が盛んで、多くの生産者によって松本だるまも数多く作られていたそうです。しかしそれも養蚕業の衰退と共に作られるところも、そして数も少なくなって、現在このだるまを作っているのは、松本市に1件と、松本市の隣、安曇野市豊科にある玄蕃稲荷神社(げんばいなりじんじゃ)の合計2件だけ。県内でもめったにお目にかかることのない珍しいだるまです。

そのうちの1件、松本だるまを作っている松本市里山辺の株式会社「布野恵(ふのめぐみ)だるま店」さんを訪れました。ほぼ一世紀にわたりだるまを作り、現在は親子夫婦とお手伝いさんの常時7名で、様々な種類の高崎だるまと、今では少しの松本だるまを作っています。

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「このだるまの顔の、眉毛と頬の髭がお蚕さんの紡ぐ繭を表しています」と代表取締役の布野庚介(ふの こうすけ)さん(32歳)。さらに「顔の下の赤地に書かれる金の文字は"大當(おおあたり)"と読むんですが、このだるまにはそう書くことが決まっていて、これはお蚕さんが良くとれた年を「大當」ということから、養蚕を営む農家には人気のだるまさんだったようです」と説明してくれました。

作るのがたいへんで一時製造中止に
しかしこの松本だるま、作るのは20分がかり。通常よく見かける、筆で描かれた上州高崎だるまは、職人さんの手にかかればものの2分程で顔が書き上げられるのに対し、この松本だるまは眉毛と髭に見立てた原料の麻(ヘンプ)の、黒く染め上げたものを、形良くだるまの顔の中に貼り付けていく作業は、とても根気と時間がかかるものだそうで、さらに接着剤のニカワが手に張り付いたところに毛がもじゃもじゃと引っ付いて、作業はそうスムーズに運ばないのです。そんな生産効率の悪さから「松本だるまは、一時製造を中止していた時期があったんですよ」と庚介さんは教えてくれました。

喜んでもらえるだるまを作る
しかしこの手間のかかる松本だるまが再び作られたのは、高崎だるまの生産が頭打ちとなり『人々に喜んでもらえる何かもう少し変わっただるまを作れないか』と家族みんなで頭を悩ませていた時「そういえば、昔、この辺りでは"松本だるま"を作っていたんだよな」と庚介さんのお父さんが思い出したことから、庚介さんのお母さんが微かな記憶を頼りにして、ようやく縁起だるまが再現されることになったのでした。

しかしその間「どんなだるまだったかを人に聞いたり、髭に使う麻の仕入先を調べたり、また赤地に描かれる大當の文字を当時の写真片手にああでもない、こうでもないと書いてみたり・・・でもどうせ松本だるまを作るのなら、効率を考えないで昔作っていたのと同じのを作りたいと思ったから」とそのこだわりが、当時と同じ松本だるまを再び世に誕生させたのでした。

このだるまじゃなきゃヤダの声も
松本だるまが作られるのは、作業に少しゆとりの持てるもっぱら夏の時期で、現在、布野恵だるま店さんでは、全体の約1パーセントの年1,000個ほどを製造。「松本だるまの根強いファンのために、作り続けたいと思っています」と力強く答えてくれた康介さん。というのもこの松本だるま、知らないで買って行く人が多いそうで「でも一度買うと『もうこのだるまじゃなきゃヤダ』という人がほとんど」と圧倒的なリピーターに支持されているだるまなのです。

松本だるまは、松本市内山の金峯山牛伏寺(きんぽうさんごふくじ)の厄除け祈願祭(平成23年は1月9日、10日)の露店で購入することが出来ます。また、遠くて買いに行けないという方は、布野恵だるま店へお申込みを。

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みなさまがよい年を迎えられますように
現在、松本だるまの製造を終え、高崎だるまづくりにもっとも忙しい毎日。そんな作業場では電気が消えるのもわずか数時間程度で、毎日たくさんのだるまに囲まれた環境のなか「だるまに追われる夢を、作業する誰もが一度は見る」のだそうです。

ひと筆ひと筆、丁寧に描かれるその線の、眉毛は鶴を形どったもの、頬にある髭は亀を、そして口ひげを松、赤い衣にすうっと伸びる金色の線は竹の葉に見立て、鼻を形どった赤い線は梅の花という、なんともおめでたいものが凝縮されているだるま。さらにだるまの赤い色は、その昔実在の達磨大師が赤い衣を身につけていたからというばかりでなく、魔よけや病を治す効果が赤色にはあるとされたことからなのだとか。

松本市周辺では、だるまの目入れを、目玉がまだ入らない側に「叶」とか、願いが大きく叶うよう「大」という字を入れるのだそうです。また家族一同が勢揃いする新年は、だるまの裏に家族の幸せを願う寄せ書きをする家もあることでしょう。

その家で1年を共にし、静かにしかし力強く見守っていてくれただるま。そのだるまに掲げた今年の願いは叶いましたか? それなりに良い年を迎えられた人も、もう少しだった人も、また気持ちを新たに、新しい年、みなさまが健康でよい1年を迎えられますように。


 関連サイト:

 ・布野恵だるま店のホームページ

 ・金峯山牛伏寺(きんぽうさんごふくじ)のホームページ

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