自然環境の変化がもたらしたものか、今年は野生鳥獣による被害が各地で話題です。長野県内では、昨年度約16億円の被害をもたらしました。内訳は農業が6割、林業が4割です。農業の約8割と林業のほとんどが、鳥ではなく、獣による被害でした。それでは毎年農家が頭を悩ませている鳥獣被害を紹介します。
長野県の農林業に与える被害の推移
農林業に与えている被害の状況は、平成15年度からみると最低でも13億円を超える被害が毎年発生しています。
被害状況(Hは平成)
H15年|H16年|H17年|H18年|H19年|H20年|H21年
16億円|15億円|13億円|17億円|17億円|16億円|16億円
農業に被害を与えるケモノのトップ3
第1位 シカ 15年には1億円程度でしたが
21年には3億8千万円へと被害増大
第2位 イノシシ 毎年1億5千万円程度の被害
第3位 サル 8500万円の被害
異常なまでの繁殖力 シカ
シカは、野菜や果樹が食べられてしまったり、食害や田んぼが踏み荒らされるなどの被害を与えます。草食性の動物ですが、繁殖力が異常に強いとされます。この繁殖力の強さのために、アメリカインディアンなどではシカを恋愛のシンボルとするぐらいです。密猟が多かった時には、狩猟が禁止された時期もありましたが、それから急激に増殖したようです。生後1年目から毎年1頭ずつ子供を生むことができるため、さらに群れを拡大しています。「近所でシカの群れを見ることが多くなった」という声をよく聞きます。シカは、大食漢で、一日一頭当たり3キロの植物を食べるとされます。そうしたシカが、大量に増殖していけば山の食べ物は少なくなってしまうことは必然でしょう。えさが少ないのか、天敵がいなくなったのか、こうして、人が住む畑に出てきてしまうようになります。柵を設置すれば被害は防げますが、飛び越えられない高さと強度が必要のため、費用がかさむことから、小規模では対応できません。
一晩で稲を全滅させたことも イノシシ
イノシシは、水稲や野菜の踏み荒らしや果樹を食べてしまうなど農業への被害がほとんど。警戒心がとても強いために本来は人前に姿を現す動物ではありません。雑食性の動物で、こちらも繁殖力が強く、年に1回4頭から5頭の子どもを産むそうです。特に運動能力が高く100キロを超える巨体で1メートル以上ジャンプしたり、急ながけでも簡単に登ってしまいます。宮崎アニメ「もののけ姫」では「祟り神のナゴ」とされていました。好物は、特にサツマイモやスイカ、稲、果物や昆虫の幼虫や蛇、ミミズなどで、田畑に侵入しては農作物を根こそぎ食い荒らしてしまいます。ひどいときには、穂の実った頃に田へ集団で進入し、穂を食べ、泥あびをして一晩で稲を全滅させてしまうこともあるそうです。「猪突猛進」という言葉があるとおり突進力が強いため、これを防ぐためにトタンの柵や電気柵などが使用されています。
生活被害や人身被害も サル
サルは、果樹や水稲、野菜を食べてしまう害を与えます。テレビのニュースなどで観光地のお土産やさんに入り込み、お菓子などを食い荒らす様子を目にしますが、特に農業被害が多い地域では、屋根の瓦が割られたり、人家に上がりこんでしまって住民にけがをさせるなどの生活被害・人身被害も発生しています。登る動物のため単なる柵や網では効果がなく、電気柵やロケット花火などが活用されています。
長野県の鳥獣被害対策
平成19年には、長野県が「野生鳥獣被害対策基本方針」を策定しました。野生鳥獣が増殖し、被害を拡大している原因を気象条件の変化や里山の変化で生息環境がよくなっていること、農業を行わなくなった耕作放棄地の増加や中山間地域における人間の活動の低下、狩猟者の高齢化など集落の抵抗力が弱まってきていることとして、対応をはじめています。
人や犬による追い払いや柵の設置などの「防除対策」、有害捕獲、固体調整の「捕獲対策」、環境整備や生ごみや廃果頭の除去などの「生息環境対策」に分けて、総合的に対応する必要があります。
好きこのんで人前に現れるのではありません
山の野生鳥獣も近年急速に環境が変わってしまい、生きていくために里山に出てこざるをえなくなっているのではないでしょうか。捕獲されたり殺される危険がある人前に出てくる必要がなくなれば、彼らだって人間の生活圏内には入ってきません。
主に人間がその生態系を崩してきたのかもしれませんが、山を手入れし、遊休農地を減らして、山と畑の境を作ること、そしてえさになるようなものをいっさい放置しないなど、小さなことでも継続する取り組みが必要です。
実際、山の生き物たちにも、人にも、住み良い環境が求められています。