毎日あなたが使っているお箸、どのような理由でその箸に決めましたか? デザイン? 持った時の感触? 長さや太さ? でもこれは知っておいてほしいのですが、箸選びの重要な要素のひとつに"重さ"があります。
「とかく気にしがちなのは長さですが、実は箸は重さも重要で、箸が合わないと肩こりなどの症状が現れたりすることもあります。だから箸といえども"たかが箸 されど箸"なんです。」と教えてくれたのは、県南西部の木曽郡南木曽町という木のすべてを知り尽くすといわれる木地師の里で、轆轤(ろくろ)細工の工房「1046」を営む、堀川千恵子さんです。
箸なのにこの存在感
その木の香りに包まれた工房にはクリの木やヒノキ、サワラに樫、高野槙(こうやまき)など、様々な木材の箸がたくさん並べられていました。それらの箸は一瞬で目を引くような派手さこそありませんが、素朴さの中になんとも存在感があり、また箸から温か味というかぬくもりが伝わってくるように感じます。「ここに置いてある箸はすべて、国産の木を使って手作りしているんですよ。」との堀川さんの言葉が記憶に焼きつきました。漆で塗られたそれぞれの箸は、一見するとどれも同じような箸に見えますが、ひとつを手に取れば木の種類により微妙に重さが違い、さらに、同じ木から作られたものであっても、木目によって1膳1膳が様々な表情をしているではありませんか。
長く使える箸はいとおしい
店内には漆が塗られていない箸も置かれています。「この箸は使っているうちに汚れが気になってきたら、紙やすりなどでその汚れを削って使うことが出来るので、そのうちにどんどん箸は細く短くなるのですが、そうやって手間をかけて長い間使えるこの箸のファンも多いんです。」長年食を支えてきた箸としても、本来はそのように愛着を持って使われるのを望んでいるはずだと思えてきます。
木材を加工して箸の形に整えるのは、この工房「1046」の名前の由来でもあるご主人・敏郎(トシロー)さん。木目に沿ってまっすぐ断たないと使っているうちに箸が曲がってしまうということで、なによりも木目を見極めることが大事なのです。そして敏郎さんが裁断した箸は、なんと箸の先端がピッタリとくっついているではありませんか。これってかなり珍しくないですか? それこそが1046の箸の特徴で、握って使えばスプーンの役目もこなせるのです。
箸を眺めているうちに、むくむくと自分への一品が欲しくなり、手に取って長さや木目、そして重さを確かめていたところ、堀川さんがさらにアドバイスをくれました。
マイ箸は真剣に選ぶべし
「1人1人顔が違うように、箸も1膳1膳違うから、とにかく使って試してみることが大切ですよ。」そう言って、彼女は周りにディスプレーとして置いてある飾りの置き物を箸ですくうように勧(すす)めてきました。
これまでの人生において『これほどじっくりと吟味して箸を選んだことが今までにあったでしょうか?』とこれから残りの人生の時を箸と共に刻むことを思っておもわずこちらも真剣になってしまいましたが、そんな濃密な時間も楽しいもの。 ちなみに、ヒノキは軽く、樫は重いのが特徴ですが、堀川さんのお気に入りはクリの木で、木目がお気に入りの理由だとか。
その箸は使いやすい?
店内の至る所にある箸には、それぞれの特徴を書いたコメントが添えられていました。「箸1膳、お嫁に出すつもりで作っています。だからちゃんと説明したいし、納得して買って欲しいんです。」と箸への深い想いと愛が溢れる堀川さんは「もっともっと使いやすい箸を作っていきたい」とさらなる抱負を語ってくれました。
工房「1046」は、木曽・妻籠宿の奥にあり、国道256号線を飯田市に向かって車で10分ほど行ったところにある清内路トンネルの少し手前、漆畑(うるしばた)という木地師の集落の奥まったところにあります。店内には箸の他にスプーンや左利き用のしゃもじ、お碗などの小物雑貨も多く置いてあり、見るだけでも楽しめます。
わたしはマイ箸を持っています
食べ物ばかりでなく、その食べ物を口へと運ぶ箸についても安心して使えるものを選び、国産の木で1膳1膳手作りされたとっておきの箸を使ってみれば、より一層、食べ物が美味しく感じられるでしょう。また今ではマイ箸を持ち歩いて、お昼や外出先での食事の際に、八割が輸入品である割り箸を使ってゴミを増やすのではなく、さりげなく自分だけの箸を使っている人も多いと思います。「マイカップ」「マイバック」同様「マイ箸」は、簡単に一人でもすぐにでも出来る環境に優しい取り組みです。今年はお気に入りの箸を見つけて、それと共に人生という旅を続けてみることにしませんか?
工房1046へのアクセス:
工房1046
〒399−5302
長野県木曽郡南木曽町吾妻漆畑
電話 0264−58−2488