水と空気がきれいなところはパンもおいしい

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八ケ岳高原線(小梅線)と平行して走る国道141号線を、清里高原方面に向かってずうーっとあがっていくと、松原湖高原近くでロードサイドに、麦わら帽子をかぶって微笑むおじさんの、大きな看板が目に飛び込んできます。「パン」という字がフランスパンで描かれているので、すぐにわかります。今回紹介する「(有)高原のパン屋さん」は、長野県と山梨県の境にもほど近い、八ヶ岳連峰の裾野が広大な傾斜地として広がっている、長野県南佐久郡小海町(こうみまち)にあります。

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立地からしてもふさわしい名前の「高原のパン屋さん」は、1993年(平成5年)にオープンして以来、国内産の素材にとことんこだわった飽きのこないパンで、地元の方や県外の方からも多くの人気を集めてきました。店内には豊富な種類のパンが並び、パン好きなら見ているだけでわくわくしてきます。お店の外にあるベンチでは、八ヶ岳から吹いてくる心地よい風を感じながら、焼きたてのパンを味わうこともできます。こちらの小海町店が本店で、他にも八ケ岳高原線の小海駅や佐久市にも販売店があります。

八ヶ岳の麓で毎日毎日、時間をかけて、従業員の方々とひたすらにパンを作るオーナーの品田宗久(しなだむねひさ)さん。農業と同じように、日々1日1日、毎年毎年、一見するときまりきったパン作りの作業を繰り返しているようでも、手間暇のかけかたは半端ではなく、その時その時で「おいしい」を生み出すための真剣勝負がなされていました。

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水と空気がおいしくないと
「高原のパン屋さん」のこだわりは、なんといっても八ヶ岳の天然水ときれいな空気を使って、おいしいパンを作ること。パン作りの際に生地に練りこむ水の割合は、60〜65%とかなりの量です。また、生地を焼く前段階に「発酵」という過程があるのですが、その際にパンの生地は空気を含んで2倍〜2.5倍にも膨らみます。したがってパンのおいしさにこだわるなら、もちろん、この水と空気のおいしさにこだわることも必然となってくるのです。

bread_a.jpgまた、お店は『手作り』を大切にしています。そのため、パンの出来上りまでには時間を必要とします。パンをふくらませるのに必要な酵母は、リンゴやブルーベリーといった果実を使います。このように、果実等の自然の恵みから酵母を起こしたものを使ったパンを、「天然酵母パン」と呼びます。

こうしてこのお店では、手作業で成形、分割をし、全てのパンを焼きあげます。天然酵母は酵母菌ができるまでの時間も、気温や果物の状態によってまちまち。場合によっては生地がうまく膨らんでくれないこともあります。このように手作りにこだわってパンを作るのは、たいへんな苦労なのです。

天然酵母を使わずに、全てイーストでパンを作ってしまえば時間もかからないし、膨らまないという失敗もありません。しかしながら「それでは小麦独自の風味がイーストの香りに負けて、おいしさを欠いてしまう」と品田さん。また、機械で成形、分割をするとなると、パンの生地が傷んでしまうため、添加物を入れなければならないのだとか。添加物を入れて「丈夫な生地」を作り、短時間でパンを膨らませ(発酵)、失敗なくパン作りを終えても、本当のパンのおいしさは生まれません。「じっくり時間をかけて作ったパンは、その分きちんとおいしくなってくれるのだ」といいます。

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なぜ遠方からのお客さんが絶えないのか
確かに、「高原のパン屋さん」のパンはもちもちしていて、味わいがあります。人気商品の食パン「もっちり山」はこの本店で1日200斤も焼き上げられます。素材には小麦、水、天然酵母、天然塩しかはいっていないというこだわりが、根強い人気を呼ぶのでしょう。お店では県外ナンバーの車も目立ちます。信州に遊びに来たお客さんが、お土産として買っていかれることもあります。自分のお店のパンをその土地の味として、県外のお客さんが買っていってくれる、というエピソードを品田さんはうれしそうに話してくださいました。

品田さんは常に新しい事・新しいものに触れ、新たな人との出会いを大切にする姿勢を崩そうとはしません。そうした好奇心や人との関わりから生まれる色々な考えを、大自然に包まれたご自身の中で熟成するうちに、突然アイデアが生まれて新商品が誕生することもあるからです。

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ごはんパンは新たな郷土食になるか?
現在は、信州浅科村産コシヒカリを炊き上げたツヤツヤのご飯を練り込んだパン、「ごはんパン」が人気を呼んでいます。炊いたご飯をパンの生地に練りこんで中には国産の大豆を使ったおからや、野沢菜などが入ったこのパンは、新たな郷土食となるかもしれません。ほかには、ビールの糟を使ったパンを地元ビール会社と作ったこともあるそうです。このパンを東京で行われた「アースデー」という"地球のことを考える"イベントに出展した経験もあります。

好奇心旺盛な品田さんですが、しかし大切な部分はけして変えようとしません。「自分自身に嘘をつくことはできない」とおっしゃいます。国産にこだわるため、価格の面で厳しい局面に立たされることも多々ありますが、そんな中でもなんとか工夫をし、経営を乗り切っていくことには大変な苦労があるでしょう。とはいえ信念を持って作る「手作り」のおいしさは、品田さんが一番良く知っているからこそ、今後も守り続けられるはずです。

高原のパンやさん

〒384−1103
長野県長野県南佐久郡
小海町大字豊里2098−1
営業時間 午前8時〜午後5時
(ネットによる通信販売もあります)

電話: 0267−92−2121
FAX:0267−92−2937
E-mail: info@kougennopanyasan.jp
Website: http://www.kougennopanyasan.jp/

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