昔信州ではイナゴ捕りは子どもの常識でした

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早朝――息をひそめて、そろりそろりと稲穂に近づきます。田んぼのあぜにしゃがんで、目を凝らし、その姿を探す・・・と、いた! いました! イナゴ発見です! イナゴはバッタの仲間で、稲を食べる害虫とされていますが、昔は貴重なタンパク源として広く食されていました。今ではイナゴを食べる地域は少なくなり、かつては日本の昆虫食のメッカであった長野県でも、もはやその光景はまれに見る程度になってしまっています。こんな事では伝統文化が消えてしまいます。さあさあ、集まれ、子どもたち! おじいちゃん、おばあちゃんの長寿をお祈りして、今度の連休はイナゴを捕りに田んぼへ行こう!! 21日の「敬老の日」を迎えるにあたり、「長野県のおいしい食べ方」ではみなさまの健康長寿と五穀豊穣を祈願しつつ、長寿の里で名高い信州は佐久市でイナゴ捕りをしてきました。

イナゴを食べるのは伝統文化
農村医療の先進地であり、「ピンピンコロリ」という言葉の発祥地でもある長野県佐久市は、男女共に平均寿命が全国トップクラス。佐久市野沢にはいつまでも元気に活躍できるよう、「ピンコロ地蔵」というお地蔵さんもおり、観光地のひとつになっています。佐久市で生まれた人に聞くと、1990年頃の保育園の思い出にも、みなで畑に行って袋いっぱいにイナゴを捕り、給食のおばさんに佃煮にして食べさせてもらった記憶が残っているようです。1965年頃は小学校の授業でイナゴ捕りをし、それを売ってクラスの時計を買った、なんていうエピソードもありました。つまり、長いこと子どものお手伝いのひとつがイナゴ捕りになっていたのです。ほんの少し前までかくも身近だったイナゴを食する文化。実は昆虫からタンパク質やカルシウムをとりいれるという伝統的な食文化が、長野県の長寿を支えてきたひとつの要素でもあると言われています。

ウィキペディアというインターネット百科事典で「昆虫食」のイナゴの項目を読んでみましょう。

■イナゴ

大量に取りやすいため、日本を含む各国で食用にされている。日本ではコバネイナゴが多い。日本では佃煮にすることが多いが、中国やタイでは素揚げが多い。中国雲南省のケラオ族やハニ族は、初夏に総出で稲田に出、イナゴやバッタを捕まえて食べ、五穀豊穣を祈る祭りを行っている。古代メソポタミアではイナゴやバッタで魚醤に似た醗酵調味料を作っていた。新約聖書では洗礼者ヨハネが常食したという記述があり(イナゴマメの果実キャロブであるとする説もある)、ユダヤ教の教義では、イナゴを含むバッタ類を昆虫の中では唯一不浄でない生き物としている。


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早朝の田んぼがイナゴ捕りの舞台

いざ、田んぼへ、イナゴをつかまえに
イナゴは警戒心が強く、人が近づいたとたん、一斉に「ピョ〜ン」と飛んで、田んぼの中の方へ逃げてしまいます。ですから、イナゴを捕るときはイナゴに気づかれぬよう、そぉ〜っと・・・稲穂に近づきます。すると今度は逃げはしないものの、こちらに見つけられたのが分かったのか、イナゴの方もさりげな〜く、稲の反対側に「くるりっ」。身を隠してしまいました。

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負けじと隠れた方向を覗き込むと、またまたこちらに気づいてイナゴは「くるりっ」。再び稲穂に身を隠します。まるでイナゴとかくれんぼをしているようで、はたから見ると滑稽かもしれません。しかし! こちらは真剣、イナゴと悠長に遊んではいられません! イナゴを捕まえるのに絶好の時は、太陽が昇るまでのわずかな時間。朝露に稲穂もイナゴの羽も濡れて、イナゴはうまく飛べないからです。そのため、イナゴを捕まえるのが比較的容易になります。とはいっても、イナゴの飛ぶ力はなかなかのもの。ここはやはりそぉ〜っと近づく事がポイントです。

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この日は、なんとか30匹余りを確保できたので、袋ごとイナゴを持ち帰りました。ちなみにイナゴは稲刈りの頃が田んぼに水が張った時よりも獲りやすく、またイナゴもまるまると太っていておススメですよ。

おいしくいただくために大事なこと
イナゴ料理といえば、やはり佃煮! しかし調理をする前にまず、イナゴをこのように(写真)しばらく放置して、イナゴの体内から排出物が自然に出るのを待ちます。inago5.jpgおよそ半日か一日放置すれば、だいぶイナゴの体もきれいになるのです。たとえこの過程を省いたとしても、イナゴの主食は稲なので、食べてしまっても安心なのですが・・・そこはみなさまの気持ちにお任せします^^;)

ちなみに、外につるす時は犬や猫が飛びつかないように、気をつけること。ちょっと高めに掛けておきましょう。犬や猫も好きなのですから。

さて、朝の段階で放置しておいたイナゴですが、夕方になって調理にとりかかりましょう。今回は通気性の良い手ぬぐいを縫った袋に入れておいたため、イナゴは、そのときでもまだピンピン元気いっぱい! なんだかかわいそうですが、この袋ごと沸騰した鍋に入れてしばらく茹でます。イナゴの釜ゆでですね。

inago7.jpgゆでると、やがてイナゴは海老のように赤くなります。次はイナゴの足を取ります。これをすることで、食した時の歯ざわりが良くなるのです。そしてフライパンでゆであがったイナゴを炒り、水分を飛ばします。この時、焦がさないように水分をうまく飛ばしきると、カリッという良い食感がでるんです。

いまは食文化を見直すとき
最後にイナゴを炒り終えたら、みりん、砂糖、醤油で甘辛く味をつけます。ちなみに甘めの方が好評です。イナゴの佃煮は、お酒のおつまみ、ごはんのお供にも最高ですよ! 栄養ももちろんいっぱい。今回は余り量が取れませんでしたので、イナゴの佃煮の調味料の分量は目分量です。たくさんとれた際にはNHKのみんなのきょうの料理の「いなごの佃煮」レシピを参考にするとよいでしょう。ちなみに佐久市ではイナゴの佃煮を商店や直売所で買うことができます。

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「久しく食べてないな〜」という方も、「ちょっと怖いけど食べて見たい」という方も、いよいよ秋、この連休は、田んぼに出かけませんか? 現代において健康を維持する食の提案は沢山なされていますが、長寿の里を支えてきたものの失われつつある伝統食文化を、ここでもう一度見直してみることが必要なのかもしれません。

参考レシピ:

NHK みんなのきょうの料理「いなごの佃煮」のレシピ

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