地蜂追いとは、夏が秋にかわる頃、めじるしの真綿(最近では果物などについているスチロール)にエサであるイカ、エビ等をつけ、それを蜂にくわえさせ、短距離走者のごとき足取りで、足下がどうなっていようがおかまいなしに、野山で蜂を追いかけて突き進み、蜂の飛ぶ姿を目を皿にして見極め、老いも若きも男たちが夢中になって、地蜂の巣を発見する狩猟的行為のこと。
狩猟場所 標高およそ1000mの飯綱高原(上水内郡飯縄町)
狩猟要員 地蜂追い経験豊富なリーダーに、初体験のメンバー3人で構成
それは前日に生のイカを短冊に切ったものを森の木につるすところからはじまります。このような仕掛けを何箇所かにあらかじめ施しておくのです。これが第一の仕掛けでした。そしてもうひとつ、第二の仕掛けの準備も前日にすませておかなくてはなりません。
果物をダンボールで買う時についてくる、薄い網目状の発砲スチロールを切ったものに釣り糸をつけ、その釣り糸には米粒を半分に切った程度の大きさのイカをつけておくのです。
そうしたら、後は仕掛けに誘われるように地蜂がやってくるのを待つのみ。今日のところは地蜂がこの仕掛けに食いつく期待を胸に秘めて、その蜂を軽々と飛ぶように追いかけている自分の姿を想像しつつ、森を後にしました。
信州の伝統狩猟文化へのチャレンジ
さて、一夜明ければ蜂追い本番の朝。空は雨が降ったりやんだりの悪天候です。仕掛けを見に行くと、残念ながら地蜂の姿はどこにも見えません。この日のために張り切って立ちあげた「チーム・地蜂追い」も、今日は「チーム・キノコ狩り」に変更でしょうか? うっすらと枯れ葉の積もった森の大地には、何種類かのキノコもあちらこちらに見え隠れします。仕方ない、今夜はキノコ鍋で楽しもうか・・・と少しがっかりしていた、その矢先、とある場所に仕掛けておいたイカにかぶりつく、地蜂の姿を発見したのです!
かくしてめでたくその場で瞬時に再結成された「チーム・地蜂追い」は、いよいよ地蜂を追い、巣を探り、その巣を掘り出して、蜂の子を捕る、信州の伝統文化への挑戦を、開始することになりました。
その瞬間狩人の血が沸きたつ
まずはイカに食いついている地蜂に、そっと第2の仕掛けを食わせます。これがなかなか至難の業。しかしベテランのチームリーダーが、短冊型のイカにかぶりつく地蜂に優しく近づくと、不思議と地蜂はリーダーの手から差し出された米粒大のイカの肉へと大人しく移動するではありませんか。そして小さくなったエサを手にした地蜂は、音もなく「ふわり」と、文字通り「ふわり」と、飛び立ちました。と同時に第二の仕掛につけためじるしの発砲スチロールも、地蜂に引っ張られて「ふわり」。
まるで夢でも見ているような瞬間でした。白いめじるしが、ゆらゆらと宙を舞い、飛んゆきます。『“蜂追いにはロマンがある”という理由のひとつがこのことか〜』と一瞬、「うっとり」とする新人ハンターを尻目に、チーム・蜂追いのリーダーは、山野を飛ぶように猛ダッシュ。下草も木の枝も、ものともせずに地蜂の姿を、驚くほどの勢いでどこまでも追いかけていきます。ここで少しでも目を離すと、めじるしは一瞬でふっと森の緑の中に消えてしまうのです。地蜂につけたしるしから目を離すことなく、かっと目を見開いて、とにかく飛ぶように全力でひたすらに、どこまでも追いかけることが必要なのです。
蜂追いに必要な集中力と忍耐力
「行けぇ〜!!」リーダーを先頭に、大の大人が森の中を駆け回っている光景を想像してください。
地蜂の飛んでいく方向が絞れてきたら、他のメンバーは、それぞれ地蜂の巣があるであろう方に散らばります。そしてくだんの地蜂が第二の仕掛けと共にこちらに飛んでくるのを息をこらして待ち伏せるのです。
待機したメンバーは、リーダーからの『行ったぞ〜!』という声を合図に、目を皿のようにして白い発砲スチロールがこちらに飛んでくるのを探します。そして、その目印を発見するやいなや、こちらも猛ダッシュで突進します。しかしご覧の通り地蜂は小さく、多くの草木や木々に囲まれた森の中では、すぐに見失ってしまうのです。何度も何度もやり直し・・・蜂追いには集中力と忍耐力が必要なことを学びました。「あぁ地蜂よ、いづこへ・・・」
それは無駄な時間つぶしなどではない
しかし、地蜂がやってくるのをひたすら待つ時間は、けして無駄ではありません。普段なら森の中でじっと過ごす機会などめったにないのです。ひんやりとして静かな森の中で身を潜めていると、体も心も頭も癒されてきます。
ひたすら地蜂追いに挑戦したものの、この日は、どうしてもある一定の場所を境にして、蜂の姿を見失ってしまいました。そうこうしているうち、あっという間に時間も経ち、「チーム・地蜂追い」メンバーの体力も限界に近づきつつありました。
そしてあの瞬間が訪れた
蜂追いという伝統文化の奥の深さと壁の厚さを実感し、悔しさをにじませながらもリベンジを誓い、帰り支度に取り掛かることになりました。しかしどうしてもあきらめきれず、別の場所につけた仕掛けをはずしながら、「これで最後」と、第一の仕掛けに食いついていた地蜂に第二の仕掛けをつけました。すると、また「ふわり」。
地蜂は先ほどとは別の場所へ飛んでいきます。
「走れ〜!」最後の最後の力を振り絞ってみなで追いかけました。
するとある場所で、急に蜂の姿がふっとかき消えました。そこは開けた場所だったので、きっとこのあたりのどこかにいるはずだ、とみんなで念を入れてくまなく探し周ると、はたせるかな、落葉の厚く堆積した地面に5、6センチほどの小さな穴を発見したのです。
「もしかして・・・」
息を呑んだままその穴をしばらく見つめていると、BINGO! なんと地蜂がその穴から出てくるではありませんか。これまたびっくりです。人生には悪いことばかりあるのではありません。あきらめようとした最後の最後で、ついに目的の地蜂の巣を探り当てたのです。
ついに地蜂の巣を見つけた
もちろん、チーム全員がそれまでの苦労を忘れて大喜び。通常ならここで、さっそく煙を焚いて地蜂を追い出して巣を捕るのですが、手慣れた狩人の発案で、この巣をもう少し放置して、中の蜂の子が大きく育つのを待とう、ということになりました。
というわけで、誠に勝手ではありますが、本日の報告はここまでとなります。信州ロマン探求地蜂追い隨行記は後編に続きます。次回「蜂の子を食すの巻」を刮目(かつもく)して、しばし待たれよ。
あわせて読みたい:地蜂とりは信州の男子にとっての通過儀礼だ(2008年8月20日号)