実録●信州ロマン探求地蜂追い隨行記 後編

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地蜂追いとは、夏が秋にかわる頃、めじるしの真綿(最近では果物などについているスチロール)にエサであるイカ、エビ等をつけ、それを蜂にくわえさせ、短距離走者のごとき足取りで、足下がどうなっていようがおかまいなしに、野山で蜂を追いかけて突き進み、蜂の飛ぶ姿を目を皿にして見極め、老いも若きも男たちが夢中になって、地蜂の巣を発見する狩猟的行為のこと。

狩猟場所 標高およそ1000mの飯綱高原(上水内郡飯綱町)    
狩猟要員 地蜂追い経験豊富なリーダーに、初体験のメンバー3人で構成

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先週の金曜日、天気は晴れ、午後3時をまわった頃。再び決戦の幕が切って落とされました。舞台は長野県上水内郡飯綱町の森の中。先月の「長野県のおいしい食べ方」第218号「地蜂追いロマン紀行 前編」では、信州の伝統狩猟文化である「地蜂追い」のために編成された「チーム・蜂追い」が、信州の精神を求めてこれに挑む姿をご覧いただきました。地蜂が巣に戻る姿を何度も見失って、苦戦を強いられます。半ば諦めかけて「それでも最後に・・・」と、ある地蜂にめじるしをつけてメンバー全員が全力で追いかけた時、奇跡的に「地蜂の巣」を発見したのでした。今回みなさまにお届けするのはその後編です。期待して待ってくださった方、お待ちどおさま、いよいよ後編のはじまりです。地蜂の巣を掘り起こし、そして地蜂と蜂の子を食すまでを、レポートします。

手にとった巣から漂う独特の香り
飯綱町の森の中、目的の場所に到着して、巣穴をのぞいてみると、地蜂たちがせっせと巣穴から出入りを繰り返しています。「シャッターチャンス!」と張り切ってカメラを構えましたが、カメラのフラッシュに反応したのか、もしくは巣穴を狙っているのが分かったのか、地蜂は警戒した様子で、こちらの耳元へ向かって「ブ〜ン!」・・・こ、これは大変だ〜、と慌てて逃げる始末。やはり頼りになるのはわれらが「チーム・地蜂追い」のリーダーです。網のついた帽子に軍手をはめて、片手には地蜂の動きを鈍くさせるための煙硝(えんしょう)を持ち、火をつけました。

これは巣を掘り出す際に、煙幕で地蜂を気絶させるための重要アイテムです。「さあ、やるぞ!」というリーダーの声に、メンバー全員に緊張が走りました。もくもくと煙幕があがったかと思うと、リーダーはすぐさま地蜂の巣へその煙硝(えんしょう)を押し込みました。ここから先は、どんな大きさの巣が捕れるのだろうかと、地蜂を捕る人たちは、期待に胸が踊るところです。

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煙硝(えんしょう)を巣穴に入れてから数秒後、リーダーは鎌と手を使い、ものすごい勢いで土を掘って、掘って、掘って、ひたすら堀りおこします。他のメンバーはその光景に釘付けでした。じょじょに土が掘り起こされてゆくと共に、緊張も期待へとかわります。高鳴る胸を押さえつつ見守っていると、ついにその姿が見えました(!)見事な地蜂の巣ではありませんか。リーダーがのたまいます。「蜂追いの醍醐味は掘り出した時の達成感と、手にとった巣から漂う独特の香りだ」と。

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撤退しながら巣のあったところを振り返えると
それは、あっと言う間の出来事でした。さらに息つく暇もなく、リーダーは手際よく新聞紙に地蜂の巣を包みます。しかし、もろい地蜂の巣はボロボロと崩れてしまいそうです。今回の地蜂の巣が埋まっている場所は、土が固かったためにうまく取り出すことが困難でした。それでもなんとか掘り出して新聞紙に包んだ巣を、メンバーは優しくビニール袋に入れて、素早く口を結びます。そして、巣を取られた地蜂たちの攻撃を避けるため、巣穴掘りからほんの5分ばかりで「チーム・地蜂追い」は、一目散にその場を撤退したのです。

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巣を掘り出した跡の地面はならされて、まるでなにごともなかったように見えます。帰り間際に振り返ると、跡地には地蜂が4、5匹静止したまま、静かに飛んでいたのが印象的でした。無くなってしまった自分のすみかがあったはずの場所を呆然と見つめている姿に、胸が痛みました。

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掘り出したその日に調理まで
無事に巣穴を掘り起こした「チーム・地蜂追い」は、リーダーからその調理法を教わり、現場を後にしました。採れたての巣から今日のうちに蜂の子を取り出して、悪くならないうちに調理してしまわなければなりません。

まず、新聞紙に包んだ巣を、新聞紙ごと蒸します。ただし、地蜂がビニール袋や新聞紙から出てきて刺されないように、ここでも慎重かつ素早い作業が肝心です。

蒸し器から蒸気が上がってから約5分もすれば蒸しあがります。辺りには深い土の香りを合わせたともいうのでしょうか、地蜂独特の香りがたちこめました。

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蜂の子をすべて取り出すまで
さて、ここからは蜂の子を巣から一匹ずつ取り出すという地道な作業にかかります。小さい巣とはいえ、中には蜂の子がびっしり。ご覧の通り、巣の中心に向かうにつれて幼虫からさなぎに変化しているのがわかります。もう一週間もたてば、だいぶ幼虫が地蜂に成長して巣から飛び立ち、大部分がこのように収穫ができなかったかもしれません。危ない、危ない。

こうして、5人がかりで約1時間、全ての蜂の子と土に混ざった地蜂を取り出しました。通常はピンセットで取り出すのですが、蜂の子が非常にやわらかく、潰れやすかったため、今回は素手で取り出しました。試しに・・・と、少し勇気を出して蒸しただけの蜂の子を食べてみると、味は後味まったり、まるでバターのような味わいです。

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すべてが初体験で戸惑いも多かった、一人前の信州人として地に足をつけるための「地蜂追いロマン紀行」も、いよいよ最終段階に突入です。ここからは高級珍味ともいえる地蜂料理・地蜂の佃煮を仕上げていきます。

なんだか気持ちがひるみます。しかし、思えばここに来るまでには長い道のりでした。蜂の子が崩れないように恐る恐る土を洗い流しながら、走馬燈のように思い出しました。森を全力で走ったこと、地蜂を見失って皆でがっかりしたこと、奇跡的に巣穴を発見したこと。そしてふと、無くなってしまった巣穴の跡地を、悲しそうに飛んでいた地蜂の姿が眼に浮かびました。あの地蜂たちも、目の前の捕らえられた地蜂たちも、毎日毎日、太陽が照る日も雨の日も、せっせと森の中を飛び回ってエサを集め、巣を守り、この蜂の子たちを育ててきたんだよな――と。

「ああ、そうだ。命をいただくって、こういうことなんだ。」

そう改めて考えると、なんだかじーん、ときました。地蜂に関わらず、食べ物のすべてにはこういう過程があるのだということ、忘れてはいけない、食べるのならありがたくいただこう、という気持ちにさせられました。

すべてをありがたくいただきました
蜂の子の佃煮の味付けはシンプルに、砂糖と醤油のみです。地蜂も蜂の子も一緒にして、カラカラにならない程度に油で炒めた地蜂と蜂の子を甘辛く煮付けます。

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そして完成。さて、そのお味はというと、口に入れた瞬間は甘辛い佃煮の味ですが、後から地蜂の独特の香り(土の奥深くに鼻を押しつけて嗅いだようなにおい)が後をひいて、口中に漂います。これこそがごはんやお酒のおつまみに最適な、信州の高級珍味です。

最初から最後まで楽しめた「地蜂追い」。みなさまも機会がありましたら、地蜂を追って森を駆け回るのもよし、食すのもよし。ぜひ一度、信州の大地のスピリットに触れるために挑戦してみるのはいかがでしょうか。

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