「よっし、さくらんぼを食べてくるぞ」と覚悟を決めて出かけました。市場では高級品として扱われ、価値が高いとされるさくらんぼですが、信州には観光農園があるおかげで、あなたがもし時間を止めることができるのなら、そのさくらんぼを思う存分、好きなだけ食べられることができます。
今回はさくらんぼとぶどうの観光農園を営みながら、さまざまなアイデアを盛り込み取り組んでおられる北信州中野市の『武六園(たけろくえん)』を訪ねました。園主は武田幸悦(ゆきよし)さんです。
いざ巨大なビニールハウスの中へ
武六園は、有名な志賀高原の手前に裾野を広げる高社山(こうしゃさん)、愛称を「高社(たかやしろ)」といい、その姿が富士山に似ていることから高井富士(たかいふじ)とも呼ばれる雄大な山を正面に望む、清々しい気のあふれた場所に位置します。骨組みのしっかりした巨大な透明のビニールハウスがいくつも建ち並び、ハウスとハウスのあいだにはぶどう棚が広がっています。
大きなハウスのひとつに一歩足を踏み入れると、そこはサクランボ大好き人間が夢見た世界。無数の大粒の真っ赤な果実が人の訪れを歓迎するかのようにつやつやと輝きを放ち、その美しさにしばらく呆然としてしまうほど。なんと見事な鈴なりのサクランボでしょうか! 枝は、あまりにたくさんついたサクランボの重みで幹が垂れ下がっているように見えます。
口のなかに広がる甘味と酸味の絶妙な味わい
赤い実の誘惑に負けて、とるものもとりあえず、手を伸ばして、艶やかでパンパンに張ったその実をとりあげて口にそのまま入れると、薄い皮が歯と歯の間で「パチッ!」と弾け、その瞬間、甘味と酸味の絶妙な味わいがふわーっと口の中いっぱいに広がりました。
自分のお気に入りの味を見つけましょう
味を確かめつつ、立ち止まり立ち止まりしつつ、園内を奥へ進んでいくと、香夏錦(こうかにしき)、高砂(たかさご)といったさくらんぼの種類を書き記した看板があり、他にも、佐藤錦(さとうにしき)や、紅秀峰(べにしゅうほう)といった品種のさくらんぼもあります。こうやって歩き回りながら、園内でいろいろな赤いルビーを食べ比べて、お気に入りの品種を見つけるのも、まあさくらんぼ狩りの楽しみ方のひとつです。
でも、なぜにここれほど皮が軟らかくて、食べやすくて、いくらでも食べれてしまうのでしょうか? うーん、困った。手が止まりません。
理由は、ハウス栽培にあるのです。もともと北信濃は雪が多く気候の厳しい土地。世界規模で原油が高騰しつつある燃料高のなか、雪や雨や風を避けて、冬の寒い間、さくらんぼはハウスの中で大事に大事に、温度調節をしながら暖かく管理されていたおかげでこそ味わえる味覚なのです。
時間のことだけは忘れませんように
国産さくらんぼの全体の生産量では、みなさんご存じの山形県などが有名ですが、ことハウスさくらんぼに関しては北信州のここ中野市が他を抜いて第1位。しかもJA中野市では、ハウスさくらんぼを提供する体制が整えられており、「さくらんぼ部会」の中に「観光部会」なるものが存在し、どの場所でさくらんぼ狩りをしても、料金が一定となるよう設定してあるため、値段を気にする必要もなく、さくらんぼ狩りが楽しめるのです。
武六園では現在さくらんぼ狩りの申し込みをホームページでも受けつけています。30分食べ放題で1人2000円。Eメールでの予約申込には割引きがあって1人1600円。最近ホームページにさくらんぼ狩りのPRをはじめたところ、さっそく申し込みが多く入っているいうことで、取材に訪れたこの時も、徳島県の人からの問い合わせがあり、今は平日でも数件の申し込みが入る状態で、他にも観光バスを受け入れるなど、おいしいさくらんぼが楽しめるこの短い1ヶ月間は、とにかく忙しいのだと言います。
リピーターのお客さんが増える
あわただしく対応に追われる武田さんは、この観光農園を始めて6年目。当初は、こんな山の近くにある、大型バスが入るのも困難そうな純農村地帯に、果たしてわざわざ人が訪れるのどうか、不安だったといいます。しかしいざはじめてみると、「道に迷った」とか、「看板がわかりづらい」とか言われるものの、それでも「また来年も来ますよ」といってくれるお客さんがほとんどで、とにかく毎年リピーターが多いそうです。
のどかな自然のなかでひとときを過ごす
世の中の人ははこういう場所を求めているのだなということを、観光農園を行い、人と交流を深める中で実感しているそうです。武田さんが考案した農園のロゴマークに入っているように「Bucolique(フランス語で「牧歌的な」の意味)な農園でありたいというのが望みです。「ハウスの外を流れる小川の音も、のどかで心地いいでしょ?」と、ここでの楽しみをもうひとつ教えてくれました。
観光農園の見ている夢
さくらんぼの他にも、昨年の秋からぶどう狩りもはじめていますし、観光農園の他には加工品の製造販売を多く手掛け、特に、昨年から作ってみたというさくらんぼのジャムのラベルの完成を、今は楽しみに待っているところだとか。
さらにまた、近隣の仲間と立ち上げたワイナリ−は「たかやしろファーム&ワイナリー」といって、さくらんぼやりんご等のジャムや、リンゴジュース(県内外の一流ホテル等に納めている)、また、ブドウのワイン(世界標準を目標にしており、昨年のジャパン・ワインコンクールでは銀賞・銅賞に輝いた)を製造・販売しています。
アイデア豊かに様々なことを展開している武田さんは「まだまだ県内外には素晴らしい観光農園主が大勢居るので、勉強させられることばかりだ」と言います。今はここから100キロほど離れた場所で暮らす息子さんが、時々帰ってきて一緒に作業を手伝ってくれるのが楽しみだし、嬉しいと言います。やれることはたくさんありますよと、遠くを見つめて話す武田さん。今後どのようなことを展開していくのか楽しみです。
さあ、さくらんぼ狩りに出かけよう
武六園のさくらんぼ狩りは6月いっぱいまで美味しく楽しめます。また、ここをはじめとする中野市のさくらんぼ狩りの予約は、観光物産館「オランチェ」でも出来ますので、今だけ、初夏だけ、6月だけの味覚を存分に多能し、30分間のルビー色の夢をご覧ください。
関連サイト:
武六園ホームページ
JA中野市農産物産館オランチェ(観光農園情報)
たかやしろファーム&ワイナリー
参考記事:
小さなワイナリーの作った折紙付きのワイン