ばあちゃんのうまい味を盗め いくさもち編

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「あっ!いくさもち!いくさもちの匂いがする!!」と玄関を開けるなり、ランドセルをしょったまま台所に走ってくる。食べ物ってやっぱり嗅覚が先に心を躍らせるんだよねー。

このぼたもちがうまいんだ
「おー、おーっ、うるさいのが帰ってきた。おかえりー」と、ばあちゃんがうれしそうにすりこぎの手を更に早めに動かしながら焦りだします。「はやく〜はやく〜」とできあがりを待ちわびる孫達は目が輝き早く食べたいと大騒ぎ。

これが香ばしい匂いが更に食をそそる「いくさもち」なんです。孫の大すきな、また甘党のじいちゃん、この地区に嫁にくるまで知らなかった「いくさもち」にしっかりはまってしまった私のために、せっせとつくってくれる"ぼたもち"なんです。

「いくさもち」をつくる時は、ばあちゃんは実にかっこいい。

また、いつになくばあちゃんの得点があがるんです。

egoma.jpg家で作るおいしいもの
ところで「いくさもちのいくさって何?」って声が聞こえてきますが、これは「エゴマ」のことです。長野県の北信地域、長野市鬼無里、戸隠地区と上水内郡信濃町、飯綱町、豊野町などではエゴマ(荏胡麻)のことを「いくさ」とよびます。または、方言がまじり「えくさ」、「えぐさ」ともいいます。「荏くさ」と漢字で書くこともあるようです。エゴマは一年生のシソ科植物で、寒冷地でも、荒廃した土地でも十分育ちます。でも最近ではつくる人はあまりいなくなってしまいましたね。

収穫の秋、この「いくさもち」は、稲刈り、脱穀等の作業が終わった後に、「ご苦労さん、終わってよかったね」と慰労をかねてよくこのおもちを食べたそうです。そのとおり、わが家でも田植え、稲刈り、脱穀のあとは必ずばあちゃんが張り切って作ってくれました。

できあがったぼたもちは神棚、仏壇にお供えしてから、豊作、健康すべてに感謝しながら家族全員でいただきます。でも特別な時だけではありません。この「いくさのおもち」大すきなわが家にはひんぱんに登場しています。雨がふれば「ばあちゃんいくさのもちやって」との声がかかります。ばあちゃんは畑仕事が忙しいので「晴耕雨読」ならぬ「晴耕雨"作"」。雨がふると畑仕事ができない分、家の中でおいしいものを作ってくれるのを孫達はちゃんと知ってるんです。

このところずっと雨が続いています。

今晩は、リクエストに応えていくさのおもちかも。

簡単にレシピを書きます。みなさんも、是非お試しください。

いくさのおもちの作り方

 もち米5合は1時間ほど水につけておく。水はもち米から1cm上まで。炊いてから熱い内に内釜を炊飯器から取り出し、水でぬらしたすりこ木で半殺し(半つき)に。2、3分で粘り気がでできたら完成。

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 「いくさ」は熱したフライパン(どのお宅にもある25センチから28センチ)に50グラムをいれ中火で炒る。(それ以上だとまんべんなく火が通りません)一部分のみがこげないようにフライパンを動かしながらまんべんなく熱を入れ、「パチン、パチン」といくさががはねてくるので10粒位はねたら火を止め、すりばちにいれる。フライパンで150グラムのいくさを50グラムずつに分けて炒り、全部炒り終わったら、まとめて熱いうちにすりこぎで摺ります。殻が残っているとニガ味が出てきますので、摺りながら息をかけ、すりばちの外に皮をとばしていきます。(完璧に殻はとらなくても大丈夫)

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 いくさから油が出てしっとりしてくるのでここで、好みの砂糖、塩少々を加える。

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 モチを約60グラムずつにまるめ「3」の中に入れ、まわりにつけて完成。(油分で砂糖の味が薄れてしまうので多めに餡をつけてください)

伝統の味とはこう言うもの
ばあちゃんは、毎年かかさず、自宅で食べるためにいくさを育てています。家ではこんな場面がしばしば続き、今、その孫(長女)は成長し結婚、子どもが生まれ、ばあちゃんからすればひ孫が2人できました。

今では ひ孫が「ただいまー!あっ!いくさもち!いくさもちの匂いがする!!」とくんくんしながら台所に入ってきます。ばあちゃんは昔とかわらず相変わらずせっせと「いくさもち」をつくります。耳が大分遠くなり「いつ帰ってきたんだやー。ただいまぐらいいえばいいのに。全然わかんなかったさー」なんていっていますが。(^-^)

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この他、いくさは、1年の中で何度も登場します。季節に合わせ、和え物になったり、正月は雑煮にいくさのタレをかけたり(これは絶品)。冬至に大根、カボチャの汁物に入ったり。釜揚げうどんのつゆになったり。とにかく風味も味も抜群。

また季節ごとにこれらの紹介をしてみたいと思いますが。ばあちゃんの「うまい味」は私も、娘、その子ども達も口で覚えた味は一生忘れることなく次世代につながっていくのでしょう。得点の高いばあちゃんの秘伝を覚えながら、そしていつもうまーい「いくさのおもち」をつくってくれるばあちゃんに感謝。そして私は、得点の高いばあちゃんめざし、次世代に残さなくちゃいけない"郷土料理"を五感で修業中であります。

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