「この“ねこ”、とっても暖かくて具合がいいのよ」そんな不思議なものの名前を耳にして、その“ねこ”とやらを見せてくれるというお母さんたちのもとを訪れました。
今その“ねこ”作りが、県北部・長野市にあるJAながの女性部安茂里支部の方々の間で広まっているのです。代表である塚田みさおさんが、県南西部の木曽郡南木曽町で、以前から“ねこ”が着られているのをたまたまテレビを見て興味を持ち、早速取り寄せたのだとか。そしてエコが叫ばれた昨年から、環境に優しい取り組みをしようと考え、“ねこ”を着ることによって暖房の温度を少しでも低く抑えられるようにと、その作り方を詳しい人に教わり、女性部員が2時間をかけてこの“ねこ”の製法を完成させたのだそうです。
それはいうならば防寒具
目の前に置かれた「ねこ」と呼ばれるもの、それは、袖と前身ごろが無い薄手のちゃんちゃんこのような、リュックのないリュックサックのようなものでした。背中から腰にかかるいうならば防寒対策ギアなのです。「ねんねこ」が語源なのでしょうか? でも体を保温するにしては、少し寒すぎるような気もします。
「背中と腰が暖められるだけでもだいぶ暖かいと感じる。畑や家事など、体を動かす作業を行う場合には、袖が無いことで反って作業がし易いからこのくらいが調度いい。また背広やジャケットなどの下に着ても暖かくていいのよ。」
そう言ってお母さんたちが、しきりとねこの着心地の良さを試すように勧めてくれるので、まるで空っぽの大きめなリュックを背負うように、そのねこを身につけてみました。
ほーっ、なかなか快適快適。しかもけっこう暖かい。
おばあちゃんの知恵と経験で難題を克服
話をうかがったところ、難しかったのは、綿を布と布との間に入れる綿入れの作業だったとみな口々に言います。ところがそこは幅広い年代と豊富な経験の持ち主が集うJA女性部ならではで、昔は半てん等を作っていたという先輩たちに上手な綿入れの方法を伝授され、知恵を結集した結果、見事に完成したのです。「やはり年配の人の知恵はすごい」とみなは感心したそうです。
ねこ作りを広めた塚田さんは、これまでにすでに8枚のねこを製作。また他の部員の方も「主人や娘、息子には作ってあげたけど、今度は孫や親戚へあげたり、また近所の人にも作って欲しいと言われてるから、農作業や家事の合間にあと数枚は作らないと」と生き生きと話します。実は若い人たちにもこのねこは評判がいいそうで、「学生の子供や孫がお正月帰省した際、家で着ていることを勧めたら、黙ってそのまま持ち帰ってしまったのよ」と話すお母さんが何人もいました。
暖かい割にはとても薄くて軽く、手放せないほどの具合の良さを実感します。このねこを着ていれば、家のなかで1〜2℃くらい、通常よりも温度を下げていられるといいます。
家族みんなで着るのがエコ
「ただしこのねこ、自分独りだけが身につけていても、一緒の空間に居る人が薄着だと、その人の寒さに合わせて温度が調節されるので、温度を下げることは出来ない。ポイントは、一つ屋根の下に暮らす人がみんなでこのねこを着ること」と塚田さん。「県内においてはこれからもまだまだ田植えの頃まで、そして7、8月の暑い時期を除き以降ほぼ1年中、ねこは外に羽織ったり、内側に着たりと重宝することになるでしょう」
初回は、布団屋さんからハギレを購入して作ったというねこですが、「しかしこれからは家のタンスの中に袖を通さないで眠っている着物や洋服を使ってリサイクル出来たら、更なるエコとなっていいですよね」と塚田さんをはじめ女性部の方たちは、ねこ作りに対するさらなるアイデアがどんどんと膨らんでいるようでした。
わたしにも1枚つくってほしいな
前身ごろが無い為にモコモコとした感じがなくて、正面からでは周りの人に気づかれず、また自然な着心地で背中がぽかぽかと暖かくて、気持ちよくて、いつしか着ていることをすっかりと忘れてねこを着たまた帰りそうになったほど。ジャケットの下から布が出ているのに気づいて引き止めてくれたお母さんたちに、本当は「わたしの分も1枚作って欲しい」と言いたかったのでした。