おいしい牛肉になる信州の子牛に会いに行く

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今年は「丑(うし)年」。「丑」は本来は「種子のなかの芽」を意味するのですが、十二支として覚え易くするために、発音が同じ「牛」が選ばれたのです。十二支の順番をきめるレースでは、ほんとうは牛が先頭にいたのですが、ゴール寸前のところで牛の頭に隠れていた鼠が牛の前に飛び出たとか。おかげで去年が「ねずみ年」で、今年が「牛の年」、「イヤー・オブ・ザ・カウ」です。

牛は、いまやわたしたちの食生活にはかかせません。朝に牛乳をゴクリと飲み干して家を出て、昼食とともにヨーグルトでお腹を調整し、夜は盛大においしい焼肉をいただく、という日もないわけじゃありません。ところで読者のみなさんは信州産の牛肉となる牛がどのように育てられ、いかなる経緯をたどってわたしたちの口に入るのかご存じですか?

子牛の競り市の様子を見てきた
信州では、昔から畜産業が盛んで、肉牛、乳牛の飼育や乳製品の加工などの分野も広くおこなわれてきました。今回は南北に長い長野県でも最西南端にある、根羽村(ねばむら)の根羽家畜市場を訪れて歴史ある子牛セリ市の様子を見てきました。

sijyou.jpg根羽村は、東の一部が岐阜県、西南は愛知県に隣接していて、年間降水量が近くの飯田市や名古屋市より約1.4倍(年間2000ミリ)と多く、杉や檜がよく成長します。村域の92%を山林が占めていて、四季折々のビューティフルな景色に出会うことができ、「にほんの里100選」にも選ばれた自然豊かな山村です。その根羽村を含む下伊那南部地域一帯は、古くから和牛の生産地として自然環境、立地条件に恵まれてきました。

繁殖と肥育が別れているシステム
牛を育てる農家には、ふたつのタイプがあります。「繁殖農家」と「肥育農家」です。繁殖農家は、優秀な雄牛を独自の人工授精技術により、子牛を産ませ、約8ヵ月飼育します。子牛は、成長によってはお母さん牛のお乳だけでは栄養が足りず、直接栄養価の高いミルクをあげることもあります。そして、産まれてからようやく3ヶ月が経過する頃から自分でエサを食べることができるようになります。エサは、基本的に朝と夕方の2回。昼間の作業は、牛舎の掃除、敷料(しきわら=牛の寝床として敷くものの。主に稲ワラやオガクズ、モミガラ)の交換などの作業をしながら、一頭一頭がエサをどれくらいのスピードと量を食べているのかを見るのです。そうすることで、その子牛の食欲や健康状態を見分け、体調変化や病気などに注意しなくてはなりません。

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5ヶ月が経過すると、子牛の生年月日や血統、生産地(繁殖地)が明記された、子牛登記証明書(社団法人全国和牛登録協会等が発行)、いわゆる牛の「戸籍」となるものが作られます。そして、名前(号名)が、父牛と母牛の名前を組み合わせたり、屋号や農家の自分の名前をつけたりで、それぞれつけられます。多いのは、父牛と母牛の名前を組み合わせるもので、こうするとどこの優秀な牛であるか、血統が一目同然だからです。また、牛の名前づけにはひとつのルールがり、雄牛は漢字、雌牛はひらがなの名前をつけるというふうに昔から決められているそうです。

子牛とはいえすでに迫力じゅうぶん
kenami.jpgそうして約8ヶ月たつと、子牛は根羽家畜市場などの子牛セリ市に出されて、今まで育ったところから新たな肥育農家へ引き継がれます。つまり子牛を肥育農家が買うのです。もちろんその頃になると子牛と言っても約240〜300キロありまして、すでにどこから見ても迫力十分です。よい子牛の条件を農家に聞いたところ「毛並みや全体の肉付きバランスがよく、病気をしていないこと」などがあげられました。さらに、体のバランスの良さをどのように見分けるかと言うとプロは「お尻」を見ます。siri.jpg綺麗な曲線と肉付き、そしてお尻がグッとしまっていることがポイントなのだとか。

子牛がセリ会場に入ると独特の緊張が会場を包みます。子牛は、平均40万円前後で取引され、中には60万円以上の値がつくものもあります。セリには、長野県内だけでなく県外からも肥育農家が来ます。実は、全国のブランド和牛も、こうして中には牛が生まれた産地だけでなく、肥育農家が育てあげた優秀な牛を各産地で買いつけて自らの産地で育て、ブランド牛として出荷することもあります。

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よく食べてよく眠るとおいしい肉に
市場から新たな宿舎へ移った子牛は、肥育農家の手でさらに念入りに約20ヶ月育てられます。体を大きくするためにエサは1日に約8〜10キロ食べます。そして、美味しい肉をつけるために、よく寝るのだそうです。よく食べ、よく寝ると、体はどんどん大きくなるそうです。やがて産まれてからあわせて28ヶ月たち、体重は約700キロ以上になると、いよいよ出荷の時を迎えることになります。

その後、食肉処理された牛たちの肉は、仲卸売業者を通じて消費者が調理しやすい大きさに精肉されたあと、肉屋さんやスーパーなどに運ばれて行きます。長野県の信州和牛は、主に関東、中京、関西等へ運ばれます。

農家は厳しい経営を迫られている
現在、ご存じのように牛たちの食べる「エサ」などの生産コストが上昇し、農家は大変厳しい経営を迫られています。エサと言っても種類にはさまざまで、本来、牛は草食動物ですから、草をたくさん食べていれば生きていくことはできます。しかし、さらにもっとやわらかい肉を体につけるためには、農家はカロリーたっぷりのトウモロコシや麦を飼料として与えなくてはなりません。

これらのトウモロコシや麦、大豆などの穀類の多くは海外からの輸入のもので、原油価格高騰はひと段落したものの、他国の人口増加・発展途上国の経済発展・バイオ燃料の増加などの影響もあり、依然飼料価格は高水準で推移したままであるため、生産者は頭を悩ませています。

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どの肉も同じではありません
このように手塩にかけて育てた牛たちのことを、もっと知ってほしい、食べてもらいたいと、生産者は願っています。JAグループもその後押しを惜しみません。つまり、消費者の皆さんにも食肉生産現場の置かれた状況を共に考えてもらい、そうしたことを理解したうえで、おいしい牛肉を選択して食べてもらうことは、ひいては農家の生産継続につながり、さらにそのことで地域の景観や豊かな食文化を守っていくことにつながるのです。

2009年、惜しみなく愛情を注がれて育てられた美味しい和牛をモ〜っと食べて、あなたもおいしい笑顔を広めてください。

関連サイト:

JAみなみ信州の畜産HP

JA全農長野による「信州の牛肉とは」のページ

社団法人長野県畜産会による信州のちくさん広場

根羽村公式ホームページ

参考資料:

農林水産省作成パンフレット「飼料価格高騰等の畜産をめぐる状況変化」

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