おいでよ、信州へ果樹の花を楽しみに

あんずの花春の訪れとともに、フルーツ王国信州は、果樹の花の季節を迎えます。4月上旬からアンズ、スモモ、モモ、ナシ、オウトウ(サクランボ)、リンゴと順番に開花していきます。今年の3月は気温が高めに推移していたため、例年より開花が早まるかとの予想もありましたが、下旬の冷え込みで平年並みといったところのようです。花の時期は、開花直前の気温に大きく左右されるので、関係者もやきもきする季節です。

だから果樹の花は美しい
bp060405_12s.gifまずは左に掲げた長野県果樹試験場の作成した「平年の果樹の生態」という表をご覧ください。花の開花時期を調べたりするのに役に立つ表ですが、最新のデータの入ったものは「平成18年果樹生態調査」としてアップデートされています。この表を見ると、発芽と開花のあいだに「展葉(てんよう)」という項目があることに気がつきます。これは「葉が広がる」という意味の園芸用語です。

そして果樹の花がたいそうに美しいのは、桜と同様に枝葉が伸びる前に一斉に枝に花をつけるからかもしれません。しかし果樹(本人?)にとっては、葉が少なく同化養分がほとんできないときに、それまで蓄えた養分を使って、花を咲かせるわけですから大変です。そして精一杯開いた花は、受精し子孫を残す種を作るという大切な役割を持たされているのです。

人間は種ではなく、実をいただくので、果樹農家は摘蕾(てきらい)??つぼみを摘むこと??や受粉の手助けをしながら、良い果実がなるようにします。品種によっても異なりますが、リンゴやナシ、オウトウなどは、同一の品種の花粉では受精しないものがほとんどですので、交雑和合性のある受粉用の品種の花粉が必要になります。反対にモモやブドウは自家和合性で、自分の花粉で受精します。

それではそれぞれの果樹の開花を調べてみましょう。

アンズ

アンズ『信州大実』の花淡いピンク色の花を咲かせるアンズは、長野県の北信地方の春を告げるように、4月初旬に開花します。なかでも千曲市森地区はアンズの里として有名です。今年は4月5日から20日まで「第51回あんず祭り」が開かれ、ひと目10万本と言われるアンズの花を見に、県内外から多くの観光客が訪れます。

indexarrow1.gif アンズについての本誌アーカイブ

スモモ

プルーンの花白い花を咲かせるスモモは同一品種同士では受精しない自家不和合性品種が多く、栽培するには交雑和合性のある他の品種を混植します。受粉は通常花から花へと飛び移る蜜蜂などの訪花昆虫を利用して行われますが、実止まりの悪い品種や結実不良園では、人口受粉をする必要があります。長野県では、西洋スモモのプルーンの栽培も盛んで、生産量は日本一。東信地方の佐久穂町や佐久市、北信地方の長野市などで生産されています。

indexarrow1.gif プルーンについての本誌アーカイブ

モモ

モモ『白鳳』の花モモの花はピンク色で、春の季語にもなっています。長野県では、広く全県で栽培されていますが、有名なのは長野市川中島地区。4月の下旬になると一帯がピンク色に染まり、まさに桃源郷のようです。モモは一般的に自家和合性ですが、品種によっては花粉が無い品種や少ない品種があり、これらの品種を栽培する場合には、花粉の多い品種と混植します。受粉は訪花昆虫を利用して行われますが、開花期が低温の場合などは結実数を確保するために人工受粉をすることもあります。

indexarrow1.gif モモについての本誌アーカイブ

ナシ

ナシ『幸水』の花ナシは白くボリュームのある花を咲かせます。長野県では全県で栽培されていますが、南信地方の上伊那地域や下伊那地域で栽培が盛んです。ナシは同一品種間では受粉しないため、交雑和合性のある他の品種の花粉を人工受粉することで結実を確保します。多くの品種と親和性があるヤーリー、松島などが受粉専用品種として栽培されます。受粉用の花粉は、開花前の蕾(つぼみ)をとり、開葯して集めた花粉を綿棒などにつけて1花ずつ触れて受粉します。

indexarrow1.gif ナシについての本誌アーカイブ
indexarrow1.gif ナシ『南水』についての本誌アーカイブ
indexarrow1.gif ナシ『西洋ナシ』についての本誌アーカイブ


オウトウ(サクランボ)

サクランボ『ナポレオン』の花白くボリュームのある花を咲かせるサクランボは、同一品種の花粉では受粉しない自家不和合性の代表的な果樹です。ですから、植える時は交雑和合性のある品種を混植します。『ナポレオン』や『高砂』は比較的他の品種との交雑和合性がある品種。受粉にはマメコバチなどの訪花昆虫も利用できますが、結実安定のため毛ばたきによる交互受粉や綿棒による受粉などの人工授粉が行なわれています。サクランボは、1つの花芽に1?6個の花を着けます。結実が良すぎる場合には、1果当り4?6枚の葉枚数となるように摘果します。長野県では北信地方の中野市や長野市で栽培が盛んです。

indexarrow1.gif オウトウ『ハウスさくらんぼ』についての本誌アーカイブ


リンゴ

リンゴ『ふじ』の花リンゴはゴールデンウィークの頃、可憐な白い花を咲かせます。長野県では広く全域で栽培されています。リンゴは同じ品種の花粉では受粉しないものが多く、マメコバチなどの訪花昆虫を利用したり、交雑和合性のある他の品種の花粉をとって、人工受粉をします。農家は、花粉をとる開葯作業を、共同で行うなど、忙しい花の時期に対応します。前年とった花粉を冷凍貯蔵したものを使う場合もあります。腋芽花(昨年延びた枝の腋についた花)は、果実の成長が限られるため、蕾のうちに摘みとります。

indexarrow1.gif リンゴ『ふじ』についての本誌アーカイブ
indexarrow1.gif リンゴ『いろいろな種類』についての本誌アーカイブ
indexarrow1.gif リンゴ『つがる』についての本誌アーカイブ
indexarrow1.gif リンゴ産地情報についての本誌アーカイブ
indexarrow1.gif リンゴのトリビアについての本誌アーカイブ

とまあこのように、果樹の花の時期は、果樹農家にとっては大忙しの時期でもあります。当然ながら摘蕾による調整や受粉作業は早いほど良いのですが、信州ではしかし遅霜(おそじも)の被害にも、じゅうぶんに気を配らなければなりません。多めに花をつけた場合は、最終的に葉果比(ようかひ)を見ながら、摘果で調整をします。葉果比とは、1つの実にどれだけ葉が必要かを示すもので、リンゴのふじでは60枚と言われています。

春の風に誘われて、風薫る信州へ果樹の花を楽しみにいらっしゃいませんか?


「野菜・果実の花図鑑」を学校と公立図書館に寄贈

bp060405_21.jpgJA全農は食農教育の取り組みとして「野菜・果実の花図鑑(CD―ROM)」を制作し、このたび全国の国公私立の小中学校及び公立図書館へ寄贈しました。ふだん目にする機会の少ない国内の野菜・果実の花を知ることで、子どもたちが「食」「農」への関心・理解を深めてもらうことを目的として製作されたものです。関心のある方はお近くの公立図書館などでご覧ください。

取材協力・画像提供 長野県果樹試験場

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