わざわざ見に出かけるだけの価値がある風景

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つい先ごろ、8月24、25日の2日間、栃木県の茂木町で「第13回棚田サミット」が開かれました。サミットは全国棚田連絡協議会が主催したもので、全国の自治体や農業関係者ら1000人が集まったそうです。一般的に棚田は山あいの傾斜地に階段状に作られた水田を指しますが、中山間地域を多く抱える長野県では、県内各地でこの棚田を見ることができます。1999年に農林水産省が選定した「日本の棚田百選」には、全国で134の棚田が選ばれましたが、そのうち長野県の棚田は16地区にも及びます。

そこで今回は、それら16地区のひとつ、千曲市姨捨(おばすて)の棚田に行ってきました。松尾芭蕉が45歳のころにわざわざここで月を見るために徒歩でやってきたほどの美しい里山[更科紀行]です。

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自然と人がつくった傑作景観
更級の里の姨捨山の月はその美しさで江戸時代から天下に名を轟かせていました。芭蕉終焉の地でもある滋賀県大津市の義仲寺(ぎちゅうじ)に収蔵されている「芭蕉翁絵詞伝・田毎(たごと)の月」という絵にも、江戸時代の姥捨の棚田が描かれています(上絵図)。一枚一枚の田に月が映ることを意味する「田毎の月」の名でご存知の方も多いと思いますが、千曲市の姥捨の棚田は1999年に棚田としては全国ではじめて国の名勝に指定されました。棚田サミットも、かつてここで開かれたことがあります。

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天に至る道
案内板に従って駐車場に車を止めると目の前には急な坂道。太陽がサンサンと光を降り注ぐなか、真昼に取材に訪れたことをやや後悔しつつ一歩を踏み出すと...そこはやはりけっこうな坂道。

よく棚田を称して「耕して天に至る」と言われますが、棚田はきわめて東アジア的な風景なのです。千曲市姨捨には、これだけの傾斜地に25ヘクタール、およそ2000枚もの棚田があるというのですから、これを築き上げた先人たちにはただただ頭が下がる思いです。

千曲市のウェブサイトによると、姨捨の棚田は江戸時代中ごろから明治時代初期にかけて開田されたのです。棚田は多くの人の努力によって今日まで受け継がれてきた、まさに地域の財産なのです。

肩で呼吸をしながら、あえぎあえぎつつ15分ほど登ると、長野と松本を結ぶJR篠ノ井線の線路に突き当たりました。振り返って下界に目をむければ棚田の向こうに千曲市と長野市が一望できます。

写真には撮れません
「すごいや、早速、写真を」とファインダーをのぞいてはみたものの、どうしても目で見る風景ほどの広がりが感じられません。写真では伝えきれない風景の広がりを、ぜひみなさんご自身の目でご確認していただきたいものです。

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今度は坂道を下りながら、それぞれの田んぼを見てみると、黄金色に色づきつつある田んぼもチラホラ見えますが、全体的にはまだ青さが目立ちました。それでも、下りに入ったとたん涼しい風が吹いてきたり、トンボが飛ぶのを見つけたりして、そこはかとなく秋の気配を感じました。

自分の棚田が持てる
千曲市(旧更埴市)では姨捨の棚田で1996年からオーナー制度を実施しており、毎年オーナーを募集しています。その名も「棚田貸します制度」。この制度は体験コースと保全コースに分かれており、体験コースでは田植えから収穫まで年間を通じた体験ができます。また「実際の農作業はできないが棚田の保全に一役買いたい」という人のために保全コースが用意されています。2007年度は体験コース会員67組、保全コース会員14組が参加したそうで、9月23日には稲刈りが行われる予定です。制度の詳細は千曲市のウェブサイトでご確認下さい。また、同サイトでは現在、2008年度の会員を募集しています。

世代を超えて残したい
棚田は食糧生産の場であるほかに、景観を保全し、洪水や地すべりを予防する保水機能など、国土にとって多面的な機能を持っているのです。この美しい景観と機能をいたずらにこわすことなく、世代を超えて引き継いでいきたいものではありませんか。

関連記事:
indexarrow.gif 風薫る信州にあなたも棚田を見に来ませんか(本誌過去記事アーカイブ2006年5月17日号)

参考サイト:
arrow2.gif 千曲市のウェブサイト「棚田貸します制度」のページ
arrow2.gif 全国棚田(千枚田)連絡協議会
arrow2.gif 日本の棚田百選(長野県分)のページ

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