「今年で8年目です」「埼玉から来ました」「景色がサイコー」「子ども達は初めて。私は6年目」「ご飯がおいしい!」「楽しい〜」などなど、これらは全国から集まった皆さんが満面の笑みをたたえながら発している声。
ここは千曲市冠着山(かむりきやま 別名姨捨山)の東側斜面に広がる棚田です。9月最後の週末、全国から集結した皆さんが、秋晴れの「おばすての棚田」で一斉に稲刈りをしました。
お米作りを楽しむ人たちが
全国から集まりました!
文字通り猫の額ほどの小さなものもあれば、大きめのものもあり、形も様々な「おばすての棚田」
大小合わせて1,800枚とも言われる「おばすての棚田」は、善光寺平を一望する斜面にあり、松尾芭蕉や小林一茶ら多くの俳人が句を残している名月の里でもあります。
ここは「日本棚田百選」や「国の重要文化的景観」に選定されるなど、いわば"全国区の棚田"ですが、その保全は課題でもありました。
そこで平成8年にスタートしたのが「棚田貸します制度」。お米作りに興味があり、かつ棚田を愛する人たち(棚田オーナー)の手を借りて棚田を守っていこうというものです。以降、年々区画を増やしてきたオーナー田は、現在150枚ほどになり、今年のオーナーの数は97組を数えます。オーナーになれるのは、次の二つの条件に当てはまる方。
一、周りの人にも田んぼにも思いやりが持てる人。
一、棚田の景観を守るため、特に、草刈・草取作業をがんばれる人。
どうです、この資格条件も素晴らしいじゃありませんか。
このうち、体験コースというカテゴリーに属するオーナーは70組で、田植え、1カ月1回の草取り、稲刈り、はぜ掛け、脱穀、籾摺りの作業を必ず現地(自分のオーナー田)にて作業をします。けして"名ばかりオーナー"ではなく、立派なお米生産者といえるでしょう。
親子で、夫婦で、仲間で、学校で。
棚田へのそれぞれの想い
稲刈り鎌の扱いも様になっています
「休みの日ですけれど、遊園地に遊びに行くよりいろいろ学べるんじゃないかと思って子どもたちを連れてきました。楽しそうですよね」と話す横浜から来たAさん家族。子どもたちというのはお孫さんのことで、このように親子三代で来ている家族も少なくありません。
「ウチの近くはほとんどコンバイン(刈り取りと同時にモミにしてしまう機械)で刈り取ってしまうんだけど、このはぜかけがいいんです」と言うのは安曇野から来たKさん。
「とにかく景色がいいのが一番」と言うのはYさんで、お子さんと親戚の皆さんたちで来ていました。
地元の小学校も参加しています。
奇抜なカカシも子どもたちの手作り
「ウチの小学校の生徒は5年生になると『棚田を守る順番がまわってきた』という気持ちになるんです」と話すのは千曲市八幡小学校の柳沢先生。「お米を作る実習」というよりは「棚田を守る、故郷を守る」という意識が強いと言います。お米作りの一部をちょっとだけ体験するのではなく、自分たちの田んぼで全ての作業を責任を持ってやりとげていく。それが自分たちの故郷にとってどんな意味があるのかも感じながら作業しているんですね。なんと頼もしい光景でしょう。
あちらこちらで上がる歓声と共に稲が刈られていき、はぜが作られ、そこに稲が掛けられていきます。一組あたり1〜2枚の田んぼを耕作するのですが、1年を通して、田んぼごとに様々なドラマがあるんでしょうね。見るからにお父さんと息子さんという二人で取り組んでいる姿も何組か見られ、ちょっといいもんだなと思いました。
棚田のお米がおいしい理由
はぜを待つ稲穂の束と絶景を眺めて、晴れ晴れしい気分
千曲市農林課の湯浅さんによると、やはりこの棚田の景観に惹かれる人が多いとのこと。その上おいしいお米が穫れることも自慢だと言います。この棚田は稲作に適した粘土質であることに加え、斜面上部に湧水があり、ち密な水利網によって棚田全体を潤わせているのだそうです。
棚田オーナーの満足度は高く、ほとんどの方が継続(または再申し込み)する。
5年、10年といったキャリアをもっている方が多い
この日は、この棚田を管理する千曲市職員の皆さんや、協力団体の皆さんも笑顔が絶えませんでした。集まったオーナーの皆さんや関係者の皆さんが作りだす「心から楽しそうな雰囲気」もおいしいお米作りに一役かっているのは間違いなさそうです。(やすのり)
■参考サイト
千曲市ホームページ(棚田貸しますQ&A)