棚田を守る―農業の多面的機能(2)長野市中条地区

棚田

農地はコメや野菜など農産物を生産するのみならず、多様な生物を育み、土砂崩れや洪水を抑え、地域の景観を維持するなどさまざまな働きをしています。しかし、条件が厳しい中山間地では農地の維持自体が困難になりつつあります。象徴的な存在が県内に多い急傾斜地の棚田です。昨年は棚田を「貴重な国民的財産」と位置付け、棚田地域の振興を国の責務と定める「棚田地域振興法」も施行されました。県内二つの地区を訪ねました。

共同作業で支え合い
【長野市中条地区】

長野市の西部、西山と呼ばれる地域の一つ中条地区には「百選」に選定された三つの棚田があります。そのうち栃倉と田沢沖の二つの棚田があるのが伊折地区です。2018年には国土交通省の国土管理専門委員会が事例研究の一つとして同地区でワークショップを開きました。事例研究は「将来的に放置されていくことが予想される土地の管理の在り方」と刺激的なタイトルが付けられています*。

棚田

電気柵で囲った田沢沖の棚田の前にお孫さんとともに立つ新井守光さん。
「(作物を)作ることが景観を守ることにつながる」と語る

庭先から田沢沖の棚田を見下ろす位置に住む新井守光さんは、その事例研究にも参加した同棚田を支える中心的存在です。棚田の維持は「中山間地の耕作放棄地の発生防止や解消を目的に、地区単位で支払いを受ける中山間地域等直接支払交付金で成り立っているのが実情です」と打ち明けます。

近年とみに勢いを増すイノシシやシカの獣害対策に電気柵は欠かせません。積雪があるため、電気柵は毎シーズン設置と撤去を繰り返す必要があります。雑草が伸びて電線に掛かると漏電してしまうので、草刈りも必要です。
1枚ごとの面積が限られているため、棚田では使える農機も限られます。畔側が乾きがちなのに対し、奥の山側は湿りがちで、不用意に農機を入れると立ち往生してしまうこともあります。棚田での耕作は、同じ作業でも一般的な水田以上に技量が問われ、手間もかかるのです。

それでも耕作を続けるのは「自分が育った地域の景観を残したいから」。「ノスタルジーでしょうけれど」と断りつつ新井さんは言います。田沢沖では4人のうち既に2人は地区を離れ、通いで耕作しています。地区に残る新井さんが、日々の水の管理をはじめ、何かと目をかけているからこそ、成り立っている面が見逃せません。その新井さんが70歳を超えた現在、いつまで続けられるか、自身にも見通せません。

田沢沖のコメ作りでは水路の泥除けや電気柵の設置、撤去など共同作業で対応しています。通いでも耕作が続くのは、そうした環境が大きいと新井さん。田沢沖の上部に位置し、より規模の大きい栃倉の棚田でも今シーズンから共同作業を取り入れています。

「集落営農」へ一歩踏み出す

棚田

伊折地区のもう一つの棚田、栃倉の棚田でも共同作業で負担を軽くする試みが始まっている

地域ごとに農業の将来像を描こうと農水省が進めた「人・農地プラン」は、具体化(実質化)に向け、中条地区でも話し合いがもたれています。新井さんは、地域維持のカギとして、共同化をいっそう進める集落営農への移行を挙げています。

「実際に(集落営農を)進めるとなると、どこまで共同作業をするのか。収穫したコメはどこまで自分のものになるのか。細かな点まで詰めなければならず、ハードルは高いが、電気柵の設置をはじめ、できることから始めることで知恵も出てくるでしょう」と新井さんは期待しています。

*ワークショップの内容は、国土交通省のホームページ内の同専門委員会第12回(2019年3月14日)の配布資料などで見ることができます。

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昭和人Ⅱ

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