田植のときにはお田植料理を食べるものです

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農家にとって「田植え」は、一年でもっともいそがしい作業のひとつです。昔は本家を中心に何件かの農家が協力して、手で植える田植えが一斉に行われました。幾日も続く田植えはまさに重労働。近年は、農家でも代かきや田植えはすべて機械で行っていますが、以前はまさに一大仕事であったといいます。

田ごしらえ、田植えには大変な労力が必要となるところから、昔からこの時期だけ特別な「お田植え料理」を作っていたといいます。ここに掲載した写真は、この5月の連休に田植えをしたという安曇野市豊科の農家・小林あや子さん(68)のお宅の田植え料理です。

今年もいいお米ができるように
ふきとほたるいかの煮もの、にしんとたけのこの煮もの、大根漬け、鯖の煮つけ、きなこおむすび・・・。田植えのときは今もこういった料理を作りみんなでいただきます。今年もいいお米ができるようにと、こうした料理を食べることは、50年近く続いているのだそうです。

ちょうどこの日は大阪から息子さん親子が帰省しており、みんなで田植えのお祝いをしたとか。お祝いなので赤飯を炊く家も多いようです。きな粉おむすびって、甘いかって? いいえ、「塩味」でしたよ。

また、「おこびる」(お小昼=おやつのこと)といって、田植えの作業の合間に畦に広げて、きな粉おむすびやニラせんべいなども食べるのです。汗を流した後の、みんなで食べる「おこびる」のおいしさはきっと格別なのでしょうね。

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料理がつなぐ人の絆
今から50年以上も前の昭和30年代、農繁期に農家同士が無償で手伝いあう、相互扶助の仕組み「結い」(「ゆい」と読みますが、これを「えい」とか「ええっこ」と呼ぶところもある)が、地域農業を支えていました。農家は田植えで集まった人たちを「田植え煮もの」や「きな粉むすび」でもてなしたといいます。

煮ものの具の凍み大根は、煮ると多くの水を含み、黄色のきな粉は稲穂を表したそうです。それぞれ、水が豊富にあること、豊作になることを願って使われたのです。

田植え料理やお小昼は地域によりさまざま
長野市周辺(善光寺平)では、1日3回の食事の間に、午前10時ごろと午後3時ごろに仕事を一休みして、きまって間食をとります。ふだんは漬け物やあり合わせのお茶うけでお茶を飲みますが、田植えや稲刈りの時には、白米飯のきな粉むすび、ぼたもち、おやき、うすやき、せんべい、ふかしいもなど、お腹の足しになるものが喜ばれました。

佐久地方では、田植えの作業の合間に食べるおやつのことを「おこびれ」といい、おむすびやこねつけやきもちを作ります。冬の行事のときに使い残した米の粉などは、田植えの頃までに使い切るのだといいます。

木曽地方では、この地方ならではのホウ葉飯を作ります。また、去年の秋漬けたかぶを初出しします。

伊那谷では、田植えどきのおかずに、冬の間作っておいた大根干しや凍み大根の煮ものを作ります。干したり凍らせたりした大根は、生のものより味がしみておいしいのです。

奥信濃(飯山)地区では、白いご飯にみそ汁と漬け物、にしんと山菜の煮もの、凍み大根の煮ものなどをたくさん煮ておきます。また、塩味のきな粉をつけたむすびは、こびれ(小昼)の何よりのごちそうとして(「おごっそ」という)喜ばれたといいます。もちろん、きな粉は地元の大豆を炒って石臼でひいたもの。

田植えが終わるとお祝いもあります
安曇野地方では、「まんがれえ」(まんが=馬鍬洗い)といって、道具を洗い戸間口(玄関)に並べ、もちを搗いてお頭つきの魚を添えます。伊那谷では、おさなぶり(しつけじまい)といって豊作を願って田の神様へお神酒とお頭つきの蒸し田つくり(煮干し)ときな粉飯を、ふじみ(ふじのつるで作った箕)へ盛って田んぼの水口のところと神棚へ供えます。そして、きな粉飯に豆腐と青菜のすまし汁、身欠きにしんの味噌煮や凍み大根の煮物などで祝います。奥信濃では、近くに自生する熊笹でこの地方独特の笹ずしを作ります。

このように豊作を祈願する行事にともなう「晴れ食」はさまざま。これはとかく片寄りがちな平常食を正す価値もあり、また、食を通じて家族や人々の和や結束をはかる意義も大きかったのでしょう。

今では、昔のようなお田植え料理を作るところは少ないと思いますが、こういった食文化は次代へ受け継いでいってほしいものではありませんか。

参考図書:聞き書 長野の食事(農山漁村文化協会)
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