田植えのシーズンを迎えている県内では、田起こしに代掻き、水入れに田植えと準備も着々と進んでいます。ヒョロヒョロとした頼りなげな稲が、吹く風にあおられながらも、負けじとばかり踏ん張っている様子も見られます。そんななか、昔の田植えを再現したイベント「豊作祈願祭&お田植まつり2013」が県北部の下高井郡木島平村で開催されました。
その華やかな光景を見ようと続々と集まる村人たちに、村外の見物客も加わって大勢の人だかりに。今回は、今ではめっきり見られなくなった昔懐かしの田植えの様子をレポートします。
美味なる米を育む恵まれた自然環境
木島平村は、美味しい米がとれる産地としても知られるところ。村の東南にあるカヤの平高原には樹齢300年を越すブナの原生林が広がり、ブナ林が育む豊富な水と肥沃な大地、そして昼夜の温度差と、その恵まれた自然環境は美味しい米づくりに欠かせないものです。
昨年、2012年11月に開催された国内最大、米の全国・国際コンクール「第14回 米・食味分析鑑定コンクール」では、国内外3,915の米が出品されたなか、「国際 総合部門」の金賞が村内から3点、また「全国農業高校 お米甲子園」では地元・下高井農林高等学校、「小学校部門」では村立木島平小学校が金賞をとる(小学校は3年連続)など、その美味しさは確かなものです。
厳かに、素朴に
古き良き田植えの風景
今や、身近にあった田んぼや畑も次々と姿を消して宅地化が進み、また機械化による田植えが主流になっています。たくさんの人が手伝って行われた、古き良き田植えの光景が遠い存在になりつつあるなか、今回行われたのが木曽馬による代掻きと、早乙女たちの手作業による苗の植え付けです。
代掻きは、ぬかるんだ田に脚を踏み入れた木曽馬を、いうことをきかせながら誘導する者と、馬に引かせた農具の馬鍬(まんが)を押しながら田の土を耕す者、馬1頭に2人がかりの作業です。
そして、もうひとつの見どころは、紺色の絣(かすり)の着物に赤帯を締めた早乙女たちによる田植え。植えつける苗を隣の人の真横に植わるようにと慎重に、そしてぬかるみから一歩、また一歩と脚を引き上げながらの前進は、なかなか気を抜くことができない様子が伝わってきます。
ノスタルジックな仕事唄
そんな田植えの最中、口ずさむのが田植え唄。本来は、稲が立派に実るようにと田の神に祈願する祝いの唄が、後に田植え作業を行いながら唄うようになったのだとか。歌詞は延々と続いていくのだそうですが、音符がないためその土地土地によって節回しが異なり、川の向こう側とこちら側でも少し旋律は違うのだとか。
今回お田植えまつりが行われた市川谷地方で唄われる田植唄の歌詞を、5番までご紹介します。
1.目出度いものは大根たね
花咲いて実りて俵重なる
(花が咲いた後の大根種の実は、
米俵を重ねたようなおめでたい形をしている)
2.十七、八の寺参り お手に数珠
たもとに 恋の玉ずさ
3.玉ずさ来ても 文来ても
読めやせず 枕の下の置き文
(恋文が来ても字が読めないから枕の下に置かれたまま)
4.話しをやめて唄でやろう
話しじゃ仕事ははかどらぬ
5.日はするするとはいりゃんす
わが前に仕事は富士の山ほど
(日は沈んでも仕事は山のようにある)
「おこびれ」でホッとひと休み
腰を曲げ、ぬかるむ田に脚を取られながらの骨の折れる田植えに、ひと区切りつけて合い間(昼食や間食)に食べられるのが、「おこびれ(おこびる)」と呼ばれるもの。昭和30〜40年代頃まで行われていた、家族はもちろん、親戚やご近所総出の田植え作業では、そのおこびれを囲むにぎやかな時間がありました。
おこびれを代表する一品は丸く握った握り飯ですが、その中に入っている具は、鮭やタラコといったハイカラなもののはずはありません。当時の味といえば、ほのかに甘く味付けされた「きなこむすび」でした。きなこが表面にまぶし付けられた優しい味わいの、いたってシンプルなおむすびです。米粒の色や形に姿を似せて五穀豊穣を願い作られたとも、山国における貴重なたんぱく源としてきなこが使われたとも言われます。
そんなおむすびと一緒に食べるのが、大鍋でこしらえた滋味に富む煮物。冬の間に仕込んでおいた寒干し大根をはじめ、ワラビにシイタケ、人参にジャガイモ、お豆にコブ、身欠きニシンの干し物やちくわなどの具がたっぷり入ります。当時は、親戚やご近所など大勢呼んだお手伝いさんに、田植えの労をねぎらう振る舞い料理でした。
地域によってはこの時期旬の、畑に自生するニラを摘み、それを水で溶いた小麦粉に混ぜて焼いた「ニラせんべい」が食べられていたところもあるようです。皆で食べれば疲れも癒され、引き続き頑張ろうと元気回復の力にもなったことでしょう。
働きもののヤギも
今回イベントではヤギも大活躍していましたよ。皆が田植えをする脇で草を食べながらせっせと畔をきれいにするなど、家族の栄養補給の役目にとどまらず、当時から田んぼで一家の一大イベントを手伝う姿があったのでしょうか。
「農」の価値に改めて感じ入る
米は「八十八」という漢字に分解できることからも、米づくりは八十八もの多くの手間がかかる、と昔から言われています。機械に頼らない当時の作業の大変さを思い図り、今年もどうか美味しい米と、また多くの農産物の恵みがもたらされることを願わずにはいられません。農作業シーズンの幕開けを告げる田植えを見るたびに、飽食の時代にあっても、お茶碗に付いたひと粒のお米も無駄にすることなく味わいたいと思うのです。
同時開催「田んぼギャラリー」
お田植えまつりを執り行っていた隣の田んぼでは、「田んぼギャラリー」を開催していました。水田にずらりと並んだのは、「ごはん」をテーマに制作されたユニークなポスター。農村の美しい風景を切りとったもの、TPPをテーマにした社会派など、クスッと笑ったり、心にジーンときたり......、いろいろ考えさせられるお米つながりのすてきな企画でした。
田んぼギャラリーは、場所を移動して安曇野でも開催されます。今週末の2013年6月1日(土)と2日(日)には、安曇野市堀金烏川の水田で見ることができますよ。
◇関連リンク
・木島平村観光協会