ウコッケイの卵が安くなるだけじゃない

kimera1.jpg栄養価も高いが値段も高いウコッケイの卵。この貴重で高価な卵が、もしかしたら通常の鶏卵と同じような価格で食べられるようになるかもしれない。そんな、消費者に嬉しい研究が、信州大学農学部で進められています。キメラ技術と呼ばれる方法で、質の高い卵をたくさん産む鶏を作り出す研究に取り組んでいるのは、同学部食料生産科学科の鏡味 裕(かがみ ひろし)助教授(食資源利用学)。今回その研究についてお話しをうかがってきたので、まとめてみました。

キメラニワトリの作られ方
キメラとはもともとギリシャ神話に出てくる「ライオンの頭、山羊の体、蛇のしっぽ」を持った怪獣のことです。キメラ技術で生み出される「キメラニワトリ」は、いわゆる雑種とは異なっていて、植物でいえば接ぎ木の状態。体の一部の細胞に異なる遺伝子を持った鶏といえます。

ウコッケイは本来、あまり卵を産みません。その一方で需要が高いために、卵が高価格となっているのですが、ウコッケイの卵のように高品質の卵をたくさん産む性質を持った鶏を作り出すことが、このキメラ技術だと可能になるというのです。キメラニワトリを作りだす手順は大まかにいうと次のようになります。

kimera4.jpg#01 ウコッケイの有精卵から「胚」を取り出します。この胚の中心部分に多能性を持った未分化の細胞(幹細胞)があります。この胚を卵黄から切り取り、その中から幹細胞だけを取り出すため顕微鏡を使って胚についた余計な卵黄を取り除く処理をします。

kimera5.jpg#02 多産系のハクショクレグホン(一般的な鶏の代表品種)の有精卵の胚に「#01」の幹細胞を注入します。このときハクショクレグホンの卵に予め紫外線を照射し胚の一部を除去することで、注入するウコッケイの幹細胞が働きやすくします。

kimera7.jpg#03 空にした卵の殻を容器にして注入の終わった卵黄を移し、胚が空気に触れるのを防ぐため白身で殻の中を埋めます。上部にフィルムを貼り、漏れないように専用の固定器具で固定します。

kimera9.jpg#04 転卵器という機具の中に入れ、中身が一箇所に固まらないようにときどき卵を傾けながら、3日間培養します。その後、大き目の殻に移し直して、孵化させるとウコッケイの性質を持ったハクショクレグホン=キメラニワトリが誕生します。

現在、優秀な性質の鶏を数多く作り出すには、集団の中から優秀な性質を持つ鶏を選抜し、良い性質を持った鶏だけに固定していくという方法が主流ですが、これには3〜5年という長い時間と、経費と高度な統計理論が必要となります。ところがこのキメラ技術は、集団からの選抜ではなく、個体レベルで新しい遺伝的性質を持った鶏を作り出すという取り組みですので、研究が進めば、集団選抜に比べ、消費者ニーズに素早く対応することができるのです。

キメラ技術の持つ可能性
このキメラ技術は、上記のような新しい性質を持った鶏を生み出す以外にも、次のような可能性を秘めていると、鏡味助教授は言います。


  • 医薬品の製造 鶏の卵は殻の中が無菌状態で、良質なたんぱく質を含み、一年中安価で手に入れることができます。そこで、卵を医薬品の製造工場と考え、卵黄の中に有効成分を効率的に発現させることで医薬品の大量生産が期待できるのです。この場合、キメラ技術を応用して、どのような遺伝情報を選択して細胞に入れ込むかが重要となるそうです。鏡味助教授は「将来的には人間の薬になるたんぱく質ができるのではないか」と話してくれました。

  • 再生医療への応用(臓器再生) ウコッケイとハクショクレグホンのキメラにおいて、5本足(爪)のウコッケイの性質が再現されたことが確認できました。現在、足・心臓・血管がかなりのレベルで再生できるようになったと鏡味助教授は言います。鶏を使って培養条件さえ確立しておけば、ほ乳類でも同様の臓器再生ができると期待されています。現在、農学研究者のみならず医学研究者とも共同で研究を進めているそうです。

鏡味助教授は1992年からこの研究に取り組んでおり、2005年には世界初のクローン羊「ドリー」を誕生させた英国のロスリン研究所からも招かれて研究成果を発表しています。農業関係のコンサルからも問い合わせが多いといい、農業・医療各方面からこの技術に注目が集まっています。「この研究が農業や食品関連の新ビジネスの創造・拡大に貢献できるのでは」と鏡味先生は話してくれました。

arrow2.gif 信州大学農学部食料生産科学科動物発生遺伝学研究室のウェブサイト

arrow2.gif 信州大学農学部 食料生産科学科 食資源利用学 鏡味 裕 助教授のプロフィール

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