黄金色に色づく稲穂の季節。農家ではその収穫に追われる頃、たわわに実ったブドウたちもまた、甘い香りを漂わせ収穫の時期を迎えています。そしてブドウが原料のワインも今、仕込み作業に大忙しです。
ブドウ栽培の歴史を引き継いで
美ヶ原高原の麓に広がる松本市山辺地区。標高650〜780メートルほどの松本平を見下ろす傾斜地に広がるのは、いくつものブドウ畑。江戸時代元禄・宝永(1688〜1710年)の頃、この地区の家の庭先に植えられていたのが県内でのはじまりとされる、長野県では最も古くからブドウ栽培が行われてきたところです。
当時、日照時間の長さが日本一とされ、雨が少なかった山辺地区は、雨を嫌うブドウにとって栽培に最適な環境が整っていたのでした。
地元のブドウにこだわり
30種類ものワインを生みだす
生食用をメインにしながらも、ワイン用ブドウの栽培も盛んな山辺地区。地元・山辺産を中心に、松本産ブドウ100%でワインづくりをおこなうのが、この地区にある「山辺ワイナリー」。1本のワインをつくるのに使われるブドウは単一品種と、ブドウをブレンドすることなく、品種ごとの味わいがストレートに楽しめます。メルロ―、シャルドネ、ナイヤガラ、コンコードなど製法を変えながら、およそ30種のワインが山辺ワイナリーではつくられています。
高品質なブドウ栽培が支える
ワインコンクール入賞の実績
今年7月末に行われた「JAPAN WINE COMPETITION(国産ワインコンクール)2013」では、銀賞3点、銅賞3点ほか、計7点が入賞している山辺ワイナリーのワイン。
そんなおいしさが認められるワインも、おいしいブドウがあってこそ。
暑さが厳しかった今年は、ブドウの甘さは十分なものの、ワインづくりに欠かせないブドウの酸味が早期に抜けてしまう傾向にありました。そのため、収穫のタイミングはむずかしかったそうですが、収穫作業を例年より前倒しで行うことで、糖度ののった高品質なブドウが農家から次々と持ち込まれているそうです。
ブドウを中心とした「里づくり」へ
ワインづくりが行われている山辺ワイナリー一帯は、ワインの醸造所をはじめ、ワイン直売所、また農産物直売所や地元の素材を使ってつくられる洋風レストラン「マリアージュ」などが併設され、ちょっとした賑やかな場所になっています。
じつはこのようになったのは、次代を見据えた地域づくりを考えて、地域住民にアンケートがとられた結果から。そこから浮かび上がったのは、地域資源を生かしながら、付加価値のある農業、魅力ある地域づくりを実現するために、昔からこの地域でつくられてきた特産のブドウを生かした、ブドウを中心とした里づくりでした。
そして平成13年、農業生産をはじめ地元食材を生かした加工品の開発、農産物の直売や流通、飲食のサービス提供と、地域の活性化拠点施設として構想された山辺ワイナリーは、実現されたのです。
株主となっているのは約690名の地元農家の生産者をはじめとする面々。ですから地域住民にとっても『自分たちがここを支えている』という意識が強いのだそう。またここの株主には、還元としてワインが配られるほか、お中元にも住民らがワインを贈ることも多く、まさに地元の人々の拠り所となっているワイナリーなのです。
高齢化や遊休農地が増えるなか、山辺ワイナリーでは農家から栽培を引き受けるほか、ワイン醸造所に隣接する自社農園でも全体のおよそ1割ほどを栽培し、ワイン用ブドウの増産にも力を注いでいます。
山辺ワイナリーでは今年、全体で約70トンのブドウが仕込まれる計画で、9月上旬から始まったワインの仕込みは10月中旬頃まで行われる予定です。そして、11月3日にはナイヤガラの新酒ワインもお披露目となります。
◇ぶどうの郷 山辺ワイナリー
住所: 〒390−0222 松本市入山辺1315−2
電話: 0263−32−3644