多くの人にとって、食べることは生きている楽しみの大きな一つでしょう。
ですから、具合が悪くなって食事に制限がかかった場合には、きっと誰もが願うことでしょう。「早く良くなっておいしいものが食べたい」と。
なかでも、食べたいものが食べられず、食欲がわかないことの多い病院の食事において、いくつもの料理が並ぶなかから自分で選んだものが食べられる"バイキング食"を一部に実施するなど、ユニークな取り組みを行っているのが、長野市内にあるJA長野厚生連 篠ノ井総合病院です。
「え! これが病院食!?」
この日並んだメニューは、長野県産コシヒカリ米のご飯をはじめ、主菜として3品。「牛蒡入りハンバーグ」「焼き鯖のおろし煮」「ヘルシーエビチリソース」。また副菜としては、「若竹煮」「キュウリとトマトのごま味噌酢」「きのこオイスターソース煮」の3品。その他、いちご、牛乳、ヨーグルトなど、一見「これが病院食!?」と目を疑ってしまうようなおいしそうなものがズラリと並びました。
これらの料理のわきには、見本として一食分の量が盛り付けられ、そこにはカロリー、タンパク質、塩分が表示されています。患者さんはそれを参考に、自分に必要と考える一食分の料理と必要量を取っていきます。そして、取り終えたものを持って席に戻ると、管理栄養士の方がその人の状態をみながらの全体のバランスやカロリー、塩分などの確認と、食事へのアドバイスが行われるというシステム。
さらにこのバイキング食にあわせて、食事療法や検査についてなどの健康講話も行っているそうですが、実際にバイキングを行ってみると、慎重になりすぎて取る量が少なくなってしまったり、カロリー重視で組み合わせのバランスが良くなかったり、また家で食べている位の量を目安に皿に取っては多かったり......と、「自分流」が染みついている食事の改善は、量やメニューの選択も慣れるまでなかなか難しいように思えました。
栄養、量、味付け そのバランスは?
この日集まった参加者に料理の感想を伺いました。
「味が薄い」
「野菜が多い」
「量は少ないけどお腹は満腹」
編集部員もちょっとだけ失礼してその味見をさせていただけば、調度良いと思える味付けでも、人によって感想はまちまちの様子で、量、そして味付け面と、健康を支える食事というのはそのバランスの難しさを改めて感じさせるものでした。
このバイキング食の対象は、合併症を引き起こす危険性が高く食事療法が必要な糖尿病の患者さんや、主にエネルギー、タンパク質、塩分の摂取に注意が必要とされる腎不全の患者さんなどです。入院中の患者さんを対象に月に4〜5回行われており、患者さんの家族も参加が可能。さらに、月に1回は開業医に紹介された外来の患者さんを対象として催されており、入院患者に対しては1999(平成11)年より、外来患者に対しては2005(平成17)年より行われています。
「薄味でもおいしく」のヒント
そんな患者さんへのメニューの考案を手掛ける管理栄養士の方は、「旬のものを取り入れながら、見た目にも、そしてお腹にも満足いくものを目指しています。『あれもダメ、これもダメ』という食事の制限が多いなか、一般には油で炒めるところを、茹でて油分を控えたり、シソやショウガなどの香味野菜や柑橘のものを味付けに利用して塩分を減らしたり、また胡麻などを使い風味を良くすることで調味料を控えているのがポイントです」と話します。さらに、硬い繊維のごぼうを加えて噛み応えをよくしてみたりなど、通常の料理においてもヒントになることがたくさん伺えました。
目と舌で味わったうえ
自宅でも役立つ資料がもらえる
最終的には自らだけで食事を選択し摂取していくことが求められる患者さんたちに対して、このバイキング食は、実際に目で見て舌で味わいながら体感することで、自分にとって適正な食事が身に付きやすいメリットがあります。また、この日並んだ料理の食材や調味料の分量、また各料理の熱量、塩分量などが記された資料は持ち帰ることができますので、参加者はそれを参考に、今後家でも同じ味つけで料理を作ることができるようになっています。どういったものを、どのような味付けで、どれだけの量を食べたらいいかなどの参考にすることができるのです。さらに家族も参加している場合には、自宅に帰ってからも相談しながら食事が作れることでより認識も深められるようです。
篠ノ井総合病院では、「早い、まずい、冷たい」といわれていた病院給食の改善に取り組み、1975(昭和50)年から、それ以前は午後4時だった夕食を午後6時とし、「適時・適温給食」として温かい状態での配膳を全国に先駆けて行った病院でもあります。
今回ご紹介したようなおいしくて役に立つ理想的な病院食なら、院内レストランなどで気軽に味わってみたくなってしまいますね。
◇JA長野厚生連 篠ノ井総合病院