レンゲ草に託す日本の農村風景

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ランドセルを背負いながら登下校したひと昔前、その途中には、風に揺れる青々とした田んぼの稲、そして可愛らしいレンゲの花が一面に広がっていました。

おもに戦前の耕作地でよく見られたというレンゲの花咲く光景は、豆類であるレンゲ草が空気中の窒素を取り込んで土地を肥沃にし、さらにそれを土と混ぜ込むことで肥料としたことによっています。つまり鑑賞用としてだけでないレンゲ草の効果が農業に利用され、それが日本の農村風景のひとつになっていたのでした。

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耕作放棄地をレンゲ草が救う
田畑で使われる肥料が変わり、また田植えの時期が前倒しになっている現代では、レンゲ草による耕作を行っているところもごく僅かなようす。そしてレンゲ草どころか、私たち日本人が毎日口にするお米をつくる田んぼさえも少しずつ減少が続いており、耕作放棄された荒地も目にするようになってきました。
私たちの記憶の底で鮮やかに咲き続けるあの赤紫色のレンゲの花はいったい何処にいったのでしょうか。そんな思いを抱きながら、レンゲ草を復活させようと昨年から活動を始めた「虫倉れんげの会」を訪ねました。

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虫倉れんげの会の会員は12名。会長を務める久保田元夫さんは言います。
「一度放棄してしまった耕作地には、伸び放題の草と背の高い萱(かや)が生え、鳥獣が身を潜めるのに都合のいい環境をつくってしまいます。そして再び耕作しようにも直ぐには使うことが出来ず、何倍もの労力がかかるのです。けれど耕作地にレンゲを育てることで生長の速いレンゲは雑草を抑え、すぐにも耕作可能な状態を保ち、また景観も良くすることもできるのです」と。

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その種が播かれたのは、信州百名山のひとつ、虫倉山のふもと長野市中条伊折地区。虫倉山は手軽に登れるコースが整備され、1,378メートルの頂きからの展望は素晴らしく、毎年長野県内はもとより県外からも多くの登山者が訪れます。そしてこの山のふもとの伊折地区は、階段式の水田と昔ながらの大屋根を持つ家屋などが調和し、農村らしいゆったりとした光景が広がっていて、訪れる人々の心を魅了しています。ここは地区全体で優良な景観づくりの推進が進められていて、魅力的な景観に与えられる長野市景観賞に選ばれたスポットもあります。

とはいえ、この地域でも高齢化や過疎化などによって荒れた農地が目立つようになってきています。そんな中、これ以上遊休農地を増やすことなく、自然豊かな場所として景観を守っていくことが今の自分たちにできる使命ではないかとの話し合いがもたれました。そして、遊休農地の草を刈り、耕して整地し、あの昔懐かしいレンゲ草の花を咲かせるべく種を播く取り組みが昨年初めて行われたのでした。

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効率よりも、夢や優しさを優先した取り組み
種が蒔かれた畑では、雑草の隙間からレンゲの花がチラホラと覗いています。今回は、どうも雑草の威力の方がレンゲ草を上回り、たくさんの花を咲かすことが出来なかったようですが、数々の思い当たる改善策を講じ、次回にはたくさんの花を咲かせたいと意欲を燃やすれんげの会の皆さんです。
「希望者があれば、そこにレンゲの種を播く土地を増やしていきたい」とも話す久保田会長。さらにそんなレンゲの花の蜜を吸いに来るミツバチで、レンゲの蜂蜜も作りたいと会員たちの夢は広がります。

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今各地から、レンゲ草を植える活動が聞こえてきています。とかく利便性や生産性が優先される現代ですが、ちょっと昔に立ち返りそこで暮らしてきた人々の想いに触れてみれば、そこには環境に優しく人を癒してくれる取り組みのヒントがあるのです。
もし皆さんがこれからレンゲ草を見かけることがあったなら、その花が守ってきた日本の原風景に想いを馳せてみてください。ほっとした、とても懐かしい気持ちになるに違いありません。

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