昨年NHKの連続テレビ小説「おひさま」の舞台となった安曇野市の代表的な特産物にわさびがあります。今回は、見ても食べてもおいしいわさびの白い花が咲いたとの報せを聞きつけ、安曇野で最も広大なわさび田を有する大王わさび農場を訪れました。
農場に入り、まず一面に広がるわさび田を見渡してみましたが、花は見当たりません。しかも小さい丈のわさびばかりしか目に入ってきません。本当に咲いているのかと心配になりながら奥にある畑に向かって歩いて行くと、白い小さな花が咲き始めている様子が見えてきました。咲き始めなので、よく見ないと水の反射かと思ってしまうほど小さな花ですが、緑の葉っぱに囲まれると白さが一層際立っているようにも感じられます。
「一年中いつでも旬」、の秘密とは
安曇野市にある大王わさび農場は、北アルプスをバックに田園風景に囲まれており、いかにも安曇野らしい雰囲気を醸し出しています。まず目の前のわさび田の広さに驚きますが、なんと東京ドーム11個分もあるとのこと。
ところで、ここではどの季節に行っても新鮮なわさびが売店で販売されているらしく、不思議な感じがします。もちろん塩漬けや冷凍ではありません。これはわさびの植え付けの時期をずらして、毎日収穫できるようにしているため。それを可能にしているのは北アルプスからの豊富な湧水で、年間を通じて約12〜3度を保っているのだそうです。夏は冷たく感じ、今の時期は逆に生あたたかく感じるほどで、冬には雪も降りますが一定の水温なのですぐに解けてしまい、わさび田には雪が積もらないのだとか。
さて、ここで咲いたわさびの花は、売店で買うことができます。わさびの風味と辛みの残ったお浸しやてんぷらにいかがですか。
水わさびは流水で大きく育つ
わさびは、畑で育てる根が小さくて葉っぱや茎を食べる畑わさび(陸わさび)と、水の中で育てる根が大きくなる水わさび(沢わさび)があり、この地で育つのはもちろん後者の水わさびです。植え付けから1.5年〜2年程度で収穫できます。わさびの栽培には豊富できれいな水が欠かせず、土壌はその水を通す砂地であることが条件です。何でもわさびは他の植物の生育を止める物質を出していて、その物質によって自らも大きくなれないのだとか。そこを大量の水を流しながら栽培すると、わさびの芋を大きくすることができるという訳です。なるほど、それで山あいの沢などのように水がきれいで豊富な場所でわさびが栽培されているのだと納得させられますね。
そのまま食べると辛くない。辛くするには・・
わさびは、そのまま食べると香りも弱く、そんなに辛くもありません。辛くするためにはおろし器ですったり、細かく刻んだりするとよく、傷をつけることで持っている酵素が酸素に触れ、辛くなるのだそうです。また、「わさびは笑いながらすれ」なんていう言葉もあって、そのとおりに笑いながら「のの字」を描きながらすると、力がぬけて強すぎず、また弱すぎず、適度な力加減となり、きめ細やかにすりおろすことができるようです。不機嫌な人に力いっぱいすりおろされると、きめが粗く、粘り気も風味も落ちてしまってせっかくのわさびが台無しになってしまうなんてことになりかねません。
自分で漬けた「わさび漬け」のお土産
農場の入り口を入ったところに大王神社があり、そのすぐ目の前に、工房があります。ここではわさび漬け体験が行えるということで、店員さんに声をかけると、わさびの芋と茎を渡されます。まずは、包丁で芋は千切りに、茎は5ミリくらいの小口切りにして、塩を振り軽く混ぜます。その後すりこぎで軽くたたくと水分が出てきます。なんでもこのように刺激を与える工程が、辛味を一層引き出す大事な作業なんだとか。 たたいたものを酒粕と混ぜ、箱に入れて完成です。お店の方から「味見してみてください」と言われて食べてみると、酒粕の味しかしません。このまま2日ほど漬けると完成するということですので、楽しみにしておきましょう。
これで自分だけのおみやげが完成します。時間もそんなにかからず、お店の方からお土産品を買うよりお得だとの話もありましたので、ぜひお試しください。その他にもトンボ玉づくりの体験などもできるそうですよ。
映画やドラマのロケ地としても知られる大王わさび農場ですが、わさびのほかにも見所があります。そのひとつで農場の名の由来にもなっているのが敷地内にある大王神社です。大昔、中央政権によって信濃の国の住民は厳しい年貢の取り立てで苦しめられていましたが、住民を守るために立ち上がったのが、魏石鬼八面大王(ぎしきはちめんだいおう)という安曇野を納めていた首領です。最後には討伐されてしまいますが、あまりにも強かったために遺体が各地に分けて埋められたそうです。このわさび農場の場所にも胴体が埋められたということで大王神社として祀られており、5月8日には神事も行われるそうです。大きなわらじが目につきますが、八面大王が大男だったということからスタッフが作って奉納したものだそうです。 アルプスを仰ぎ見ながら、わさび田周辺のこうした史跡をゆっくり巡ってみるのもいいかもしれません。