暖かくなりはじめた信州各地では、赤ちゃんを産んでおいしい牛乳をたくさん出すために、家畜を高原の牧場で放し飼いにする放牧が開始されました。小県(ちいさがた)郡長和町にある美ヶ原牧場でも、先週日曜日に放牧祭りが開催され、「塩なめ場」なるところで放牧のセレモニーが行われたました。あいにくの雨、それもかなりの大雨でしたが、元気一杯に走り回る牛の姿に、元気をもらってきました!
迫力ある牛たちのかけっこ
放牧された牛は、まるで運動会で行われるかけっこのように、元気に走り回っていましたし、よほど自由になれたのがうれしかったのか、ロデオのように飛び跳ねる牛もいました。闘牛以外にはあまり活発に動くイメージがない牛ですが、その姿はまるで馬が走っているような感じです。違うのは、牛の方が重心が低く、大きく感じるために迫力があるところでしょうか。
柵の外から見ていても走って近づいてくると思わず体をよけてしまうほどです。自然の中や広い場所に行くと開放感で一杯になるのは人間も牛も同じなのです。牧場で寝そべる牛も良いですが、走り回る牛の姿も見る価値ありです。
牛には、それぞれ人格ならぬ牛格があるとのこと。いじめっ子が多いそうで、放牧された牛が違う牛をおっかけている様子を目にすることがありました。また、放牧された瞬間元気に走り回る牛もいたり、慎重に入っていく牛もいて、それぞれ性格が違うことが伺えます。
お母さんになるための学校
畜舎で育てられている牛の体を作り、成長させるためにこれから5ヶ月間、10月頃まで放牧されるのです。山で運動し日光浴をすることで足腰が丈夫になり、お産が容易になります。さらに自分で草を食べることで、自発的に生きる力を持った牛になるそうです。餌を与えられているだけでは生きる力は発揮されないようです。また運動することで乳の出が良くなり、自然と牧場でお母さんになる準備をしています。
放牧の儀式のようなこと
畜舎から運搬車で運ばれてきた牛の体重を測ってから、人の手で一頭ずつ牧場に放します。ブロックに分けられており、年齢や妊娠しているかどうかなどで区別されることで、えさを十分に食べられるように配慮されています。
体重の測り方が少し変わっていて、体高と前足のすぐ後ろの胴回りを測りそれらから算出されて、体重を推測するのです。家畜用の体重計で測っていたときもあったそうですが、牛が光っているものを嫌がったり、体重計の上で滑ったりするそうで、現在の方法を採用したとのこと。
当日放牧されていた筑北村で酪農を営む宮下隆文さんは、放牧する時に「大きくなって帰って来いよ」と声をかけて送り出すそうです。まるで、遠くの学校に子どもを通わせる親のようですが、嫁に出すという気持ちではなく、帰って来いよというところが、冬にはまた戻ってくる放牧らしいといえばいえるでしょう。
牧場での牛たちの生活
彼女たちは毎日、草を食べたり水を飲んだりを繰り返し、お腹一杯になると安心できる木陰などで休みます。ここで重要なのが塩だそうで、肉食動物は肉から摂取できるものの、草食動物の牛は、草を食べているだけでは塩(ナトリウム)を摂取できません。塩が欠乏してしまうと死に至ることもあるので、生きていくために必要な塩は、毎朝人間があげることになります。
野生動物は、川などの泥をなめて塩を摂取するそうですが、ここでは野生のカモシカやシカがちゃっかり訪れては、塩をなめてしまいます。その塩を食べさせる場所が「塩なめ場」と呼ばれる場所です。牛の糞に混じって、そういった野生鳥獣の糞も草原には、落ちていました。
左が野生のカモシカの糞 右が野生の鹿の糞
また、今回のように台風などによって雨や雷がひどい時には、牛たちはくぼ地や木の下に入ってじっと天候がよくなるまで待っているそうです。確かに、訪れた時には大雨だったため、放牧されている牛がいるはずなのに、ほとんど姿は見えませんでした。天候の良い時は、牧場の中で牛をたくさん見れます。
美ヶ原高原に行きませんか
放牧場のある美ヶ原高原は、県内の観光名所のひとつとして有名な避暑地でもあります。標高は2000メートルもあり、高山植物の花も沢山見られます。茅野市から美ヶ原高原に通じるビーナスラインも今年はすでに開通しています。周辺には、美ヶ原高原美術館もあり、360度のパノラマ展望が楽しめて、天気が良ければ富士山まで見える王ヶ頭があり、そこには露天風呂のあるホテルもあります。
山道を登っていくと急に開けた感じになりますが、途中では未だ残雪が少し残っていました。今は少し肌寒いですが、節電が求められる今年の夏の避暑には最適でしょう。この日は、放牧祭だったので特別に鹿肉を使ったカレーライスとやきそばが振る舞われました。放牧場近くの山本小屋ふるさと館では、そのままの牛乳や牛乳を使ったラーメンなどの食事ができます。なかでもソフトクリームは是非食べて欲しいもののひとつですね。さすが牧場といった感じの濃厚な味です。
まもなく高原では高山植物もいっせいに花を咲かせます。きっとすがすがしい空気に包まれることでしょう。青々と茂った牧草の中でお母さんになる準備をしている牛を見ながらゆったりした時間を過ごしに行ってみてください。あたりに落ちている牛の糞を踏まないように注意してください。暖かくなるこれからはとても良い季節ですから!
参考サイト:
・美ヶ原高原観光協議会