おり姫星と彦星に捧げるこの特別な食べもの

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近ごろは天の川の見えない土地が増えたと言いますが、8月の今ごろの晴れた日、信州の高原では夜空を見あげると天の川がよく見えます。この天の川の中にひとつと、川をはさむようにふたつの、計三つの明るく輝く星があります。夏の大三角と言われる星です。天の川のなかでひときわ明るく輝いているデネブ、川の東岸にアルタイル、西側にベガ。この天の川で間を裂かれているベガとアルタイルが、説話で言われるおり姫星(ベガ)とひこ星(アルタイル)です。七夕の話しはご存じですよね。信州では七夕を月遅れや旧暦で祝います。月遅れの七夕だと8月7日ですし、旧暦の7月7日は8月16日にあたります。長野県内のある一部の地域では、夏から秋に変わろうかというこの時期にだけ食べられている地元の風土が生んだ郷土食があるので紹介しましょう。

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七夕ほうとうという風習
県の中心に広がる松本盆地にある松本市野溝。現在この集落の南側は田んぼを中心とした耕作地があり、この耕作地を取り巻く地域は市街化が進んでいます。しかし50年ほど前にさかのぼれば、この辺りは多く麦を作っていました。麦畑が年月を経て田んぼにかわり、しかしまた最近の生産調整の中で再び麦を栽培するところが増えてきているのですが、この土地では旧暦の七夕に「ほうとう」を食べる習慣があります。

山梨のほうとうとは別物
今は、勤めに出る人が多くなり、決まった日に行っていませんが、以前はお盆を迎えるために8月7日の朝は、隣近所、親戚総出で先祖代々の墓を掃除して、これが終わって家に帰って来ると朝食はきまってこの「ほうとう」でした。ほうとうというと、小麦粉を練ってざっくりと切った麺を野菜と共に味噌仕立ての汁で煮込む、あの山梨県の郷土料理を思い浮かべる人がほとんどでしょう。小麦粉を原料に、棒状のうどんを平らにのしたような平べったい形にするところは松本地域も同様ですが、そこから先は別物です。松本のほうとうは、あんこで絡め、少し冷やして食べる清涼感のある甘い食べ物なのです。

茹でた麺を冷ましたものに、水をかけてくっついた麺をほぐした後、水をよく切って、適当な大きさの器の中に入れて、あずきあんこ(またはあんこ)と絡めます。絡めるあんの量が多過ぎるとしつこくなるので要注意です。また、麺は切れやすいので、箸などで絡めるのではなく、手で混ぜることが鍵。そうして混ぜたものはご飯茶碗などによそっていただきます。

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麺は滑らかでもちもちとした食感で、またあんこにはあらかじめ砂糖が入っていますが、塩をちょっと加えて甘さを抑えたり、また加えるあんこの量を少なくしたりして、各家庭が我が家の味に調整します。そしてこれと一緒に、刻んだネギを乗せた豆腐とナメコの具の入った味噌汁をすすると、あずきあんこの甘さと味噌汁の味噌の塩気が適当に相まって、最高においしくいただけるのです。地区の人たちはこれをいただくと「今年もお盆が来たな」と感じます。

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一般的には白い麺ですが、最近はヨモギ入り風の麺もあったりして、見た目も楽しませてくれます。現在はこの時期になると、地元スーパーなどで麺とあずきあんこがセットになったものがほんの数日間だけ販売されます。さらに最近は旧暦だけでなく新暦の7月7日頃にも販売しています。

小麦がとれるこの土地だから
この松本市野溝周辺の「ほうとう」(「七夕ほうとう」とも言います)、地元松本市立博物館に聞いたところ、文献に記録がないのではっきりしたことは分からないとしながら、以前は小麦の収穫時期がこの頃で、それを祝って食べはじめたのではないかとのことでしたが、いつ頃からかははっきりしないということでした。また、ほうとうを食べている地域も松本市街地の範囲で、郊外ではあまり食べられていないのではないかと教わりました。

とにかく文献にも明確な記述がなく、はっきりしていない謎めいたほうとうですが、年に1回、彦星と織姫が出会う日に食べるというところは、ロマンチックさも感じさせてくれるのです。そして地元の人にとってはこれが昔からのお盆前のおいしい地域料理(おごっつぉ)なのです。ほうとうのうどんが手に入るのなら、ぜひお試しください。

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