お盆ですね。先祖を迎えるお盆に欠かせない花といえば、やはり「菊」でしょうか。諏訪湖から八ヶ岳山麓まで標高760m〜1200mの地域にあるJA信州諏訪のエリアは、色鮮やかで高品質の菊が栽培されている地域。今週末からのお盆入りを直前に、今、信州から関東、関西、中京エリアへと菊の出荷作業は多忙を極めています。
八ヶ岳西麓、標高1150mの富士見高原で菊を育てる田中学(たなかまなぶ)さん(42歳)は出荷準備に忙しい手を休めて教えてくださいました。
「6月初旬から始まった出荷は、お盆の今ごろがちょうど折り返し地点。お彼岸が終わる10月上旬くらいまでが出荷のシーズンとなります」
田中学(たなかまなぶ)さん
品質のよい菊の花を育てる
「一生かかっても追い抜くことはできないと思います」と、きく専門部会の部会長を務める田中さんが心から敬意を表すのが、奥さんの父・小池左内(こいけさない)さんです。義父は当地で半世紀近く菊作りに携わるベテランで、田中さんが師事して菊作りをはじめてから今年で5年目になります。職人気質で無口な義父。その義父から継承していることがあると、田中さんは言います。それが「花の色や花が開いた時の姿まで含めた、品質の良い菊を育てること」でした。
JA信州諏訪管内をはじめ、田中さんが育てる菊は、1本に1輪の花が咲く「輪菊」です。生長に合わせて側芽(わきめ)を摘みながら頂上の1輪を咲かせる種類のため、とても育てるのに手間がかかります。しかし近年は、側芽が少ない品種を取り入れることで、栽培も省力化されてきました。時代の変化とともに省力重視の品種が増えています。しかし田中さんは言います。
「義父をはじめ先輩方は労力を惜しまず質の良い花づくりをすすめてきましたから、品質の良さはこれからも維持していきたいと思います。また、この辺りは昼夜の寒暖差から生まれる色の鮮やかさが違いますからね」
これはお盆用に出荷される赤い菊の「紅久(こうきゅう)」
風土と生産者の意識レベルの高さ
JA信州諏訪の管内では、生産者138人が約28・5ha(そのうち輪菊が92%)で栽培し、今シーズンは900万本の出荷を予定しています。色は黄色が約6割、白と赤がそれぞれ約2割で、黄色が多くを占めますが、季咲きのため「黄色」と一口に言っても「サマーイエロー」や「千穂(ちほ)」「笑の東(しょうのあずま)」と色味の幅は多彩です。JA信州諏訪営農部富士見町営農センターで花卉を担当する柳沢輝佳(やなぎさわてるよし)主任は「昼夜の寒暖差が育む色の鮮やかさはもちろん、生産者の意識レベルの高さから生まれる品質の良さも自慢です」と、濃い緑色の葉も含めた上質な菊に自信を見せました。
菊の切り花は、こまめに水替えをすると長持ちします。また、茎をハサミで切るのではなく、手折りすることで断面積が大きくなり、水揚げがスムーズになるとも言われています。お盆やお彼岸には、八ヶ岳の麓で育つ色鮮やかな諏訪の菊をお忘れなく。