日本三大遺跡のひとつでありながら、長野県民にもその全貌をあまり知られていない、貴重な遺跡を訪れました。その遺跡があるのは、県中部に位置する塩尻市です。
塩尻市街地から南西に数キロほどの比叡ノ山には、その清らかな水を縄文時代からたたえているといわれる「平出の泉」があります。湧き出た水は、渋川に流れ込み、その川の流れに沿って東西に長く帯状に遺跡が残されています。これが、縄文時代から平安時代に形成された大集落「平出(ひらいで)遺跡」です。
遺跡を通じて自然と歴史にふれあう
「平出遺跡公園」
昭和25(1950)年に始まった遺跡発掘により多くの土器や石器が出土し、昭和27(1952)年に国史跡に指定された平出遺跡公園。「五千年におよぶ平出の地」をテーマとして整備されており、縄文時代中期の村を再現した「縄文の村」をはじめとする復元遺跡は、縄文・古墳・平安と、それぞれの時代を生きた庶民の暮らしを伝えてくれます。
平出遺跡公園に隣接して、平出博物館歴史公園があり、考古博物館では平出遺跡の出土品を観ることができます。今回は、この考古博物館を中心に、平出遺跡の魅力に迫ります。
平出博物館で出会う古代人の豊かな世界
今年も実りの秋となりました。
本格的な米づくりが行われたのは弥生時代といわれますが、当時の人々が充分な食料を確保し、餓えることのない毎日を送ることはとても難しかったことでしょう。
なんとか平穏な生活が出来るようにと願い、祈り、ささやかな収穫に感謝することが、祭りの始まりですが、祭りの存在が推定できるのは、縄文時代からだったといわれます。
その祭りに使われたのでしょうか、平出博物館には土で作った鈴「土鈴」が展示されています。日本で形として残っている最古の楽器は、縄文時代の土鈴です。この鈴が奏でるのは、遥か5千年前の音ということになるでしょうか。
古代の暮らしに響く音
平出博物館の館長、小林康男さんは「音、音楽は神に訴え、願うためのものでした」と話します。
「そもそも音楽は、狩猟や農作業を行うとき、皆で力と呼吸を合わせた、掛け声や仕事の歌が始まりだったと言われています。それは楽しみのためではなく、耕作や平穏無事な生活など、人の力ではどうすることも出来ない事柄を、音や音楽によって神に訴え、願うためでした」と。
平出博物館のロビーには、複製された縄文土器に鹿の皮を張った太鼓が幾つか置いてあり、実際に叩くことができます。結構いい音がしますよ。縄文時代、こんな音が集落中に響き渡っていたのでしょうか。
季節の折に鳴り響いた銅鐸
そして、次の弥生時代に登場してくるのが銅鐸(どうたく)です。
金属的な音で、どこかお寺の鐘のように感じますが、この平出博物館に展示されている柴宮(しばみや)銅鐸も、米がたくさん取れるようにとの祈りの際に鳴らされたようです。
「柴宮銅鐸は、緑青(ろくしょう=銅が酸化されることで生成する青緑色の錆)のために、今では緑色をしていますが、作られた当初は、黄金色に輝いていました。それまで金属の輝きを知らなかった弥生の人たちは、輝いたピカピカ光る銅鐸の輝きを初めて目にした時、さぞやビックリし、自然と頭(こうべ)を垂れたのではないか、と想像できます。銅鐸は、季節の折々、米づくりの節目節目に持ち出され、ガランガランと鳴らしながら祭りが行われていたと考えられています」と小林館長。
古から続く人々の思いを大切に
縄文時代から神に届けと鳴らした音は、じつは今でも残っていると小林館長は言います。
「みなさんが神社にお参りした時、社殿の前で、鈴や鰐口(わにぐち)を鳴らして願い事をし、亡き人の仏前では、木魚などを鳴らして供養しています。現在でも、縄文由来のあの世とこの世をつなぐ音がまだまだ身近に残され、大切にされていることが分かります」
秋祭りの音がどこか懐かしく感じるのは、古(いにしえ)の縄文の人の思いを現代に伝えてくれているからかもしれません。そう思うと、古代から伝わる貴重な楽器も、なんだか身近なものに感じられてくるのです。
「住む場所と物を作る場所、そして、信仰の拠り所となる場所と死後の世界、というのを、時代を超えて現在私たちが住んでいるこの場所の中に想定できる。これだけの環境が残されているというのは、それほどたくさんはありません」。小林館長は、平出遺跡の素晴らしさをそう教えてくれました。
広々とした園内からは、北アルプスの峻峰を望むことができ、周辺には散策スポットもそろっています。5千年の時を遡り、現代の私たちに大切なことを伝えてくれる平出遺跡公園と平出博物館歴史公園で、太古の世界に思いを馳せてみませんか。
※取材協力:塩尻市農事放送農協
◇平出遺跡公園
住所:塩尻市大字宗賀388−2
電話:0263−52−3301
◇平出博物館歴史公園
住所:塩尻市大字宗賀1011−3
電話:0263−52−1022
定休日:月曜日、祝日の翌日、年末年始