おたぐりは信州伊那谷のローカルフード

おたぐり

おたぐりとは、馬のもつ(腸)の煮込み料理のことで、飯田市や伊那市など伊那谷のローカルフードです。馬は草食動物ですから腸が長く、20〜30メートルもあるそうです。下ごしらえでは、腸の内容物を取り出して、塩水などできれいに洗いますが、その際に腸をたぐり寄せながら洗うことから「おたぐり」と呼ばれるようになったとか。

馬肉料理は、長野県と熊本県が有名ですが、馬の内臓を食べるのは長野・熊本・滋賀・奈良・山梨・北海道の一部だけだそうです。そしておたぐりは長野県でも伊那谷だけ。ちょっとクセのあるにおいがあるため、好き嫌いが分かれますが、酒のつまみに最高というファンも多いのです。塩味・味噌味・醤油味など、店や家庭によって味付けはさまざまです。

馬とのつきあいが長い地域
伊那谷は、歴史的にも馬との関係が深く、古くは大和朝廷への馬を献上していた産地と言われます。伊那谷を抜ける三州街道では、中仙道の脇往還として江戸時代から鉄道開通まで、馬による物資輸送が盛んで、馬の飼育頭数が多かったため、馬肉やおたぐり、さくら鍋といった食文化もあるのです。

おたぐりのはじまりは大正時代
長野県でもっとも多く馬が飼われていたのは、1887年(明治20年)の72,547頭でした。その後、鉄道開通とともに農村に耕運機や小型トラックが普及し、農耕馬の減少に拍車がかかり、昭和30年には21,370頭、昭和40年には5,000頭を割り、昭和53年に400頭と激減しました。しかし、食文化は根強く残り、馬さしは中南信地区を中心に県全域で、そしておたぐりが伊那谷に残っているというわけです。

伊那谷で馬の内臓を食べはじめたのは明治時代後半で、商売として広まったのは、大正時代ではないかと言われています。飯田市松尾にあった肉屋が、馬の内臓を煮て出したことがはじまりではないかとのこと。安く肉が食べられるため、次第に食べる人が増えたようです。当時は、「おたぐり」と言わず「馬の煮付け」と呼んでいたそうです。

健康食品として注目される
おたぐりは、馬の腸を塩水で洗い大きな鍋に入れ、かまどで4〜5時間煮た後、30分ほど蒸して作られます。かまどで煮ないと美味しいおたぐりができないのです。ボイルされたおたぐりをそのまま食べても良いですが、味噌で煮込んでもつ煮のように食べたり、フライパンでにんにくと醤油(または塩)、みりんで味をつけて炒めて食べます。家庭によっては、野菜と一緒に炒めて食べるようです。おたぐりはコレステロールも少ないため健康食品としても人気があります。

そうざいのおたぐり

飯田市で現在おたぐりが食べられる店では、駅前の通称三角屋さんと呼ばれている〆清さん、三ツ輪食堂さんが有名です。伊那市では、これまた名物となっているローメン(羊肉入りの焼きそば)を出す居酒屋では、たいていはおたぐりも出しているようですが、近年ではもつ煮(豚・鳥など)とおたぐりが混同されている場合もあります。駅前の板屋さんや、えちごやさんが有名です。えちごやさんの精肉店やA・コープ伊那中央店などで、家庭用にボイルされた馬の腸や惣菜としておたぐりが売られています。

伊那谷を訪ねた際には、ぜひお試しあれ。


おたぐりの食べられる店

■ 飯田市内
  •  〆清(通称三角屋)
    飯田市元町6425
    電話0265−22−2276
  •  三ツ輪
    飯田市通り町3丁目大横町25
    電話0265−65−1127
    地方発送もあり

■ 伊那市内

  •  有限会社板屋精肉店
    伊那市伊那西町春日町第一4873
    電話0265−78−2498
  •  えちごや
    伊那市伊那坂下入舟町3308
    電話0265−72−2503
  •  A・コープ伊那中央店
    伊那市伊那部4385−1
    電話0265−72−9644

参考図書「イロリ端の食文化」今村龍夫著、郷土出版社(1992年)

1170169200000

関連記事

信州で味わえるご当地丼5種を紹介します!
グルメ・カフェ

信州で味わえるご当地丼5種を紹介します!

ダチョウを追いかけて伊那市まで行く
お出かけスポット

ダチョウを追いかけて伊那市まで行く

伊那谷名物の手作り餃子はなにがちがうか?
グルメ・カフェ

伊那谷名物の手作り餃子はなにがちがうか?

ローメンこそ南信州は伊那の新しい郷土料理
グルメ・カフェ

ローメンこそ南信州は伊那の新しい郷土料理

新着記事