5月を2日後に控えた4月29日、昭和の日。4月ですがすでに五月晴れと言っていい青空の下、長野県南部の伊那市長谷中尾で「中尾歌舞伎」の春季公演が開かれました。中尾歌舞伎については前回の記事「江戸の美学を今に伝える農村歌舞伎春季公演」でお伝えしましたが、今回の演目は「絵本太閤記十段目 尼ケ崎閑居の段」。主君小田春長(織田信長)を天下万民の為と討ちとった武智光秀(明智光秀)とその家族を取り巻く悲哀の物語です。さっそく美しい天気のなか中尾座へと車を走らせました。
開演のときを待ち望む
青い空の下、鳴り響くお囃子の音色に誘われるように、続々と車がやってきます。県外ナンバーの車もちらほらと見受けられ、この「中尾歌舞伎」がすでに幅広く知られていることがうかがい知れます。公演が行われる「中尾座」は収容300人ほどの施設ですが、開演20分前にはほぼ満杯の状態。事前に聞いていた通り、立ち見も出るほどの盛況ぶりでした。開場を見渡すとやはり年配の方が多いですが、ちらほら若者や小・中学生の姿も見えます。みな今か今かと開演のときを待っています。
午後1時40分。開演とともに場内のざわついた空気が一変し、少し張り詰めた感じが漂いました。それでも、そこかしこでおにぎりを食べたり、おつまみを食べたりする様子がうかがえるのが、農村歌舞伎のおおらかな面といったところでしょう。
すべてが本格的な歌舞伎なのだ
舞台は、武智光秀の子、十次郎が、討ち死に覚悟で戦に出向くと母・操、祖母・皐月に伝えるシーンからはじまります。はじめて見る人はいきなりここで本格的な髷(まげ)や衣装に驚くことうけあいです。
十次郎の許婚(いいなずけ)、発菊との色模様の後、武智光秀、真柴久吉(羽柴秀吉)、加藤正清(加藤清正)らが登場し、舞台はクライマックスへと向かいます。要所、要所の見せ場では客席からおひねりが飛び交い、掛け声があがります。
しかも中尾座では本格的な「回り舞台」も備えており、場面展開のシーンで“くるり”と舞台が回ると、会場からは「おぉ〜」と驚嘆の声が。農村歌舞伎とはいえ、本格的な歌舞伎の雰囲気を十分に堪能することができるのです。
次期公演が楽しみですねえ
上演終了後には、観客との記念撮影が行われるなど、おおらかなところも地域に愛される、地域の歌舞伎一座のゆえんといえるでしょう。歌舞伎の元型を見る思いがします。かくして盛況のうちの公演を終えた2009年の中尾歌舞伎春季公演。次回の公演は今年11月1日に行われる秋季公演です。これは要チェックですねえ。
中尾歌舞伎へのアクセス:
中尾歌舞伎公式ホームページ