江戸の美学を今に伝える農村歌舞伎春季公演

kabuki.jpg

長野県南部の伊那市長谷中尾地区に、地元の人たちでつくる歌舞伎の一座があります。その名を「中尾歌舞伎(なかおかぶき)」と言い、なんでも江戸時代中期(明和4年=1767年)、だんだんと幕末にむかって江戸の不況が慢性化していくころに、この地を訪れて、上中尾の神さまを祭る神社の前宮で演じた旅芸人の一座から、村の人たちが歌舞伎を教わったのがはじまりと伝えられています。

それ以降、江戸末期、明治、大正、昭和初期に山の神を祭るときに盛んに公演が行われますが、やがて日本帝国による戦争によって中断してしまいます。それから時を経ること数十年。敗戦後の新生日本が経済成長をなしえた昭和61年、1986年に地域の青年たちが「地域を活性化する取り組みをしよう!」と歌舞伎保存会をたちあげ、この中尾歌舞伎という農村の伝統芸能にあらたに命を吹き込みました。

中尾歌舞伎はこうして生まれかわった
ですが、復活を掲げた当時の青年たちには、もとより歌舞伎の知識などはなく、作業は、ほぼゼロからのスタート。戦前に歌舞伎をしていたという地元の人に指導を仰ぎ、舞台の道具はメンバーが休日を利用して製作したのです。

復活公演は衣装もほかから借りてきての実施となりました。その後、ほぼ毎年の公演を重ねるうちに集落の理解も深まり、地元の美容院から衣装の提供を受けたり、個人、企業の協賛者も増えていきます。そして23年目を迎えた今、まさに地域全体で支える歌舞伎一座となりました。

関係者はすべて地元の人ばかり
中尾歌舞伎保存会のメンバーは、総勢30人ほどでJAや市の職員、会社員など地元の人たちで構成され、役者も裏方もすべて地元の人たちばかりからなります。老いも若きも男も女も全員で協力し、ひとつの舞台を作りあげているのです。そして、台本はというと江戸時代の旅芸人の台本を書き写したものが200年以上の時を超えて受け継がれており、それをもとに今も上演が続けられています。

現在、中尾歌舞伎は春秋2回の定期公演を行っています。会場は伊那市長谷中尾の「中尾座」。平成8年、1996年に完成した伝統文化伝承施設で、翌年には歌舞伎役者で十二代の市川團十郎さんを招いた落成こけら落としが行われました。

nakaokabuki_officialpage.jpg

この頃から地域外でも注目されるようになり、今では県外から観光バスでやってくるファンもいて、開場前には行列ができ、300人ほど収容の会場内は毎回、立ち見が出るほどの盛況ぶりです。

4月29日の春公演
中尾歌舞伎、今年春の公演は、今月下旬の4月29日(水)を予定しています。演目は「絵本太功記 十段目 尼崎閑居の段」。地元の人の熱い思いが詰まった農村歌舞伎を楽しみたいという方は、足を運んでみてください。

また飯島町在住の映画監督・後藤俊夫さんが撮影し、同じ天竜川流域の村歌舞伎に生涯をかけた役者のふたり(片岡孝太郎、片岡愛之助)を主人公にして、昭和10年の豊かな自然の残る南信州の伊那谷を舞台にした『Beauty うつくしいもの』という映画も、現在公開中です。

中尾歌舞伎にアクセスする:

中尾歌舞伎春季定期公演
演目:絵本太功記十段目 尼崎閑居の段
日時:平成21年4月29日(水)
開場:12時30分〜、開演13時40分〜(公演時間は約1時間30分)
   入場無料
場所:長野県伊那市長谷中尾363−5「中尾座」
(中央道伊那インターチェンジから車で1時間ほど)
中尾歌舞伎公式ホームページ
*お問い合わせは上記公式HPからメールでお送り下さい。

1240326000000

関連記事

農村歌舞伎を見て歌舞伎のなんたるかを知る
お出かけスポット

農村歌舞伎を見て歌舞伎のなんたるかを知る

伊那谷に残る黒田人形浄瑠璃を観てきました
お出かけスポット

伊那谷に残る黒田人形浄瑠璃を観てきました

新・信州暦 春が近づいているのを感じます

新・信州暦 春が近づいているのを感じます

幻想の大晦日 - 南信州除夜の竹宵
伝統行事・イベント

幻想の大晦日 - 南信州除夜の竹宵

新着記事