シリーズ 長野県農業のあり方を変える若き農業者群像 第2回
農業にたいする考え方が変化しはじめています。後継者不足が深刻だということは、これまでたびたび口にされてきました。しかし、長野県にも楽しくかつ真剣に頑張る若い農業者たちが出現しています。少なくともこの人たちは手を土まみれにすることを汚いとは考えていません。時代が激しく変わりつつあるいま、彼らがどのような考えで農業に取り組んでいるのか。若き農業者に登場してもらう不定期シリーズその第2回――
今回は、世界的に有名なスキーリゾートの志賀高原を抱える下高井郡山ノ内町の小野沢潤一さん(35)に登場いただきます。
小野沢潤一さんはエノキタケ、アスパラガス、ソリダゴ(花き)と複数の品目を栽培しています。先月(5月)下旬に訪ねると、人当たりの良い笑顔で出迎えてくれました。「今がちょうど一番暇な時期なんですよ」と笑って招き入れてくれた小野沢さんは、ホッとするような話しやすさを感じさせてくれます。さっそく、いくつか質問を投げかけてみました。
今が一年で一番手の空いている時期ということですが。
小野沢:昔は一年を通してエノキタケを作っていたんだけど、やっぱり夏場は価格が安定しないんでね。3〜4年前からエノキの生産を秋冬の半年にして、春夏はアスパラガスや、ソリダゴという花を作っています。今の時期はアスパラの収穫を終えて、花の出荷までまだ時間があるので、一年で一番暇になるんです(笑)。
いつかはと思っていました
農業をはじめたきっかけはなにだったのですか?
小野沢:大学を卒業して3年間は青果の卸会社で働いていました。うちはもともと農家だったから、「いずれは」という思いはあったんだけど、直接のきっかけは祖父母が二人揃って同じ時期に体調を悪くしたことですね。「そろそろ家業を継ぐ時期だな」と感じてはじめました。
本格的に農業をはじめて「大変だ」「つらい」と感じるときは?
小野沢:大変なこと? う〜ん、大変なことねぇ〜・・・そんなに大変なことはないかな〜。つらいとか感じることもありません。
きのこは結果が早く出るので面白い
では、逆に「楽しい」「やりがいだ」と感じることはどうでしょう?
小野沢:やっぱりきのこですかね。きのこは2カ月で結果が出るのが面白いんです。培地の成分や水分量、湿度の調整などをさまざまなパターンで試せ、多くの結果を得られます。そこから一番いいパターンを導き出していこうとしています。
農業に対する注目が高まっていることをどう思いますか?
小野沢:表面だけでなく「本当の現場の姿を知ってもらいたい」という思いがありますね。
農業に対するイメージもずいぶんと変わってきましたが、小野沢さん自身は昔と比べて農業のイメージが変わった点はありますか?
やるべきことをやっているのです
小野沢:子どもの頃はやっぱり農業に対して「嫌だ」というイメージを持っていました。この辺りは農業地帯で、ほかのうちも農家が多いのですが、それでも自分から「うちは農家だ」と胸を張って言うことはなかったのですね。でも今はもう自分の仕事です。「良いも悪いもなくやるべきこと」になっています。
今後の目標をどのように考えていますか?
小野沢:やはり経営を安定させることが一番ですね。品目にとらわれず需要のあるものに取り組みたいと思っています。
インタビューの後で 特徴的だったのは第1回に登場いただいた果樹農家、小林潤一さんと同じく、農業に対する苦労、つらさがないという回答でした。エノキタケの出荷ピークを迎える12月には朝4時から作業がはじまり、その日の出荷分が終わるまで続くのです。平均で1日600〜700キロ、日によっては1トンを出荷する日もあるというのですから、作業量は相当なものだと思えるのですが、それもつらさや大変さにはつながっていないわけです。若い農業者の農業観には、やはりなにかしらの変化が訪れているのかもしれません。
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