農業をはじめるなら30歳までに決めないと

シリーズ 長野県農業のあり方を変える若き農業者群像 第3回

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変わりはじめた農業観をさぐるために若き農業者の声を聞く不定期シリーズその第3回。今回紹介する松下隆明(まつした たかあき)さん(32歳)が働く中島養鶏場は、長野県のほぼ中央に位置する松本市の東山部、美ヶ原高原のふもとにあり、眼下に市街地、その向こうには北アルプスを望む眺めの良い場所です。ハーブ入りの飼料で育った「信州のたまご」の生産認定農場で、約2万5000羽の鶏と信州ブランドの信州黄金シャモを飼育しています。松下さんは、同養鶏場の研修生として働きはじめて1年2カ月。養鶏と並行しながら、鶏糞を使った肥料を生かす水田と畑の農業を行い、新規就農者として自立への第一歩を踏み出していました。

農業をはじめるきっかけはなんだったのですか?

松下:調理師免許を持っているので飲食店に勤務したり、また別の仕事をしたりしましたが、以前から畜産をやりたいと思っていて、県農業大学校畜産試験場の実科で畜産のことを1年間学びました。その後、農業の先輩方から経験談を聞く中で「農業をはじめるなら30歳くらいまでに決めた方がいい」とのアドバイスをもらい、実家が近所でもあることから中島養鶏場代表の中島昌志(なかじま まさし)さんにお世話になることになりました。妻の理解が得られたことも後押しになりました。

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師匠の中島昌志さんと

今の仕事を教えてください。

松下:ここに研修生として入ったのは2008年7月から。「これから新規で農業をはじめるならリスクの大きい畜産よりも畑の作業から」という中島さん(養鶏場のオーナーで松下さんの師匠)の助言もあって、今は水田と加工用トマトの栽培をしています。田畑の作業の合間には、飼料の補充や出荷など養鶏の作業も行います。

農業の経験はありましたか?

松下:実家も農家ではなかったので、まったくありません。両親が家庭菜園をやっていたので、農作業の大変さは知っているつもりでした。でも、種をまいたり苗を植えたりすれば自然に、普通に生長するものだと思い込んでいたんですよね(笑い)。まったく違っていました。面倒を見てやらないと育たないんですよね。それに、農作物の栽培のチャンスは1年に1回だけ。今年のように不順な天候の年にはじめたので、果たして今年の出来が良いのか悪いのかさえ、判断ができない状態です。でも、今後のために、気温や天候、作業内容を記した農作業の日記はつけています。

農作業は大変ですか?

松下:春先は小松菜の土壌づくりからはじまり、苗の種まき、トマトの定植、田植えと続き、夏場は小松菜やトマトの収穫、秋の稲刈りと作業が目白押しです。その間に追肥や株分けなどもしなくてはなりませんから、体力的には大変です。でもストレスはありません。それに毎日違う作業内容となるので、どの仕事も新鮮です。

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これからの目標は?

松下:来年はさらに新しい作物を予定しています。3年を目途に自立して、農業収入だけで生計をたてたいと思っています。養鶏場から出る鶏糞を使った肥料を使った土壌づくりで、病気になりにくい野菜づくりをするなど、できるだけ近くのものを生かした農業をしていきたいと思っています。自分で作った農作物を使って、飲食店を開く夢も持っています。今、自分はJA松本ハイランド青年部の中では後継部の副部長の役割も担っています。市内の保育園を訪問して農産物をPRするなど広報することも仕事のひとつです。また、これからは、新規就農を希望する若い世代が、作業や経済的な負担を感じずに意欲的に取り組めるような体制づくりができればいいとも思います。農作業の技術的なことなど、閉鎖的な部分をなくして、地域全体が新規就農者を育てながら、「産地」として農作物を作れる環境になっていけばいいと思っています。


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