100体の案山子(かかし)が待っています

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上田市ホームページ・稲倉棚田の案山子まつり案内より

稲がしっかりと実を結び、その実が日々膨らみを増しています。先ごろ長野県東部の上田市では案山子(かかし)づくりが行なわれました。案山子といえば、以前は鳥などを追い払う脅し役でしたが、頭のよいカラスなどの鳥たちは動かぬ案山子などの人形を、危害を加えないものとしてその脅し効果をすっかり見破り、おかげで人間はキラキラと光るテープや仲間のカラスの死骸の模型など次々と策を講じて対抗するなど攻防戦が続き、その結果、今では案山子を目にすることも少なくなりつつありますが、秋の田んぼに立てられた案山子は、昔から稲穂が実る時期の日本の風物詩であり、1-R0011996.jpgさらに現代では、人びとを呼び集める見世物としても復活を遂げてきているようです。

この案山子づくりは、1999年(平成11年)に「日本の棚田100選」に選ばれた上田市殿城地区の“稲倉の棚田(いなぐらのたなだ)”を守っていこうと取り組む稲倉棚田保全委員会が呼びかけて開かれました。30ヘクタールに780枚もの大小さまざまな棚田が、川をはさんで両側に約2.5キロメートルに渡って谷あいから山裾を登りながら、標高差約260メートルに連なって自然に溶けこむように広がり、地区全体の保全への取り組み活動に賛同する地元の子供から大人までのボランティア、さらに田植えや草刈りなどの体験学習に訪れる県外の学生たちなど、たくさんの関心ある人たちに見守られている棚田です。

今時のかかしさんは超リアル
実際の案山子づくりですが、昔風の竹を組んで浴衣を着せた、ヒョロヒョロの案山子さんが記憶に残っている人もあるかと思いますが、近頃の案山子は想像を超えていまして、実に現代的でリアルそのもの。後姿からでは、「あれは人間か?」と見間違う程。

2-R0012008.jpgそんな案山子の作り方を教えてくれたのは、地元で小学生から大人まで多くの人に案山子の作り方を指導する、稲倉棚田保全委員会の委員で、案山子プロジェクトチームのメンバーでもある飯田きみ子さん。自宅でリンゴを作っている飯田さんは、そのリンゴを狙ってやってくる鳥を追いはらうために考案した案山子が大勢の人の目に留まり、人々にその案山子の作り方を教えるようになったのです。長年作り続けたなかでの経験をもとに改良を重ねた作り方なのだとか。

まずは胴体として、肥料袋等のような丈夫なビニール袋を使います。その中にちぎった発泡スチロールを詰めます。頭は針金を軸に周りに新聞紙を幾重にも丸め、上からビニール袋を被せて形を整えて、さらにその上にストッキングをかぶせれば、まさに日本人の肌色をした案山子の顔の土台ができあがりです。そして手と足をつけ、家から持ち寄った洋服を上からすっぽりと着せれば、多少いびつな形も見事に変身して、ひとりの、いや一体の案山子の完成です。

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案山子はなんにもいわないけれど
参加者は「難しいけど、楽しい」と口々に言いながら、思い描いた形にするのに苦戦しつつ、若い人から年配者まで案山子づくりを楽しんでいました。完成作品には、まさに時の人である戦国武将の直江兼続がこの稲倉の棚田にやってきたことをイメージしたというお侍姿の案山子など、見ていて楽しいものもありました。地元の小学校ではこの案山子づくりを授業で行なうなど、案山子づくりは地元の名物にもなっているそうです。

5-R0011978.jpgこれらの案山子たち、なんとも珍しいのが一体一体がメッセージを携えているところでしょうか。これも飯田さんのアイデアで、今年のテーマは「食と農と環境」について案山子の作者が思うことを、案山子のつぶやきとして(ツイッターですね)、田んぼに立つ案山子に掲げているのです。そんなつぶやきのひとつひとつに耳を傾ければ、「ばあちゃんは食育の無形文化財」「母が教えてくれた“もったいない精神”僕がこぼしたご飯粒を拾って、母は食べてくれたっけ」「文化的景観としての棚田、素晴らしいとみんなに褒めてもらえるけれど、耕作し続けることがなぁ〜、容易じゃねぇだぁ〜」など、つい読みふけってしまうものがたくさんあります。「今は稲倉棚田にある“案山子街道”の場所にしか案山子が立てられていないけど、夢はこの棚田をもっと案山子でいっぱいにすることです」とプロジェクトの会長の小菅雄三(こすげゆうぞう)さんは、話してくれました。

このようにしてできあがっていく総勢約100体の案山子が並んで、みなさんのおこしを待っている第8回目の稲倉の棚田の案山子まつりは、稲倉棚田の大通り(通称:銀座通り)で10月上旬まで開催されています。

稲倉棚田の案山子まつり

稲倉の棚田トップページ(上田市公式ホームページ)

稲倉棚田案山子まつり(平成21年)

稲倉(上田市)棚田へのアクセス地図

日本の棚田百選

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