花井さんの農事録
[花井さんの農事録]

須坂の4つの季節を巡る農事録 




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紅葉が低地へと移り、
あちらこちらで
赤や黄の景色が
楽しめるようになりました。

プルーンの畑を訪れると
黄色に変化した葉が
光を拡散させ、
あたり一面が
華やいで見えました。

地面に散った
乾き切っていない葉と草の
ふんわりとした感触が
なんだか懐かしく、
あぁ
また次の季節が巡ってくるのだな、
と感じます。



 

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ここへ来てようやく初冬らしい気候になり、氷点下を迎えるのもそろそろかなというこの頃。わが家もついに最終のりんご「サンふじ」の収穫が始まりました。


収穫直後のりんごはナイフを少し入れただけでぱりぱりっと亀裂が入り、かじれば果汁が弾けるように溢れてきます。無類のりんご好きとまでは行かない私でも、ちょっとした一服に畑で頬張るりんごはまた格別です。特に酸味と甘みを合わせ持つ「シナノゴールド」の濃厚な食味は何度体験しても、それ自体がまるで奇跡のように思えるのです。


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どんなスイーツにも負けない

ャキシャキとした歯触り、ジューシィさ、きちんとした酸味、そして甘さ。農家はいつもこのような「とれたて」を味わうことができますが、一般に流通しているりんごはどんな味になっているのでしょう?おそらく、私たちが思う「食べてもらいたい味」からは遠く離れてしまっているのがほとんどではないかと想像しています。農家がどんなスイーツにも匹敵するほどの味をりんごに感じていても、実際においしいものが出回っていない限り、世の中の数あるおいしいものの中でりんごというスイーツが存在感を示せないのは当然のことです。


おいしいりんごを食べたい人がいて、おいしいりんごを食べてもらいたい農家がいる。なのに、それがもっと身近な場所で実現しないのはなぜなんでしょう。産地から売場への距離を考えれば、ある程度の時間が経過するのは仕方のないことだとは思います。ただ、鮮度は日々落ちていきます。しかも売場に並べられたりんごがいつ収穫されたものか買う人にはわかりません。寒い季節に穫れるりんごは貯蔵性に優れると言われ、工夫次第で冬の間も楽しむことができますが、やはりどんな食べ物にもおいしさのリミットはあるのです。


「とれたて」の感動を届けたい

いしいもの、すなわち『本来の持ち味が保たれているもの』を届けるには、作る人、売る人(さらにはその中間にいる人)それぞれの立場での努力が必要です。農家はおいしいものを作る精度を上げ、流通では作物に適した保管と売場に並ぶまでの日数短縮を、店頭では作物に適した管理と売り方を。なんとかしておいしい状態のまま届けたいという誠実な気持ちの元にこれらが実行され消費者の口に入った時、私が畑で食べる時と同じような感動がその人にも訪れるかもしれません。それこそが農家の作り甲斐であり、少なくとも私たちはそんなりんごを作って食べていただきたいと願っています。


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晩成種への特別な想い

んごにも色々な品種がありますが、とりわけこの時期の晩生種には特別な想いがあります。6月の仕上げの摘果を終えてから10月の葉摘みが始まるまでの間、特に手間のかかる作業はありませんが、猛暑や台風にこちらはハラハラしながらも、りんごはたった直径5mm程度の太さのへたで枝と接し、半年以上もただ耐えて過ごします。その日々を春に生まれた子どもと長く過ごしているようで、なんだか愛おしいのです。


この冬、おいしいりんごに出会えたら、どんな風に育ったのだろう?とぜひ想像してみて下さい。


それでは、今回はこのへんで。

 

この記事を書いた人

花井かおりさん

花井かおりさんは長野県北部の須坂市で、ご主人とその両親との4人で農園を営みます。就農したのは6年前。もも、プルーン、りんご、ぶどう、そしてアスパラガスといった果樹や野菜の多品目栽培です。「地に足をつけた暮らし」をいとおしみ、母屋のそばに建つ小さな家とともに「生活の延長線上に仕事がある生き方」を楽しみつつ、農とそれにかかわる自己を見つめるかおりさん。彼女の4つの季節を巡る農事録です。

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